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Witch-Bitch!  作者: 沙耶hshs
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第一話:『魔女=ビッチ』

とある、クッソ下らない恋愛の体験談を話そう。


出会いは未来予知を以てしても不可避で、成り行きはタイムマシンを以てしても逆行できないものだった。


そして、俺は多分こう締めくくると思う。


『やっぱりビッチなんか大嫌いだ』


―――と。


◆◆◆


本を一心不乱に読むときってあるよな?


例えばそう…推理小説での探偵と犯人との戦い、バトル漫画での主人公とライバルとの戦い、その他ジャンルの戦い。

つまり戦いってのは目を惹く魔力があると思ってるんだよ、俺は。


なら、恋愛モノは?


戦ってないじゃん、って?

違う、逆だ。

あれこそ、一番"戦っている"作品だ。

主人公もしくはヒロインが、相手に振り向いて貰うために精一杯頑張って、努力して、恋を成就させるのだから。

これを戦いと言わず、なんと言おうか。

相手は人の心だ。

強敵、いや、難敵と形容できるだろう。

―――と、思いながら俺は夢中で読んでいたラノベを脇に置いた。

ジャンルはもちろん、ラブコメである。

「―――ふぅー、今回も面白かったな。この作者さんは心情を分かりやすく描いてくれるから文が好きなんだよな。ごちそうさまでした、と」

独り言をしてラノベに合掌して余韻に浸る俺。

うむ、キモいキモい。

すると、下から買い物を終えて帰ってきたであろう母の声が聞こえた。

「環姫ー。ちょっと買い物行ってきてもらえなーい?」

「えー」

「玉ねぎ買い忘れちゃったのよー。今日カレーだから」

確かに、カレーに玉ねぎは必須アイテムだ。モン●ンで言うところのRANK3くらい。

むぅ…いまいいところなのにな。

「仕方ない…新しいラノベ買ってくるついでにしよう」

さっきの一冊で備蓄が無くなってしまっていたのだ。

今のこの消化不良な気持ちを解消するには新しい作品を読むに限る。

俺は承諾し下に降りて、母からお金を貰いながら玄関に向かった。

「お釣りは返すのよー」

「はいはい」

全国のお母さんの様式美とも言えるお使いの頼み方、そう思い心の中で苦笑する。

家から出てすぐの場所に商店街なるものがあるのでそこに向かう。


最近はスーパーやコンビニが所々に出来たので下火だが、やはり店の人は良い人ばっかりだし、色んな物が置いてあって物に困らないし、何より趣味をわかってくれている本屋があるからな。品揃えに不満を持たない本屋ほど重宝のものはない。

まずは本屋―――西埜堂に入り、備蓄の補充の品定めを行う。人気作品は粗方読み終わり、今ではマイナー小説にも手を出すようになった。

ちなみに誤解しないでほしいが、俺はラノベオンリーを愛読書にしているわけではないぞ。

"あるジャンル"を基に本を選んでいるので、偏りはあるが…それでも普通の文学作品や普通の小説、漫画、ラノベと読んでいるのだ。

まぁ、本を読むのが得意ではないからラノベへと傾いてはいるが…自分がオタク、という自覚はない。

俺は西埜堂の奥深く、店長が鎮座している王座へと足を向ける。

ここの店の本棚は大きく、いっぱいに広がっているので何とも城壁のようなイメージを覚える。灯りは強く、顔を上げた途端眩い光が目を刺すから上の棚を取る者は少ない。俺は頑張って取るけど。

