未知なる遭遇①
初めての海系小説なので、説明不足などもあるかと思いますが、暖かく見守ってください。誤字脱字の指摘お願いいたします。
時は2025年1月1日、大晦日。
数年前から続く東シナ海での領土紛争は、激化の一報を辿っていた。海上保安庁は、日に日に増加する不審船の領海侵犯に対応するために、尖閣防衛部隊を増強。超法規的措置を取ることが可能になる法案も可決された。
そんな時、東シナ海を哨戒中だった海上自衛隊のP-1哨戒機から一報が入った。尖閣諸島付近に漂う船を発見、中国海警局が我が国の領海を侵犯し、不当に不明船を拿捕しようと試みている。という内容だった。
これを重く見た海上保安部は、PLH-31《しきしま》を中核とした6隻の巡視船を尖閣諸島沖に向かわせた。
「不審船を発見!」
見張り員からの報告が、しきしまの艦橋へと舞い込んでくる。
「警告を出せ」
「了解!」
『警告する。こちらは日本国海上保安庁である。貴艦は日本国の領海を侵犯している。今すぐ当海域から立ち去りなさい』
海上に幽霊船のように浮かぶ中型の船に向けて、日本語と英語、中国語と韓国語の警告を二度ずつ発した。しかし、不審船は逃げ出すわけでも逆に向かってくるわけでもなく、ただ同じ場所にずっと漂っていた。
《しきしま》の艦長である岸田は悩んだ。昨年の11月、台風の中日本海を強行して渡ってきた北朝鮮の工作船による、工作員上陸という悔しい事件があった。その時、海保は北の船舶が荒れ狂う日本海を渡ってくるとは考えていなかったため、監視の目を緩めてしまっていた。
幸い、工作員は福岡で西部方面普通科連隊に制圧されたが、これがマスコミから大きく叩かれてしまい、海保の監視網の改善が急務となった。
「不審船、新たに4隻接近中!」
「国籍は?」
「中国海警の公船です!」
「火事場泥棒よろしくだな。すぐさま不審船に立入検査隊を送る!不審船の周囲を円陣で囲むぞ!」
《しきしま》を中心に巡視船が不審船を囲むような布陣を組む。操舵士の巧みな操船技術によって、接近してきた中国公船は不審船に近づけないようになった。
その隙を見て、《しきしま》の立入検査隊が複合型ゴムボートに乗り込み、不審船へと近づいていく。
『日本の警備艦に告ぐ、尖閣諸島は我が国固有の領土である。よって、不審船への対応は我が国の管轄にある。すぐさま領海から退去せよ』
「ここは我が国の海だ。お前らには好き勝手させん。総員、気合を入れていけ!いつもの訓練の成果を見せてやれ!」
「「「了解!」」」
そんな海保と中国海警の駆け引きが続く中、海保の保安官が言う不審船の乗組員、セルジュオン連合諸王国シルベリアの王族とその護衛たちは、自分たちの周りを取り囲む巡視船にどう対応していいか困り果てていた。
王国の最東端に位置するシルベリアは、エルフを中心とした亜人の国だった。最東端に位置するため、西進を始めた帝国軍の最初の標的となってしまったのだ。
魔法を得意とするエルフは、同じ連合国の支援を受けていたが、あまりにも物量や練度の差が激しかったため、シルベリア軍は瞬く間に壊滅。王家は隣のユリシーズへと亡命する事になった。しかし、すでにシルベリア海は帝国海軍に封鎖されていたため、地方で唯一の大魔導士に転移魔法を発動してもらった。
そして、たどり着いた先はサファイアのような異世界の海。しかも、周りを囲むのは亡命船より巨大な白色の船舶。シルベリアの女王であるハイエルフのルーシアは、どうしていいのか分からず椅子に座りながら目を閉じていた。
