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其ノ13 山菜パラダイス

 窪地を上っていくと、背の高い雑草が生い茂る中に琳が持ってきた葉と同じものが生えている区画があった。明日葉と思われるものが一か所に群生していて、周りの細長い雑草とは醸し出しているオーラが違う。


「あれです殿っ」


「おお~、かなり立派だな」


 近くに寄ってみるとその大きさは俺の背を軽く超えていて、その巨体を支える茎や幹も太くしっかりしている。大きな葉っぱは太陽の木漏れ日に照らされて、カサカサと軽い音を立てて揺れていた。


「こりゃうまそうだな」


 実際食べたことはほとんどないが、青々と茂っている明日葉は見ていてとても食欲をそそる。何枚か手ごろな大きさの葉をちぎっていくが、明日葉の黄色い液がズボンに飛んでしまってシミになってしまい、手もかなりベトついていて気持ち悪い。俺は少し嫌な気分になりつつも明日葉を摂り、数日は持つであろう量をビニール袋に詰めることができた。

 

 俺が採っている間にも琳は周辺を捜索していて、細長いネギのようなものやフキの葉っぱなども見つけてきた。俺は案内された場所で食べられるだけの量を採っていくが、中には本当に食べられるかわからないものも見つけてくることがあって、


「これ……食べられるのですかね……?」


「どうだろうな……」


 と、二人して顔を合わせて悩みつつも、明らかにおかしいもの以外は念のため採っておくようにした。持ち帰ってから調べればいいので、今話とりあえず物を沢山手に入れることに力を入れていく。


 また少し離れたところで琳が地中に潜って何かを探していて、俺が四つん這いになって地面に生えている草を見ていた時に目の前に急に頭だけぴょこっと出し、


「あちらにすごいものがありましたよっ!」


 と、俺をびっくりさせてきた。

 琳がかなり興奮していたので何事かと思って行ってみれば、なんとも立派な自然薯の太く長いつるが木に巻き付いて伸びていたのだ。琳曰く、この下にかなり長い芋が埋まっているらしいが、今日は土を掘る道具を持ってきていなかったので仕方なくつるについていたむかごだけ取って帰ることにした。


 一日中森を散策したお陰でかなりの量の山菜と果物が採れ、持ってきた袋やバッグはパンパンになって今にもはち切れそうになっている。袋の中には得体のしれないキノコや草も入っていたが毒草ではないことを祈ろう。


「こんなもんかな」


「沢山採れましたねっ!」


「これで二日くらいは持つだろう。帰って飯にしようか」


「楽しみです~!」



 日が落ちきる前に家に帰ってきて、まずは採ってきたものの整理から取り掛かる。判別がつくものとつかないもので分けていき草やキノコ類も同時に分別していく。


「――……んで、結局わかるのが明日葉とフキとキイチゴとシイタケと自然薯のむかご。あとは……」


 台所に積まれた野菜と机に盛られているよくわからない草たちを見比べて、無計画に摂りすぎた自分を恨みたくなった。


「これ、全部わからないのですか?」


「帰ってから調べようと思ってたんだが、この量はちょっと……」


「そう、ですよね……」


 琳も改めて自分が探し当てたものを見て、そのあまりの量の多さに圧倒されている。


「私が自信をもってわかるものも少ないですし……どうしますか、これ?」


「……待ってろ、今全部調べるから」


 そう言ってズボンのポケットからケータイを取り出して夏の山菜を片っ端から調べ始める。流石に調べずに全部捨てるのはもったいない。

 琳はその間、山積みされた草たちを種類ごとに並べなおす作業を行っている。


「これは……ウワバミソウ。食べられる。これは……ヤブレガサ。へぇ、あまりおいしくないのか。これは……げっ、トリカブトじゃねえか!! なんでこんなもん入ってんだっ!?」


 ケータイとにらめっこしながら、あーだこーだ言っている雅稀の背中を優しく眺めながら琳は微笑む。


「その"けーたい"というものは便利ですね。色々なことがすぐに分かっちゃうのですから」


「ん? あぁ、便利だな。今は一人一台これがないと生きていけないからな」


「私の生きていた頃にもあればよかったです……」


「それは無理な話だ。電気もパソコンもないんじゃ作ることすらできないからな」


 俺がバッサリと否定すると、琳はむくれた顔をして、「そーですね~」と口を尖らせふてくされたような態度で返事をした。それより仕分けは終わったのかと尋ねると、


「こちらはあらかた終わりました。ほとんどわかりませんでしたけど……」


 と、いくつか束になって纏められた山菜と、その他わからなかった物たちの山を指さして答えた。


「そうか、ならこっちの調べ終わったやつを台所に持ってってくれ。そのあとわからなかったやつを調べるから」


 琳は、「はーいっ」と気持ちのいい返事をしてせっせと言われた仕事をこなしていく。最近ではこうやって小さなことも手伝わせているおかげで意思の疎通もとれるようになり、生活面でもだいぶ楽になってきているのだ。