光が強いのは店長の要望なんだが…まぁこれから紹介しよう。

「優花さん、何かオススメの新刊ある?」

「……………」

ペラ、とページをめくる音が返事をした。応える気はないようだ。

「おーい。優花さーん?西埜優花さーん?聞こえてますかー?」

「………………………」

「………まぁ、ここまではいつも通りだ」

西埜優花さん。西埜堂の女店主である。

歳は確か、二十代前半。

見た目からして十代前半か一桁の幼女。

ワカメみたいな癖っ毛の長い髪が特徴の、労働基準法に触れそうな幼女。

本を読むのが大好きで、客が来ようが大声で呼び掛けようが本に没頭する幼女。

本を読むときの鋭い目がこの街の一部の人間を満たすことに定評がある幼女。

幼女だ。

「おーい、優花ちゃーん」

「……………」

「ゆうかたーん」

「……………」

「ゆうかーん?」

「……………」

「なんかユウカーンって言う感じの神様とかいそうだな…。智の神、みたいな」

「……………」

「おーい幼女ー」

「誰が幼女じゃぶち殺すぞヒューマン」

「すみません」

おおよそ幼女と思えぬ口調と言葉に即行で頭を下げた。

なら言うなよと思うだろうが、こうでも呼ばないと反応しないんだよ。

「ん?…おぉ、環姫か。なんじゃ、居るんなら呼びかけい」

「散々無視した後にその言葉はイジメにしか思えんが…」

「環姫は声が小さいのじゃ。もっと腹に力を入れよ」

「すみませんねぇっ!!」

「うるさい、近所迷惑じゃぞ」

どうしろってんだ。

「で?新しい本を買いに来たのかの。お主、この前何十冊も買っておったではないか。もう読み尽くしたのかの」

「あぁ。面白かったからあっという間だった。だからまたオススメを買いに来たんだけど」

「んーむ…そうじゃのー、お主の好みのジャンルは儂の専門外なんじゃが」

西埜さんは顎に手を当てながら椅子から立ち上がり、カウンターからこっち側に来て本棚を物色し始めた。

「最近お主もマンネリ気味じゃろうしのー。ここらでヤンデレものでも…」

「おいちょっと物騒な単語が聞こえたが……?」

「何も言っておらんよ?全然?二股掛けて主人公が最後生首にされヒロインに抱かれてniceboatされているのを見せようなんて、全然思っておらんよ?」

おいやめろ。

俺の好みからかけ離れてる。

「むぅ…それもまた、純愛であろうにのぅ」

そう、純愛。

それが俺の好きなジャンルだ。

恋をする作品が大好きなのだ。

もちろん、バトル漫画や推理小説も読むが一番読んでて面白いのが恋愛モノなのだ。心を中心に描かれている物語。

「別に純愛に限らなくてもいいんだけどさ。面白ければ読むし」

「なにか負けた気がするから妥協はせん。そこで待っとれ。選別しといてやる」

西埜さんはフンスと意気込み、本棚の城壁へて消えていく。

「あ、玉ねぎ」

そういえばお使いを頼まれて商店街に来ていたのを忘れていた。

「優花さーん。俺ちょっと出てくるー。帰りにまた寄るからー」

優花さんに一応断りはいれたが、どうせ聞こえてはいないだろう。書き置きを残し外に出る。その間に優花さんとは鉢合わせしなかった。

八百屋さんに出向き、玉ねぎをいくらか買い即行で西埜堂に帰ろうとした。この商店街は客に物を売らせるスキルが高いから、俺みたいな馴染みの奴は格好の餌食だ。

と、西埜堂に帰る道のりの途中、ふと脇道から甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

「………ん?」

辺りにケーキ屋駄菓子屋の類はない。それに、なんだか嗅ぎ慣れない匂いだ。

良い匂いでは決して無いのに嗅ぐのを止められない…なんだか怪しい薬を連想した。「………ぅあ」

足が吸い寄せられていくような感覚だった。俺は路地裏に入り、酔ったような足取りでフラフラと匂いの元へと歩く。

甘い匂いは近付くに連れ強烈さを増していった。

もっと。

もっと。

もっと。

心臓が痛いくらいに鼓動を速め、脳は正常に機能しない。

目はチカチカと火花を散らしたかのように背景が区別できなくなり、商店街の喧騒は遠く離れていく。

そして、何かの『壁』を通過したような気がした。

『壁』の先には女性がいた。

顔はよく見えなかったが、身体つきがハンパなく、エロい。


「―――あら、新しい人かしら」


目の前の女性が俺に気付くと、ムワッと、甘い匂いは今まで一番強烈に広がった。そのせいで俺はもう立てなくなるぐらいに足がガクガクと揺れはじめ、呼吸困難に陥ってしまう。


「ふぅん…まだ意識があるの。すごいわね、魔力が多いみたいだわ」


女性はツカツカと歩いてきて、俺の顔に手を添えた。

匂いはもう形容できないくらいに頭を陵辱し尽くしていた。


「じゃあ―――いただくわ」


なにを?と思った途端、その女性はあろうことか―――俺の口を貪った。

貪る。

キスとかそんなものでは一切ない。

貪る、という表現があまりにも適切だ。

吸い付かれ、舐められ、入れられ、陵辱された。

互いのよだれが混じり合い、最後に糸を引いて彼女の口が離れていく。

もっと!

