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言い忘れたサヨナラを

作者: 純白米

 私には、ずっと好きな人がいた。

小学校から中学校までの9年間 ずっと同じ学校だった男の子。

彼のことが ずっとずっと好きだった。


だけど、その気持ちは言えずにいた。

幼い頃からずっと一緒にいるのが当たり前で、今更好きだなんて言うのは恥ずかしかった。


これだけ生きていれば、いろんな人に出会う機会がある。

でも、私は最初から最後まで 彼だけが好きだった。私には彼しかいなかった。



 中学校を卒業すると、みんなそれぞれいろんな道に進むことになる。

私と彼は高校へ進学する。でも、同じ高校ではなかった。


 卒業式の日、これからは彼と違う学校に通うということが寂しかった。

9年間、ほとんど毎日一緒に居て

それが当たり前だった彼と 来月からは違う学校に通う。

ほとんど 会えなくなってしまう。一体、どうなってしまうのだろう。

私の想像が 追いつかなかった。


自分の気持ちを伝えようと 何度も何度もチャンスを探した。

けれども、卒業式のあと 彼に言われた言葉に負けてしまった。


「卒業しても、家が近所だからまた会うかもな!そのときは、よろしくな!」


小学校からの付き合いである彼は、確かに私の家の近くに住んでいた。

自分ばかり卒業という寂しさに苦しんでいて、彼には全くそんな様子はなかったのだ。


でも、言われてみれば それもそうか。

これだけ近くに住んでいるのだから、また いつでも会えるよね。


 しかし、現実はそうじゃなかった。

高校は家と学校までの距離によって 朝、家を出る時間が左右される。

私と彼は、朝の登校時に一緒になることはなかった。

下校時にも、一緒になることはなかった。


やっぱり、卒業した途端に 会えなくなった。


 会えなくても、私には彼しかいなかった。

高校に行って新しい男友達はできたけど、彼以上に好きになれる人はいない。

そうして、私は彼への想いを閉じ込めたまま、大人になってしまったのだ。




 十数年が経った頃、同窓会のお知らせが来た。

私はすでに就職していた。これまでにも何度か同窓会のお知らせはあったけど、用事で行けないことがほとんどだった。

たまたま今回の同窓会の日にお休みが取れたので、出席してみることにした。

十数年振りに友達と会うのが楽しみであった。そして心のどこかで、彼が来ることを期待していた。


 同窓会当日、そこには彼の姿があった。私は喜んだ。十数年振りの彼である。

でも、一番見たくないものを見てしまった。彼の指では、綺麗な指輪が光っていた。


私にとってはその指輪が あんまりにも眩しくて しばらく何も考えられなかった。

私の方が彼のこと ずっと前から知っていたのに。ずっと前から好きだったのに。

それだけじゃ、ダメなのかな。私には 何が足りなかったのかな。


 私は今すぐにでも泣きだしたかったけれど、せっかくの楽しい同窓会の席でそんな姿をみんなに見せるわけにはいかない。

私は誰にも悟られないよう、精一杯明るく元気に振舞った。


「あんたは相変わらず元気だね!」


そんなことを友達に言われながら、思い出話に花が咲く。

中学生のときの私は、この地球上の誰よりも 元気だったんじゃないかと思う。

だって、どの思い出の中にも 彼の姿があったから。


私の中学校生活は、本当に彼一色だったな。


 そんなことで私が一人、物思いにふけっている隙を見つけて

あの彼がこっそり私に話しかけてきた。誰にも気づかれないように、こっそりと。


「おう、久しぶりだな。なんか無理してるみたいだけど、具合でも悪い?」






ああ、なんてこの人はずるいんだろう。


こんなに苦しい想いをするなら、もっと早くに彼にサヨナラをしておくべきだった。

自分の気持ちを ちゃんと伝えて 彼への想いに サヨナラを。


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