表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

八、

ボーイズラブ(腐向け・女性向け)要素を含みます。苦手な方、意味がわからない方は閲覧をしないでください。

ひとまず話をくぎります。

「疑り深いのは職業病だな」

 扉が開く。

 そうかもしれない。見知らぬ場所に来た時に、目の配り方が違う。観察する対象が違う。そこから導きだす答えも違う。

 僅かな違いだが、他の生き方を選ぼうとすると邪魔をしてくるのが、そんな些細なことだった。人をどう殺すのが効率がいいのか知っていることも、どうやって人を騙すのか知っていることも障害にはならない。一般人に”普通の人間”ではないと思わせ、軋轢を生むのは日常生活の中でにじみ出る差異だ。

 馬酔木もこうしていると普通に生活を営む人間のように見えるが、自分と同じ隠密なのだ。

「もし助けてくれたのが、農民なら私もここまで疑いはしなかった」

 本当にそうだろうか。

 うつむく。古びた床板は黒く沈んだ色をしていて、手を置くと相応の冷たさを返してきた。

 私の心はとっくに人を信用できないほどに暗く沈んでしまっていたのではないか。それを信じたくないから、馬酔木が隠密であることを言い訳にしているのではないか。

「お前の場合信じるのが、怖いだけかもなぁ?」

 心のうちを言い当てられた気がした。

 顔をあげると、馬酔木はまっすぐにこちらを見ていた。余裕のある笑みは、どこかへ消えている。

「俺も、怖い」

 それは聞かせるつもりのない言葉なのかもしれない。小さなつぶやきを聞き逃さなかったのは偶然としかいいようがなく、聞き間違いで片付けることも充分にできたのだ。

「嘘だ」

 思わず、口をついて出ていた。

 戦いの場においてあれほど強く、さしたる理由もなく敵を助け、感情をあらわにして笑ってみせる。自由に振る舞う人間とは、強いものだ。

「嘘なもんかよ。つまるところ、俺は話す相手が欲しいだけのような気もしてるんだぜ」

 少年のような顔で、馬酔木は笑う。

「お前は俺を信じたい。だから、疑い抜かずにはいられない」

 馬酔木は実は隠密ではなく、呪術師か何かでこちらの考えていることの一つ一つを読み取っているのではないだろうか。

 なぜ、ぴたりと言い当てるのか。

 己の中で形になっていないことでさえ、馬酔木はぴたりと言い当ててみせるのだ。

「どうして、分かる」

「ただの願望だ。案外うまくやっていけるんじゃないか、俺たち」

 何も負う所のない、清々しい笑みだ。

「怪我が、治るまでだ」

 どうせ、しばらくは動けないのだから。敵の情報も手に入れるかもしれないし、あるいは馬酔木の使う毒の情報だとか。

 それらを否定するだけの勇気が、自分にはまだない。

 怪我が治るまで。

 それが今秋雨にできる精一杯の言い訳だった。

 まだ続ける予定です。エロなどもできれば、書いてゆきたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