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困惑に満ちた世界①

今回は、政治関連の話になります

千代田区首相官邸、その地下には日本版NSC、そう呼ばれる行政官庁が置かれていた。


その名も、国家安全保障会議。


日本の存在を脅かす脅威について、内閣総理大臣を議長とし、議員の内閣官僚によって対策が練られる。いわば、国家の意思決定機関である。


そんな重要な場はいま、重い雰囲気に包まれていた。


それは、思いもよらぬ形で発生した中国との戦争。正確には、領土紛争に対する防衛戦争だが、事態は二国間では済まされないようになっていた。


数年前、時の総理大臣が強行採決した法案の一つに、集団的自衛権の行使がある。


現在、領土紛争で争っている日中。日本は、アメリカと日米安全保障条約を結んでおり、同盟国である。中国軍による台湾侵攻は、台湾関係法によって防衛義務を果たさないといけない。そして、特殊部隊と海軍によって明確に日本が攻撃されている。二つの大義名分が持てたアメリカは、集団的自衛権の行使を認めた。


太平洋で演習を行っていたアメリカ海軍第七艦隊が、海上自衛隊第一護衛艦隊と共同で、中国人民解放海軍東海艦隊と戦闘行動に入った。これにより、NATO各国はアメリカへの軍事協力を開始した。


時を同じくして、北朝鮮民主主義人民共和国が、休戦ラインである北緯38度線を越え、韓国へと侵攻を開始した。これらの行動の背後には、アメリカの一極集中を分散させる中国の狙いが見え隠れする。


また東南アジアでは、中国軍の防衛ライン展開に対抗するため、フィリピンやマレーシア、ベトナムなどのASEAN海軍が、中国軍と睨み合いになっている。


そしてロシア。クリミア半島併合など、ウクライナ危機で国際的に孤立しかけているロシアでは、EUへのガス供給がほぼなくなり、経済的危機に陥っている。何か、今回の極東騒乱で動いてくると予想される。


アフリカは相変わらず内戦が全土で行われ、EUと中東はテロによる紛争が勃発。南米は麻薬や武器流入によって内戦が勃発し、世界中で安全な場所はほとんどなくなっていた。


領土、宗教問題が原因で起こるとされる第三次世界大戦、核戦争が岸辺の頭に思い浮かぶ。


「総理、総理?」


「ん、あ。すまない、考え事をしていた」


「お疲れでしょうが、もう少し頑張ってください」


官房長官である桐生真也が、岸辺を心配する。


「さて、事態はより深刻化している。諸君らもわかっているように、これは最早、我が国と中国との二国間の問題では終わることはできない」


「第三次世界大戦の序章、核戦争への第一歩となるぞ……」


「まったく、どうしてあの国はゴタゴタを引き起こす。ジッとしてられんのかね?ジッと」


「無理でしょう。溢れかえる13億人の人民、一党独裁、汚職、格差、もう後先ないだろ?」


「それにしても、私が一番心配しているのは、中国の弾道ミサイルだ。もし発射された場合、私たちに出来ることはないのか梶原くん?」


総務大臣の長尾が、梶原へと質問する。


「心配いりません。すでに陸空自衛隊のパトリオットミサイルが、主要都市や原発付近に配備完了しています。また、佐渡島と対馬に配置した中距離多目的ミサイルサイロも稼働し、イージス艦が日本海と東シナ海を固めています」


「撃ち落とせるのか?」


「もちろんです。20年前のような失態はいたしません」


梶原のいう20年、北から発射された短距離ミサイルが、運悪く公海で操業中の大型漁船へと命中してしまい、付近にいたイージス護衛艦が待機命令を受理し、何もできなかったため多数の漁民の命が奪われた事件だ。


