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二、

今後ボーイズラブ(腐向け・女性向け)要素を含む展開になる予定です。苦手な方、意味がわからない方には閲覧をおすすめできません。

 旨そうな匂いと、朝餉をつくる平和な物音に誘われて目を覚ました。

 所帯は持っていないし、昨晩は森の中にいたはずである。目の前の現実を夢かと思うほど、あるいは夢を現実と取り違えるほど、秋雨は現実を甘く見ていたことはない。

 ゆっくりと体を起こす。腹の傷が痛んだが、貧血の方が深刻だ。意識が地面に引きずり込まれるような感覚に教われるがなんとか半身を起こすことに成功する。

 視界の端で、人が動く。額を押さえたまま、目だけをそちらに向けた。

「やぁやぁ、起きたか」

 随分と目を引く容貌の男だった。美しすぎる。

 秋雨は隠密だ。ごくごく平凡な顔をしていて、二三度見たくらいでは全く記憶に残らない自信があった。潜入や情報収集の際に、人の記憶に残りやすい美しい容貌は邪魔になる。この男が隠密ならそれは致命的な欠陥だろう。そんなことを考えた。

 だが彼が隠密にむいているかどうかなど、どうでもよいことだった。

 周囲を確認する。窓も扉も格子や錠がついている気配はない。捕まって牢に入れられているわけではない。外の景色はそこが一階であることを告げていて、城下とも思われない。二階に続く階段はない。ごく普通の一軒家のようだ。

 男は右手にご飯、左手にみそ汁を持って秋雨から少し離れた所に座した。傍らに、椀と箸を置く。

「怪我の具合はどうだ? 一応朝飯も用意したんだが」

 腹の傷にそっと触れてみる。血は止まったようだ。足も動かせば痛むが、手当はきちんとされている。きっちりと布を巻かれている感触が伝わってくる。

 この男は一体何者だ。

 にこにこと笑う男からは敵意が感じられない。

 殺すつもりなら、死にかけの人間をわざわざ助ける道理はない。油断しきった見張りとこの家では、捕らえておくことすらできないだろう。ならば通りすがりの親切な人間か。

「呼ぶ名がないと不便だな。差し支えなければ名乗れよ」

 だがあの状態で地面に転がっていた秋雨を、助ける一般人がいるだろうか。堅気の人間でないことは装束を見ればすぐにしれただろう。腹に刺し傷のある満身創痍の隠密を森の中からわざわざ運んできて介抱したのか?

 真意が読めない。この男は一体何者なんだ。

「お前には口がねぇのか。感謝しろとは言わないが、聞かれたことには答えやがれ」

 怒っているというよりは呆れているようだった。

 男はあぐらをかいた膝の上に頬杖をついて、不機嫌そうに顔を歪めていた。

「名は、差し支えがある」

 こんな時にかぎって、使い慣れているはずの適当な偽名が思い浮かばない。

 腹が減っているし、血も足りない。頭がうまく働いてくれないのだ。

 私は、なんと言う名だったか。

「ふん、面白いな。なら、くちなしなんてのはどうだ。喋らないお前にお似合いだろ」

 不機嫌そうな顔の口元だけが、横に引き延ばされた。

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