海に囲まれたシルベリアからの脱出法は海からである。その海が封鎖されていたため、仕方なく大魔導士の転移魔法で無理やり亡命船ごと脱出することができた。しかし、周りを囲むのは恐らく異世界の海軍艦艇だ。
自分たちは無許可で異世界の国の領海へと侵入している。そんな事をすれば、ただじゃ済まないだろう。帝国とつながっているなら王族は自分を残して見せしめに殺され、帝国に引き渡される。そうでなくても、何らかの危害が加えられると考えていた。
自分は王家を預かる身だ。従っていた部下は減りこそしたが、まだまだ自分に忠誠を誓う者たちが大勢いる。自分は、彼らの命を女王として最後まで守り抜かなければならない。それが女王である自分に与えられた使命であり、宿命でもあるとルーシアは考えていた。
「女王陛下、どうかご心配なさらないでください」
ルーシアの目の前、片膝をついて頭を下げるダークエルフの衛士がそう言う。女ダークエルフの名前はエルシア、彼女は王家を守る近衛兵を指揮するトップである。エルフとダークエルフの仲が改善されているシルベリアでは、こうしてダークエルフがハイエルフの側近として活躍することも珍しくない。
「何があっても我らが必ず陛下の身をお守りします」
「すまない、妾が不甲斐ないせいで……」
ルーシアは少し俯いてそう呟くが、衛士たちは次々に否定の声を上げる。そんな時、一人のエルフが血相を変えて船内へと飛び込んできた。
「ぐ、軍艦から小型船が接近中です!」
「な、なんじゃと?」
「船には武装した兵士が乗っています!」
「この船に乗り込む気か、そうはさせん!者共、迎撃の準備を整えよ!陛下には指一本触れささんぞ!」
エルシアはレイピアを抜刀して衛士たちを鼓舞する。ルーシアは二人の衛士に連れられ、船内の奥へと身を隠された。
「さぁ、来るがよい異世界兵よ」
『こちらは日本国海上保安庁である。これより貴船への立入検査を行う。臨検に備えよ』
複合型ゴムボートから拡声器で警告が伝えられる。海上保安庁と書かれたライオットシールドと、特殊警棒や拳銃、89式自動小銃を構えた海上保安官たちが、亡命船へ横付けし、甲板へと乗船した。
「誰もいないのか?」
「隊長、自分は甲板にいた金髪の男を確認しています」
「中でお出迎えってか?まぁいい、中国公船が何をしだすか分からん。先を急ぐぞ」
「了解、援護します」
6名の保安官はお互いに死角をカバーしながら、船内へと足をふみ入れる。中は海外の大金持ちが持つ洒落た客船のようになっていた。階段を降り切った時、両サイドからレイピアを構えたエルフたちが飛び出し、保安官へと向かってくる。
「正当防衛!」
「公務執行妨害で逮捕しろ!」
ライオットシールドで剣撃を弾き、特殊警棒を巧みに使ってエルフの手からレイピアを弾く。手の痛みに苦しむエルフたちを、保安官が捕縛していく。
「た、隊長。こいつらエルフです!」
「え、エルフだって!?」
「クソ!帝国軍め!離せ!」
「ちょっと待て、彼ら日本語が通じる?もしかして、言葉がわかるのか?」
立入検査隊の隊長が、イントネーションの確認を行う。暴れるエルフを落ち着かせて、何とか日本語でコミュニケーションがとれることを確認できた。
「我々は日本人だ。帝国とは関係ない」
「嘘をつけ!お前ら帝国軍の手先だろう!」
「もう一度言う。我々は日本人、帝国は知らない」
隊長は何度も彼らを説得する。
「なぁ、これだけ言うんだ。信じないか?」
一人のエルフがもう一人を落ち着かせる。少しして、納得がいったのか、暴れていたエルフはついに観念した。事情を説明された保安官は、二人のエルフに連れられて彼らの女王が待つ部屋へと案内される。
「異世界兵め!覚悟!」
「くっ!?」