「さて、本題に入ることにしよう。梶原くん、説明を」


「はい」


梶原は手元にあった書類を見るように促す。そこには、海保が保護した異世界から来たというエルフの身体検査結果、船、そして魔法についての報告が書かれていた。


「彼らは本当にエルフなのか?特殊メイクで変装したコスプレイヤーとかではないのか?」


「いえ総理、彼らは紛れもなくエルフです」


「異世界から来たと言ってたな?どうしてまた、こんな世界にやってきたんだ?」


「彼らは、祖国が大国に侵略され、亡命された王族です。聞けば、海上封鎖された場所から逃げるため、転移魔法と呼ばれる魔法で強引に出てきたそうですよ」


「難民か……で、彼らはいまどうしてる?」


「沖縄で治療を終えたので、そのまま航空自衛隊の輸送機で東京へ移送され、現在、羽田空港からここ首相官邸に向かっています」


「そうか、彼らとは一度しっかりと話しておかないといけないな」


その時、NSC会議室にサイレンが鳴り響いた。


『ロシア、全部隊に臨戦態勢を発令』


『マレーシア、警戒レベルを最上級に引き上げ』


『アメリカ、台湾海峡に空母エンタープライズを派遣』


「台湾海峡?なんで台湾海峡なんかに行くんだ!?」


「た、台湾海峡には中国軍の防衛ラインが展開しているんだぞ!?」


「米国は、中国と一戦構える気か」


『アメリカ、嘉手納基地よりB-2爆撃機をスクランブル発進』


『北朝鮮、ロシアのミサイル施設で激しい動き』


次々と舞い込んでくる緊急放送に、岸辺たちは驚愕する。


「か、核戦争がおっ始まるぞ」


『第一機動護衛艦隊、東シナ海で中国核潜水艦を発見』


『東京都新宿区、スクランブル交差点にて爆弾テロが発生』


「総理、ことは急を要します。今すぐ、世界に向けて声明を発表し、日本の意思を示さなければ、取り返しのつかないことになります」


各国の危険度を数値化したディスプレイを眺めながら、岸辺は少し目を閉じる。日中の揉め事に、他国が巻き添えになるのは何としてでも防がなければならない。


「分かった。至急、記者会見を行う。各国の大使にも映像を中継しろ」


「はい!」


それを聞いた大臣たちは立ち上がり、自分の持ち場へと走っていく。


総理官邸の広報室。集まった多くのマスメディア達の目的は、30分後に行われる岸辺内閣総理大臣による、今回の極東騒乱へ対する質疑応答だった。


「急げユリア!」


「待ってくださいよ来栖さぁん!」


「あと五分で記者会見始まっちまうぞ!」


首相官邸の廊下を走る二人の男女がいた。彼らは、今巷で話題の週刊誌 《セブンス》の出版社である《セブン出版》の記者であった。


金髪に、ハーフなので外人の血を引いた顔をした女の名は、工藤ユリア。《セブン出版》の新人カメラマンである。短髪に髭面の男の名は、来栖燈児、古参のフリーライターであり、工藤の面倒見役でもある。


今回、二人に課せられた任務は、極東騒乱と呼ばれる日中領土紛争、台湾侵攻に対する、岸辺総理大臣からのメッセージを聞いて来い、との事だった。


「しっかし、こりゃ世界大戦になるかもな……」


来栖は、独り言のように呟く。アメリカ、中国、ロシアが第一級戦闘態勢に入っていることを、来栖は知っていた。


「だ、大丈夫、ですよ、はぁ、はぁ、戦争なんて滅多に起こりませんから」


「あのなぁ、沖縄の先島諸島じゃあ米軍と中国軍の戦闘が限定的だが始まってるんだ。それに、世界中が戦争の準備をしてる。核戦争が始まるぞ?」


「ほ、ほえっ!?な、なら逃げないと!」


「バカか!シェルターもないのにどこに逃げるってんだ!」


そうこうして走っていた二人は、やっとの事で広報室へとたどり着いた。今日の会見はよほど特別なものなのか、普段はないテーブルまで構えられていた。


二人が《セブン出版》と書かれた札の置いてあるテーブルに着くと、隣にいた中年の記者が二人を見てニコリと笑う。


「おやおや、セブン出版様は課長出勤で」


「違う、このバカが用意に手間取って遅れたんだよ」


「ひ、酷いですよ来栖さん〜」


「うっせぇ、化粧に一時間もかけるバカ野郎が」


「あぅ……」


「そういえば広瀬のとっつぁん、何か他に良い情報は入ったか?」


「あるぜ、ただし、定価の10%増しだ」


そう言って広瀬は両手で10を作る。


「足元見るな、どんだけ重要なやつだよ」


「まぁ、買ってからのお楽しみだ。それより、そろそろ会見始まるぜ」


広瀬がそう言うと、広報室に岸辺総理大臣を始めとし、徳間内閣官房長官、梶原防衛大臣など、数名の官僚たちが入室してきた。その瞬間から、フラッシュが絶え間なく焚かれる。