――……。


――……。


――……。



「これで……全部だっ」


 最後の草の調べが終わり、改めて台所に集められた今日の成果を確認をする。


「食べられるやつが……七種類。食べてもおいしくないやつが三種類。あとは……」


 机の下には無造作に置かれた黄色いビニール袋が床を埋めており、袋にはメモ用紙をテープで張っていて「キケン! 開けるべからず」と書いてある。


「……なぜこんなにも毒草が多いんだ?」


「さ、さあ……なぜでしょうね……」


 俺がおもむろに尋ねると、琳は俺の目を見ようとはせず明後日の方を向いて、何かを必死にごまかそうとしているような態度をとった。


「……お前、もしかしてわかってて入れたのか? それとも知らずに入れたのか?」


「わ、わからなかったものもありましたよっ!?」


「"も"ってことは、わかってて入れたものもあるんだな?」


「エ、エート、ナンノコトデショウカ……」


 自分で掘った墓穴に自らはまりに行ってしまい、急に喋り方がカタコトになった。額には冷や汗が滲んでいて明らかに態度がおかしい。これは明らかに確信犯である。証拠はこの態度だ。おまわりさん、コイツです。


「さりげなく俺を殺そうとするんじゃねぇーーーっっっ!!!」


「ご、ごめんなさ~~~いっ!」


 俺は琳に飛び掛かって、特大の垂直チョップを脳天めがけて振り下ろした。俺の手刀は見事に脳天にクリーンヒットし、琳は目から星を出して頭を押さえ、その場にしゃがみ込んで声にならない声を発しながら悶絶してしまった。


「なんでそんなことしたんだ?」


 涙目で頭を押さえている琳に問うと、「だってぇ」と前置きをしてから、


「殿も私と同じ幽霊になればお腹が空いて死ぬ事もないですし、殿ともっと一緒に入れると思ったのですぅ~……」


「だからって何も言わずに殺そうとするな! 第一俺はまだ死ぬ気はないし、彼女の一人でも作ってからじゃなきゃ死にきれないわっ! 頭湧いてんのかお前っ!!」


 幽霊の勝手な妄想のために、そう簡単に殺されてたまるかってんだ。ちゃんと彼女作って色々やるまでは、仮に死んでも死にきれない。それこそ怨霊にでもなりかねない勢いだ。


「罰として今日の夜飯抜きだからな」


「ええぇっ!? そんなぁ……」


「当たり前だろっ! 殺そうとしたやつに飯なんか作るかっ!!」


 その夜は俺一人が採ってきた山菜のフルコースを堪能し、琳は対面の席に正座して涎をたらしながら羨ましそうに天ぷらやおひたしを眺めていたが、一口たりとも分けてやることはしなかった。


 

 次の日も別の場所で山菜取りをして、結果数日分の野菜類が確保できた。特にねぎのようなノビルという山菜のおひたしはかなり俺の好みで、醤油と鰹節をかけたシンプルなつくりでも十分ご飯の友になる。山菜も意外と奥が深く、旬の時期にならないと姿すら見せないものもあるらしくお宝探しのようでとても面白かった。

 

 琳は初日に怒られて以来二度と毒草をちゃっかり混ぜてこなくなったが、代わりに美味しそうな木の実をたくさん採ってくるようになり、アケビを採ってきた時は頭をわしゃわしゃ撫でて褒めてやった。「えへへ~」と相変わらずの緩んだ笑顔で嬉しそうにしている顔は、見ているこっちも楽しい気持ちになるのでいいものだ。


 山菜のおかげでなんとか食糧難は回避できそうだが給料日まではまだ時間がある。俺は夜飯にノビルのおひたしを口にしながら次のプランを考えていた。








雅稀メモ:山菜美味い(特にノビル)


琳メモ:殿は毒草を見破ってしまうので死なない




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