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国連の安保理がどのように運営されているか分からないため、作者の妄想で描かれています。たぶん、こうなるだろうな
国連安全保障理事会は、アメリカ合衆国の大都市ニューヨークにある国際連合本部ビルに存在する。
通称、安保理と呼ばれるこの組織は、国連の事実上の最高意思決定機関でもある。
そんな、安保理の会議場は、実に重たい空気で満たされていた。日本代表であり副総理・財務大臣の藤崎一郎は、目の前で訛りの激しい中国語を話す中国外相に辟易していた。
途中、通訳も追いつかないほど激しい言葉が投げつけられたため、ヘッドホンを外し、テーブルに置かれている水を一気に飲み干し、喉の渇きを癒した。
まったく、それでも常任理事国の一国を代表する者か。
目の前で取り乱す中国外相に、藤崎は哀れな目を向ける。
飛び込んでくる言葉は、日本が先制攻撃をしたやら、話を聞いているのか等、一方的で強引なものばかりだ。時折飛んでくる罵声や誹謗中傷に、今まで穏便に話を聞いていた藤崎だが、ついに堪忍袋の尾が切れてしまう。
「だ、か、ら!そんなに認められんなら証拠ビデオ全部見せてやるっつってんだ!」
根っからの江戸っ子で、べらんめえ口調の藤崎の言葉に、横にいた通訳はどう通訳して良いのか分からず藤崎を見つめる。藤崎は通訳に顎でやれと指示する。
無理やり中国語に直した藤崎の言葉が、会議場に流れる。藤崎は中国語がわからないが、おそらくとんでもない汚い言葉になっていると想像する。
それを聞いた中国外相は顔を真っ赤にして何かを叫ぶが、ヘッドホン外している藤崎には何も聞こえず、ただ一人の怒号が会議場に響き渡る。
「今回の極東騒乱。第三国から見る限り、明らかに中国が引き起こしたものと見られる」
常任理事国であるアメリカの外相が、二人の喧騒を止めるように発言する。イギリスやドイツなどは、アメリカに賛同する声を上げる。
「しかし、日本による局地的な戦闘行為は、我が国として到底受け入れる事は出来ない」
「おたくは、まず自国が攻められていることをちゃんと認識したらどうだ?」
相変わらず場違いな発言をする韓国外相に、優しく声を掛ける。
「しかし、日本の行動は少し過剰過ぎはしないか?」
「そうだ!これは明らかに帝国時代と同じ軍事行動だ!」
「では、某国が行っているチベット・ウイグル侵略や、ドネツク・クリミア侵略は、帝国時代の軍事行動とは別ですか。なら、中国に先制攻撃された我が国の軍事行動は国際法に従った自衛行動です」
藤崎は自信満々に、ロシアと中国の外相を黙らせる。顔を真っ赤にしたロシア外相は、何も言い返すことができず、再び椅子に座る。
外交とは駆け引きだ。特に、国連関係で弱みを見せると、ただでさえ常任理事国ではない日本の立場が危ぶまれる。
一進一退、一度攻めれば一度は受け身に入る。こうする事で、物事を客観的に考察することができる。
「そういえば、東シナ海に異世界への道が通じたそうではないか?」
中国の外相が急に冷静になり、目の色を変えて問い掛けてきた。
「あそこは我が国固有の領土だ。よって、我が国が異世界への道を管轄する」
「お言葉だが、あの島は断じて貴国のものではない。それに、我が国はすでに異世界から避難してきた異世界の民を保護している。貴国がそれらに対する脅威を取り除かない限り、我が国、しいては同盟国であるアメリカは戦闘を停止しない」
藤崎の言葉に、アメリカの外相であるマックは小さく頷く。
「異世界からの民は、自らをシルベリア国の王族と名乗り、我が国に対して接触を図ってきた。これは、我が国のみならずこの世界全体の問題として捉えている」
それを聞いた中国とロシア、EUの外相達は不敵な笑みを浮かべる。
「しかし、これらの問題に対して、我が国は必要な場合に他国に支援を求める。見返りは、貿易が開始された場合の優先交易を考えている」
藤崎の言葉は、遠回しに日本と仲良くしていれば分け前は与えますよ、というメッセージが込められている。
これを聞いて喜びの感情をあらわにしたのが、アメリカとEU、南米やアジアの国々だった。日本が考えるに、異世界は資源の宝庫だ。話によれば、少なくともユーラシア大陸ほどの大陸が五つ存在し、対して国は少なく大小15カ国ほどだという。まだ、手付かずの土地があるということは、手付かずの資源があることを意味する。
世界的な石油高騰で、安定的な貿易先を失いかけていた日米にとっては、これ以上喜ばしいことはなかった。