「これより、総理大臣緊急記者会見を行います」


「総理、アメリカとロシアが戦闘態勢に入ったというのは本当ですか!?」


「北朝鮮が韓国に侵攻し、アメリカ軍が北に対して大規模な軍事作戦をとったのですか!?」


「静粛に!これより私自ら説明する」


喧騒を静まらせた岸辺は、一度咳き込み口を開く。


「まず、今回の中国による尖閣諸島での海保巡視船ミサイル発射事件、そして与那国島侵攻に対して、我が国は自衛隊に防衛出動を発令した」


防衛出動というワードに、記者たちは驚きの声を上げる。


「この中国による国際法を無視した戦争行為に対して、我が国は国家緊急権を発令した。これは、我が国と中国の事実上の領土紛争である」


1人の記者が手を挙げる。


「JAPANプレスの三島と申します。総理、アメリカは安保条約に基づいてどの様な事を?」


「アメリカは、我が国の日米安全保障条約と、台湾との関連法に基づいて、第七艦隊を先島諸島、台湾海峡へと向かわせた」


「質問よろしいでしょうか?」


「許可する」


「日読新聞の新田です。総理は、今回の領土紛争をどのように解決するおつもりでしょうか?」


「それについて、これから説明する。先日、尖閣諸島で異世界との接続点を発見した」


「は、はい?」


「そこから現れたと思われる不審船から、エルフと見られる難民を30人ほど保護した。また、同国の海軍艦艇が、親書を持って東京湾へと向かっている」


「そ、総理。それは本当ですか?」


「嘘は言ってない」


「で、では証拠はありますか?」


「もちろんだ。そのために、今日はこの場に国賓であるセルジュオン連合諸王国シルベリア女王、ルーシア様がお越しになっている。ルーシア様、どうぞこちらへ」


「はい」


岸辺に促されて入室してきたのは、先ほど東京へと到着し、岸辺と軽い会話を交えたシルベリア女王、ハイエルフのルーシア・デア・シルベリアと、ダークエルフ衛士長のエルシア・ル・キルデントの二人だった。


「では、ルーシア様。何か一言を」


「ニホン国民の皆様、初めまして。妾は異世界の連合国家、セルジュオン連合諸王国に所属するシルベリアという所からやって来た、全エルフの女王、ルーシア・デア・シルベリアじゃ」


誰もが口を開けて唖然としていた。それもそのはず、目の前にファンタジーの世界でしか見ることのできないエルフが、異世界からやってきたと言っているからだ。


「現在、我が国は帝国と呼ばれる軍事大国によって侵略されておる。シルベリアは、島国でもあり国土の8割が帝国に掌握された。そこで、妾は国の魔導士によって転移魔法を用いてこの世界へとやってきたのじゃ。その時、カイジョウホアンチョウと名乗る者たちに救われた。今、妾たちの同胞が我らが女王陛下の親書を持ってやってきておる。どうか、我らの王国を救ってもらえないだろうか?」


女王と名乗った銀髪のエルフの言葉に、どう反応していいのか分からなくなる記者たち。そんな時、工藤が手を挙げる。


「質問、よろしいでしょうか?」


「許可するが君は、どちら様かな?」


「セブン出版の工藤と申します。総理、ルーシア女王様に質問の許可をもらえないでしょうか?」


「ルーシア様、如何しますか?」


「構わない。妾たちのことをよく知ってもらいたいからのう」


「では、ルーシア女王様は、我が国に何を望みでしょうか?現在、この国の法案では、同盟国以外に対して集団的自衛権の行使は認められていません。従って、物資援助や後方支援の役割しか果たせないと思いますが?」


「安心してくれ。キシベ総理が言っておったのじゃが、妾たちがやってきた転移魔法陣は、ニホンの領海にあるらしいではないか。なら、妾たちの世界は、ニホン国の領土内に存在することになる。じゃから、何も問題ないじゃろう」


「問題ないとは?」


「この国と国交及び、安全保障条約を結んで、王国を救うためにジエイタイと言う組織を派遣してくれ」


その言葉は、たちまち全国に中継され、インターネットなどのウェブサイトでは、自衛隊派遣に関する是非が論議されることになった。

文章的におかしな部分があると思います。何か、アドバイスがあればお願いします。

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