亡失
父と母は過ちを犯した。
私を産み出したこと。
人間も所詮、動物だ。
増え続けるという本能に、誰も抗おうとはしない。
今日も増える。
特に理由もなく。
ただ、本能に基づいて。
そこに理性はない。
人間を人間たらしめるのは理性だ。
それが亡失すれば、人間は獣と大差がなくなる。
しかし、人間は獣となった。
獣からは獣しか産まれない。
理性が亡失した人間からは、産まれもって理性が亡失した子どもしか産まれないのだ。
父と母は過ちを犯した。
父と母は人間を産めなかった。
理性の亡失した獣。
私はそういうものだ。
でも、私だけではない。
誰もがそうだ。
この世界には、人間などいない。
私達は獣だ。
理性など、とうの昔に亡失している。
今や、一つ一つの命に理由などない。
産まれた意味など求めるだけ無駄だ。
それなのに彼らは頑なに人間と名乗り続ける。
彼らは、人間に成りたいのか。
亡失した、どころか始めから持ち得なかった理性を取り戻したいのか。
それでも。
彼らは今日も本能のままに生きる。
我らは人間だと声高に叫びながら。
本能のままに増え続ける。
産まれた理由も、生きる意味もない命が産み出され続けるこんな世界に。
理性は、どこにあるのだろうか。
ありがとうございました。