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第一機動護衛艦隊が太平洋で中国原潜と戦闘を繰り広げる2時間前、陸上総隊直轄水陸機動団は沖縄県与那国島から10キロ沖にいた。


水陸機動団、2016年に離島防衛を念頭に置いた日本版の海兵隊組織である。米海兵隊を模範としており、強襲揚陸艦やV-22 《オスプレイ》などを保有し、独自の航空部隊も組織されている。


本拠地は長崎県佐世保市の相浦駐屯地。その水陸機動団、第一中隊に所属する霧宮きりみや義嗣よしつぐ三等陸曹は、強襲揚陸艦 《みのう》に搭載されている水陸両用強襲輸送車7型《AAV7》の中へと乗り込んでいた。


「おい、霧宮」


「なんでしょうか伊達曹長」


89式自動小銃のマガジンを確認する霧宮の横に座る分隊長の伊達だて史哉ふみや三等陸尉が、唐突に声をかけてくる。


「そういえば、お前これが初任務だよな?」


「自分だけじゃないですけど」


霧宮の言う通り、このAAV7に乗り込むほとんどの隊員たちが、実戦を経験していない。これが、彼らの処女任務となっている。


「いいか?俺たちは日本の海兵隊、水陸機動団だ。任務は離島奪還、敵の殲滅だ」


「隊長、何かアドバイスとかありますか?」


「あぁ、てっぱちの顎紐は外しておけ、爆風で首ごと持ってかれるからな」


『こちら司令部、全部隊に通達する。現在の時刻は1200、これより水陸機動団は与那国島へ上陸、中国軍より島を奪還する。なお、与那国島レーダー基地ではすでに戦闘が始まり、多くの自衛官が包囲されている。上陸部隊は上陸後、町を奪還しながら北上、与那国レーダー基地へと向かえ』


「聞いたな!?行くぞ!」


「我ら水陸機動団!常に国家に忠誠!前線出陣!」


「出撃だ!」


《みのう》のハッチが開き、格納庫に待機していた25輌のAAV7が海上へと飛び出していく。AAV7は《みのう》の同型艦である《とば》に搭載されているLCACの出動を待ち、同時に海岸へと突き進む。


上空では、航空支援に駆けつけた空自のF-2支援戦闘機と陸自のAH-64D 《アパッチロングボウ》が、敵の待ち受ける海岸線に対して爆撃や機銃掃射を敢行した。


「上陸まで1分!」


「上陸次第総員下車!車両を盾にして前進だ!」


上空では、隊員を乗せた《オスプレイ》が海岸線に接近し、《アパッチロングボウ》の支援のもと、隊員を運び下ろしていた。霧宮の乗るAAV7は、比川浜の海岸線に接近すると、射撃しながら停車する。


「降りろ!降りろ!」


89式小銃を構えた水陸機動団の隊員たちが、次々と後部ハッチから砂浜へと飛び出していく。発砲音が鳴り響き、小銃弾が分隊へと降り注ぐ。


「敵!2時の方向にMGバンカー!」


「ガンナー、撃て!」


「了解!」


12.7mm重機関銃と40mm榴弾銃を装備したAAV7の砲塔が、敵が潜む場所へと回転する。両方の銃口から撃たれたグレネード弾と銃弾は、瞬く間に敵の攻撃を黙らせた。


「分隊前へ!」


伏せ撃ち状態から立ち上がった隊員たちは、89式小銃を構えて警戒しながら、砂浜を上がる。


「全員、車両と共に進め!」


「了解!」


AAV-7を盾に、隊員たちはドナン岳を前進する。目指すは、与那国レーダーサイトが設備されている与那国空港だった。


少し険しい山道を登る。伊達分隊は背後から空港の襲撃、いわゆる本隊から離れた別働隊である。本作戦の要となるのが、空港方位部隊への後方からの奇襲攻撃である。その為には、直接空港付近に上陸した部隊に合わせて、別働隊の伊達分隊が追いつかないといけない。


それほど、奇襲というのは難しいものだ。念密な計画と情報収集が、勝利の鍵となる。


伊達分隊は、与那国空港を側面から攻撃するため、比川浜から上陸し、直進ルートであるドナン岳を進んでいた。


すると、突然車両に銃弾が降り注ぐ。吸い込まれるような弾丸に気づいた霧宮たちは停車したAAV-7の影へと隠れる。


「待ち伏せだ!」


「降車要員は下がれ!狙われるぞ!」


隊員たちはお互いを援護しながら峠を離れる。伊達の言った通り、先頭で立ち往生してしまったAAV-7は敵の集中攻撃を浴びてしまい、最後には対戦車ロケット砲を撃ち込まれて爆発炎上してしまう。


「くそ!車両がやられた!」


「他の車両がやられる前に敵を殲滅する!霧宮、名張、武井は俺についてこい!」


「了解!」


銃弾が降り注ぐ中、姿勢を低くして横道へと入っていく。伊達の狙いは、車両攻撃に集中している敵を横から殴りつけることだ。霧宮はいつ何処から飛んでくるか分からない敵弾に怯えながらも、山道を駆け上っていく。