もっと!

もっと!

惜しむ気持ちで頭がいっぱいになる。

恐らく俺の表情は気持ち悪いくらいにとろけているだろう。

彼女の顔は興奮し、赤く染まっていた。ペロリと唇を舐める舌が何とも艶めかしい。


「アナタの童貞―――いただくわ」


その瞬間、俺の散乱した意識は凄い勢いで収拾され元に戻った。

パチクリ、と瞬きをする。警告!警告!とサイレンを流しながら俺の意識は覚醒していく。

そして、俺は叫んだ。


「ふざっけんじゃ―――ねぇえええええええええっっっっ!!!」


酸素を全て絞り尽くして出た声量だった。自分でも驚いている。

だが、俺はどうしても止めなければならなかったのだ。

自分の童貞を、守るために。

その女性はポカンと口を開けて呆けていた。そして次第に驚愕へと表情が変わる。

「え、えぇ……?わ、私の魅了が、強引に…とけ、た…?嘘でしょ…?魔力の波動なんて…感じなかったわよ……?ま、まさか…まさかまさかまさか!精神力だけで…魅了を解いたの…?」

ブツブツと独り言を呟く。

意識が覚醒し、俺はすっかり甘い匂いをはねのけていた。

そして気付く。

「……………なんじゃあ、こりゃあ?」

辺りは淀めいていた。なんというか、アレだ。ウィンドウズ画面の最初の壁紙に近い背景である。

そしてピンク色の煙が漂っている。これが匂いの元凶か。

「ありえない……ありえないありえない!そんなこと…ただの人間にできるわけが………っ!」

女性はorzの体勢になり未だにブツブツと唸っている。

うむ、よく見なくてもエロい。

だがな、駄目なんだ。

エロくてもな。


俺には、駄目なんだよ。


「あなた!」

「お、おうっ!?」

「名前!そう、名前は!?」

「は?」

「いいから!!」

意味分からん。

勢いよく立ち上がった彼女の顔はとても美しかった。可愛いというよりも綺麗、という表現が似合う容姿で、女優やアイドル、なんて言われてもまったく不思議ではない。いや、そこらの芸能人よりも綺麗だ。

「た、環姫。貴槇環姫だ…」

「タマキね!よく覚えたわっ!」

そう言って、女性は背中から翼を生やし、空を飛んでいく。俺はあまりの展開に何も反応できず、ただその女性が飛んでいった方向を眺めているだけだった。

いったい、何がなんなんだ。

ラノベみたいな展開に、胸躍る以前に混乱しかない。

そして、一つの結論に辿り着く。


「あ、夢だな。起きよう」


そう思ったら、世界は砕け散った。


◆◆◆


「――――――――――はっ!?」


目を覚ますと、俺は路地裏へと続く道で倒れていた。やはり、あの出来事は夢だったのだ。よくわからないが、うん、よくわからないが夢にしときたい。

どうしてここで寝ていたのか、なんてのは追求しない。したくない。

世の中には便利な言葉がある。

なんやかんやあった、と。

「……って、今何時だ」

携帯を取り出し、現時刻を見ると、玉ねぎを買った時間からゆうに五時間は経っているという事実を突きつけられる。

ていうか親と優花さんからのメールの量が凄いことになっていた。

おいおい…地獄はこれかららしい。

「……あー、ちくしょう」

俺は諦めて、西埜堂へと歩き始めたのだった―――


◆◆◆


「タカマキ……タマキ…」


「ふ…ふふ…見てなさい。次はこうはいかないわよ…」

「あなたの童貞―――魔力は、この私が必ずいただくわ」


「この私、ウォンゲート・コーツラント・スクウァイテス・サキュバスがね!!」



長らくお待たせしました

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