EUが興味を示す理由は、ロシアによる強硬な資源外交のせいだ。何か揉め事が起こるたびに、パイプラインでのガス供給を停止したり、軍事的圧力をかけたりする。
アジアや南米の国々は、日本と友好な関係を築いており、新たな貿易先を見つけることに意欲を示していた。
完全に蚊帳の外になったロシアと特亜三国は、何も言うことができなくなり、静かになった。
「では、今回の極東騒乱について、停戦への多数決を取ります。表が過半数を超えた場合、二国は即座に休戦し、部隊を撤退させること」
国連事務総長のリデロ・マッケンナが、多数決を取る。今回、当事者が日本と常任理事国である中国であるため、公平さを求めて多数決採決を行うことになった。
数分後、理事国全てが投票を終え、停戦が決定した。一区切りつけたリデロが、改めて藤崎の方へと向き直る。
「さて、ここからが本題です。シルベリア女王のルーシア氏は、日本政府に対して王国との国交の樹立と自衛隊の派遣を要請しました。そうですね?」
「間違いない」
「日本政府としてはどのような考えを?」
「我が国はシルベリア女王の意思を尊重し、セルジュオン連合諸王国と国交を樹立する意思がある。また、米軍の後方支援のもと、平和維持部隊として自衛隊の派遣を検討している」
「アメリカは日本の行動を尊重する」
「EUも同じく」
「アジアは日本の行動を支援する」
「中国は絶対に認めん!その異世界との接続点は国際的な管理下に置くべきだ!」
「これは日本の問題だ!」
「また歴史を繰り返すのか!」
韓国外相が声を張り上げる。
「貴国には関係のない話だ」
「その言い方はなんだ!」
「静粛に!」
再び怒号が飛び交い、とても会議を続けれる状態ではないと判断したリデロ国連事務総長は、会議を中止し、翌日に再開することを促した。
そんな折、米国の外相であるマック・クロムは、自分用に割り当てられた部屋に藤崎を招いていた。
「いやはや、今日の君は中々はっちゃけていたね」
「恥ずかしい所を見せてしまったよ」
「どうだ?少しスッキリしたんじゃないか?」
「それもそうだ。ここぞとばかりに色々言ってやったし、満足している」
そう言いながら、ワインを飲み合う二人。
「米軍の後方支援について、具体的なことは?」
「主に弾薬と兵器の支援だな。見ての通り、こっちは中東情勢で手一杯だ。今できるのはこれくらいだ」
「そうか。部隊を派遣したりはしないのか?」
「生憎、戦争には犠牲がつきものだ。毎月飛行機で運ばれてくる戦死者の遺体を見るのは、俺も大統領も好まない」
「その通りだ。しかし、今回の事案は人の命を天秤にかけることができる位、重要な物だ」
「資源、異世界の動物のDNA、まさに資源の宝庫だな。期待しているよ、藤崎」
「マック、あんまり期待しないほうがいい。うちの総理は独占欲が強い」
「ハッハッハ!そうか、なら楽しみにしているよ」
「では、今日はこれで失礼させてもらう」
「あぁ、またな藤崎」
マックと分かれた藤崎は、自分用に割り当てられた部屋へと戻る。嫌な汗をかいた服を脱ぎ捨て、シャワールームで汗を流す。
バスローブ姿でテレビをつけると、アメリカのニュース番組であるCNNが、日本の内閣総理大臣の記者会見を特集しており、最後の銀髪エルフ登場の際には、キャスターやコメンテーターが信じられないと連呼していた。
ほどなくして、藤崎のシルバーのスマホから着信音が流れる。
「もしもし、藤崎だ」
『藤崎さん、岸辺です』
「総理、あんた思い切った決断をしたな」
『えぇ、ここで何かアクションを起こさなければ、あとあとズルズル引きずってしまう訳にもいきませんし』
「その通り、ここでシルベリアの女王と日本の総理大臣が会見を行ったのは良いことだ」
「はい。あ、それと、安保理での会議はどうでしたか?」
『それは心配いらない。言うことは全部言ってやってきた。これで、当分の間は邪魔者が入ることはないだろう』
「停戦の方は?」
『暫定的な停戦は決まった。おそらく、今日の日本時間午後4時くらいに国連本部から通達が来るだろう。国連の停戦監視団が到着次第、日中の両部隊は台湾、与那国島から撤退しなければならない』
「それは良かった。これ以上、無駄な戦いを続けるわけにもいきませんし」
『あぁ、それとだな。異世界への接触は、我が国が中心となって行う。米国やEUには、必要ならば支援を要請すると伝えておいた。見返りは必要だが、仲間はできし邪魔者はいない』
