プロローグ
帝国の春は爽やかだった。少し湿った暑さを感じる夏大陸ならではの気候で、この国に訪れる春は早い。あちこちで草木が芽吹き、動物たちが冬眠から覚めて活動を再開し始める。
年代物の皇城から眺める中庭は、庭師によって整備された颯爽とした風景とは違い、四方の街や帝都から集まった大勢の民衆で埋め尽くされていた。
神聖レムリア帝国の第23代皇帝であるライノ・エラ・レムリアは、バルコニーに置かれた王座から立ち上がる。
煌びやかな衣装を身にまとったライノは、独特のオーラを感じさせる白髪のあごひげを弄りながら、マントを翻して民衆に姿を示す。彼の姿を見た民衆は、一斉に声を上げ、歓迎した。
「我らは120年という時を待った!」
二百年に渡って栄華を誇ってきた皇室の威厳は絶大だ。60という高齢ながらも、他の大陸国家から一目置かれる帝国を仕切るカリスマ皇帝。彼は、その外見からは考えられないほど野太い声を張り上げる。
「ついに我らは、亜人と手を組む悪の国家に対して侵略を開始した!」
彼がいう亜人。人間の亜種である亜人は、一般的に人種とは違った特徴を持つ者たちのことをいう。例えば、エルフやドワーフ、獣人や鳥人、魔族なども中に含まれる。
神聖レムリア帝国は、超のつくほど亜人排斥に敏感な国家であった。理由は、人種を神の次にえらいと説く《ヴィラロッド教》の教えを尊守しているからである。特に、ライノは亜人差別者として有名で、帝国の周囲にある亜人の国を侵略させ、虐殺させることで知られていた。
「諸君!神はこの大陸から亜人を全て消し去ると言っている!」
そんな事はない。教会の言うことを素直に聞く民衆のために、聖書の内容を自分たちが都合よく解釈しているに過ぎない。彼らの言う神は、亜人を消し去るべきだとは言っていない。
「その教えに従い、我が国の国民から選ばれた精鋭なる兵士諸君が、亜人と手を組み、この国に戦いを望む東のセルジュオン連合諸王国と戦っている!我らは、この戦いに何としてでも負けるわけにはいかない!」
ライノの声に、集まった観衆は徐々にヒートアップしていく。
「我らに神のご加護を!」
演説を聞く観衆の中に、黒ずくめの男がいた。男は歓声を上げるわけでもなく、ただぼうっとライノを視線に捉えていた。
「時は満ちたり……か」
そう呟いた男は、人々の間を縫い、瞬く間に姿を消した。
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