隊長は突然斬りかかってきたダークエルフの剣撃を何とか交わし、尻餅をつきながら後退する。
「そこまでじゃ!エルシア!」
「へ、陛下?」
ダークエルフはすかさず追撃を行おうとするが、突然響いた声に戸惑い、剣を下ろす。声の主は両脇を衛士に挟まれた銀髪の幼女エルフだった。
「た、隊長!」
「あ、危なかった……」
「無礼を許せ、異世界の兵よ」
「あ、あの。あなたは?」
「妾はルーシア・エール・キュルケ。こんな身だがシルベリアの女王でもある」
「し、シルベリア?」
保安官たちは聞きなれない国名に戸惑い、再度ルーシアに確認を取る。
「あの、間違いではありませんか?」
「もちろんじゃ。妾たちはシルベリアからやってきた。そなたたちは何者じゃ?」
「我々は日本国海上保安庁、巡視船 《しきしま》の立入検査隊の海上保安官です。無礼を承知でお聞きしますが、何が目的でこの海域に?」
「妾たちは帝国軍から逃げてきたのじゃ」
「て、帝国軍?」
帝国軍と聞いてピンとしない保安官の反応を見て、エルフたちは驚く。ルーシアの言う帝国、レムリア帝国は世界に名を轟かす夏大陸の支配国でもある。彼女たちからしてみれば、知っていて当然というのが常識だった。
「と言うことは、難民か何かでしょうか?」
「ま、まぁ、そうなるな」
「では、海上保安庁はあなた方を保護しますので、我々の指示に従ってください」
「分かった。言う通りにしよう」
「へ、陛下!?」
あっさりと了承するルーシアに、エルシアは困惑する。
「心配はいらぬ。彼らは信用できる。それに、助けが来ない以上、彼らを頼るしかない」
「わ、分かりました」
しぶしぶと言った感じで従ったエルシア達は、保安官に連れられ、ゴムボートへと乗り移る。亡命していた人数は全部で30数人、全員はピストン輸送で《しきしま》へと運ばれていく。その時、中国公船を警戒していた見張り員が声を上げる。
「ちゅ、中国公船が急接近中!」
「収容作業急げ!巡視船、中国公船を近づけるな!」
《しきしま》の周囲を、他の巡視船が囲み、手を出せないようにする。しかし、中国公船はそんな事御構い無しにどんどんと距離を縮めていく。
「中国公船なおも接近中!」
「警告しろ!」
『止まれ!さもなくば威嚇射撃を実行する!』
「中国公船止まりません!」
「気でも狂ったのか!?」
「ぶつかる気だ!総員、衝撃に備えよ!」
《しきしま》に乗っていた保安官やルーシア達は、お互いに支えながら衝撃へ備える。中国公船は二隻の巡視船をすり抜け、《しきしま》の右舷へ体当たりする。ぶつけられた《しきしま》の船体は大きく揺れる。
「くそ!何するんだ!」
「けが人はいるか!?」
「大丈夫です!」
「なんてこった、まさか体当たりしてくるとは……」
「艦長!軍艦らしき船舶が接近中です!」
「なんだって!?」
中国海警公船の船団から500メートルほど後方に、駆逐艦の様な軍艦が確認された。海上自衛隊では採用されていないいびつな形をした蘭州級駆逐艦のそれだった。日中の境界線付近にいるという情報はあったが、いつの間にか尖閣沖までやって来ていた。
「艦長!レーダーに新たな反応!」
「み、ミサイルです!」
「なに!?」
なんと中国海軍の駆逐艦は、密集する海保の巡視船団に向けて対艦ミサイルを発射したのだった。
「艦長!」
「掴まれ!」
大きな爆発音が三度ほど起こり、保安官たちは死を覚悟して目を瞑るが、彼らの言う死は一向にやってこない。
「なんだあれは……」
そこには、主砲を発射した戦艦がいた。
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