「分隊、停止。その場に伏せ」


伊達の指示で分隊はその場に停止する。身を低くして集まった四人の視線の先には、巧妙に偽装された陣地から下の車両部隊に攻撃を加える中国軍兵士の姿があった。


「手榴弾を用意」


四人は腰に付けていた手榴弾を掴むと、安全ピンを抜いて陣地に向けて投げる。


山の傾斜でコロコロと転がっていった四つの手榴弾は、陣地へと転がりこむ。何人かの中国軍兵士がその存在に気づくが、時すでに遅く物資や重装備を巻き込みながら爆死した。


「撃て!」


手榴弾の攻撃で右往左往する中国軍兵士を、スコープ付きの89式小銃で撃つ。数秒後、あれほどの火力を誇った陣地は、死体の山になる。


「よし、すぐに車両部隊と合流して空港を目指すそ!」


再び車両に戻った分隊は、空港に向けて直進していた。途中、中国軍の検問所が幾度かあったが、機械化されている水陸機動団の敵ではない。


怒涛の勢いで進撃する水陸機動団の別働隊である伊達分隊は、与那国空港から南東500メートルの位置まで迫っていた。


「よし、すでに上陸部隊が戦闘を開始している。迫撃砲をここに置いて、俺と数人は直接乗り込む。車両は先行しろ」


「敵の戦力はどの位ですか?」


「空港を包囲するほどの戦力だ。一個中隊以上の規模といっても良いだろう。何といっても、相手は海兵隊能力を持つ中国軍の特殊部隊だ。実力は五分かそれ以上だろう。気を抜くなよ」


「分かりました」


「作戦を開始する!」


坂を猛スピードで降りていく車両部隊、伊達を含めた降車要員は迫撃砲の支援砲撃のもと、道から外れた斜面を駆け下りていた。


斜面を下りきった霧宮は、めぼしい建物のドアの左右へと張り付く。そして、サイドアームのM9拳銃を腰のホルスターから抜き取り、ドアを開けて中へと突入する。


「敌人!」


ビルの一階部分の窓から外を警戒していた中国軍兵士が、突然突入してきた霧宮たちに驚き、銃を乱射してくる。正面にいた兵士の胸に発砲し、霧宮は物陰に隠れるが、地面に跳弾した7.62mm弾が隠しきれなかった足へと命中してしまう。


「あっ!?」


「大丈夫か霧宮!?」


同僚の一人が霧宮へと駆け寄る。弾が命中した足からは、赤い血がドクドクと流れ出していた。


「痛むか?」


「だ、大丈夫だ」


心配した同僚が弾の当たった左足を持ち上げようとするが、案の定霧宮は痛みでうめく。同僚はポーチに入れていた消毒液と包帯を取り出すと、霧宮の足を応急処置する。


「馬鹿、無理すんな」


「大丈夫さ。それより、肩貸してくれ」


「いけるか?」


「もちろん。俺たちは誇り高き水陸機動団だぞ?」


同僚は任せろと言い、自分の右肩を霧宮へと貸す。霧宮は同僚の隊員の肩を借りながら、89式小銃で応戦する。


「上を制圧するぞ!」


「隊長!自分がここから援護します!」


「狙撃はできるか?」


「もちろんです」


「よし、俺が観測手スポッターをしてやる。他はこの建物を死守だ」


「了解!」


「肩貸すぜ、よっこらせっと……重ぇな」


「大きなお世話ですよ」


伊達に連れられた霧宮は、痛む左足をかばいながら屋上へと上がる。幸いにも、この空港近くの五階建てビルには、それ以上中国軍兵士はいなかった。


屋上に着いた二人は、近くにあった台や椅子を持ってくると、簡易ながらも狙撃台を作り上げた。二つ横に繋げた机の上に伏せ撃ち状態になった霧宮は、伊達から手渡されたバレット社製のM82狙撃銃のスコープのフタを外す。


「見えるか?11時方向、空港の管制塔に機関銃陣地」


「見えます」


「とりあえず、味方の進行を妨げるから無力化しておこう」


「了解」


上陸部隊に向けて機銃を乱射する兵士の胸に向けて、照準を合わせる。足の痛みを忘れ、息を大きく吐く。


「撃て」


伊達の指示で引き金を引き絞る。放たれた12.7mmNATO弾は、吸い込まれるように兵士の胸へと命中する。


「命中、確認。次の目標、2時方向の対戦車砲」


「何を撃ちますか?」


「手を撃て」


「了解」


霧宮の次の目標は、土嚢の後ろに配置されている中国製の対戦車砲を構える兵士の手だった。


長い発砲音の後、対戦車砲を握っていた兵士の手が弾け飛ぶ。思わず目をそらしたくなったが、我慢して近くにいた兵士へと照準を合わせる。


「あいつで最後だ。他は脅威にならない」


照準を合わせていた兵士を射殺する。


次に指示されたのは、中国軍の武装が施された汎用ヘリコプターだった。あまりにも無理難題だったため、確認のために再度指示を確認する。それもそのはず、自衛隊の狙撃訓練でヘリを撃てなど行われるはずがないからだ。


しかし、伊達の指示はヘリを撃てだ。コックピットを狙うべきか、ローター部分を狙うべきか。


「パイロットを狙え」


「了解です」


M82の銃口から撃ち放たれた弾丸は、コックピットの強化ガラスを突き破り、操縦桿を握っていたパイロットの頭を吹き飛ばした。パイロットを失ったヘリコプターは、ぐるぐると回転しながら地上へと落ちていく。


「良くやったな」


「奇跡ですよ、ほんと」


「結構冗談半分で言ったんだが、まさか本当に撃ち落とすとはな」


「た、隊長……」


そんな他愛のない話をしていると、無線から全部隊に対して停戦命令が伝達された。霧宮は、痛む足を庇いながら伊達に支えられその場を離れた。

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