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プロローグ
-それは夜。
望月が眩しいほどに輝く日のこと。
張りつめた冷たい空気と静寂が空間を支配していた。
「ねえ、紫咲くん…」
ツン、と指で優しく触れても壊れてしまいそうな印象を与える少年が囁く。その頼りない声に、僕は土に向けていた視線をふっと上げる。
「ん、何?」
一言で表現すると無愛想な返事だった。いや、話しかけられるのが嫌なわけではない。嫌だったらこの少年と夜の公園で二人きりになどならないだろう。
まあ、これでも努力はしているほうなのだが―。
「あ、あの」
僕が少年をジッと見つめていると、少年は目を逸らしつつ、口を開く。
「…一緒に受けてくれない…かな…士官学校」
「は…?」
「ご、ごめん!いきなり!でも…本気なんだ、紫咲くん」
まさかこいつからそんな誘いがくるとはなあ。
この会話が、この少年の僅かな勇気が。
-僕を大きく変えることになるのだが。