「邪魔者さえいなければ、見返りなど安いものです」
『あんたならそう言うと思ったよ。しかし、問題なのはお隣さんの第二次朝鮮戦争だな』
北朝鮮と韓国の戦いは、北朝鮮のミサイルが韓国の首都ソウルに着弾し、韓国の指揮系統は崩壊。それに伴って韓国は国土の8割を掌握されたが、米軍の支援の元何とか戦線を維持している。米国は、今回の第二次朝鮮戦争にはあまり深く関わろうとしておらず、攻撃も航空機による空爆と空戦、駆逐艦のミサイル攻撃が主な作戦となっている。
「難民問題はどうだ?」
『それなんですよ。韓国から流れてきた難民の一部に北の工作員が混じっており、新宿で爆弾テロを起こしました』
「そうか。なら、離島の収容所にでも難民をぶち込んでおいたらどうだ?」
『人権侵害にはなりませんか?』
「分かっとらんな、収容は一時的なものだ。まず、僻んだ考え方を変えてもらいたい」
『洗脳、ですか?』
「その通り。下手に刺激して暴れられるよりも、収容所に押し込んで洗脳する方が割がいい」
『しかし、それはあまりにも酷では?』
「関係ないぞ?この国のことだ、この国が決めるべきだ」
『分かりました。さすがは私の尊敬する先生です』
「よせ。俺はただあんたに政治教えた小物だ。今は、あんたが国を仕切ってる。国の首領がどっしりしてないと国民が納得いかんぞ」
『はい、ありがとうございました』
「じゃあな」
電話を切った藤崎は大きく伸びると、テーブルに向かう。そして、自分に課せられた仕事を始める。書類を書いていると、再びスマホが鳴る。
「誰だ?」
非通知設定だった。本来なら非通知で電話を取ることは滅多にないが、今日はいろんな意味で重要な日であるため、試しに通知を許可した。
「誰だ?」
『お久しぶりです藤崎さん』
「俺はあんたを知らんが?」
『錦のMと言えば分かるでしょう』
錦と聞いた藤崎は、心の中で舌打ちをする。
防衛省情報機関 《錦》は、国が極秘に設立した組織である。そこのM、《Master》の頭文字を持つ人物から電話がかかっているのだ。情報本部長、よほどの重大な事でなければ、そうそう彼から電話がくるものじゃない。
「あぁ、はいはい」
『単刀直入に言いますが藤崎さん。命を狙われています』
「あ?」
『すでに、国連本部ビルにはどこかの工作員が何人も侵入しています。現状、藤崎さんは周囲を囲まれています。まず、カーテンを閉めて隠れてください』
それを聞いた藤崎は、窓のカーテンを閉めて死角になるクローゼットの後ろへと隠れる。
『我々の要員が向かっていますが、時間がかかります。5分、時間を稼いでください』
「何とかしてみよう」
『合言葉はスター、アップです。では、ご武運を』
電話が切られたのと同時に、部屋の入り口付近から悲鳴が聞こえてくる。それと同時に、扉が蹴破られ、フードを被った男たちが部屋へと侵入してくる。
「Fujisaki is kill」
男たちは英語を使っているが、少し訛りがある。男たちは手に持った消音器付きのサブマシンガンを構えると、おおよそ人が隠れてそうな場所に向けて、銃撃を開始する。
そんなに恨まれるような事はしてないんだが……
そう思いながら、藤崎はいつ自分の隠れるクローゼットに銃弾が飛び込んでくるか分からない恐怖と戦っていた。彼の政治人生の中で、こんな経験をしたのは初めてだった。
何か、気を引くものがないかと思い、手元にあったテレビのリモコンを持つと、音量を最大まで上げて、勢いよく電源を入れる。
「!?」
驚いた男たちは、テレビの方を振り返る。その瞬間を狙って、家具伝いに反対側へと移動する。そして、すでに銃弾が撃ち込まれていたが、普通では考えられないトイレの天井裏へと隠れる。
しばらくして、どこからか銃声が聞こえ、あたりが静まり返る。
「スター!」
「アップ!」
合言葉を聞いて「アップ」と返した藤崎は、トイレの天井裏から降りる。部屋を見ると、先ほどまで銃を乱射していた男たちが、綺麗に頭を撃ち抜かれて絶命していた。
逆に立っていたのは、スーツ姿の数人の男だった。
「藤崎一郎副総理ですね?」
「そうだ」
「お迎えに来ました。我々はニシキです」
「一体、これは何なんだ?」
「おそらく、あなたを快く思わない連中の仕業でしょう。この事は、外交筋を通じて当該国に厳重抗議します。また、身の安全を確保するため、副総理にはしばらく隠れ家で過ごしてもらいます」
「はぁ、今日は飛んだ1日だよ……」
藤崎はため息をつきながら、部屋から出て行く。
ぼちぼち、今現在までの登場人物をまとめてみます