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第二話

「はぁ」

 ジャックはため息をついた。

 なんでこうも続かないんだ。

 どんなに好きだった女性でも自分のモノになったとたん今までの熱が急に冷めてしまう・・・。

 そして彼女は、冷たい、やさしさがない、愛が足りないと不満をぶちまけ、最後には、いつもこの店で二人の苦しい時間が終わる。

 いつもそれの繰り返し‥‥。

 もう一度大きくため息をはく。 このバーの名物、ステージのグランドピアノにあわせて歌う歌姫の歌が、今ちょうど失恋ソングだ。僕の気持ちにぴったりなバラード調の調べで今にも涙がでそうになる。

 もちろん失恋のためではない。

 薄情な僕の恋心の所為だ。




「また今度もふっちゃったの?色男さん」

 突然、後ろからからかうような調子の声が聞こえ、ジャックは振り向いた。

 そこにはさっきまでステージで歌っていた歌姫が立っていた。

いつの間にか演奏は終わっていたのだ。

「いっつも、いっつもこの店に女の人と来るたび女の子のほうは泣いて帰っちゃうのよね」

 ジャックの隣のカウンター席に座りながら、歌姫はその端麗な顔に少しばかりのからかいの表情をうかべて言う。

 なんだこの人は・・・?

 この歌姫の第一印象はジャックにとって最悪まではいかないものの、良いものではなかった。

「なんでそんなこと・・・」

「なんで知ってるかって?」

 ジャックの言葉を遮り、ローズがすまし顔で言った。

「そりゃぁあんだけの数泣かして帰しゃぁ嫌でも覚えちゃうって」

 いつのまにか注文していたトロピカルジュースをストローから飲みながら、彼女はいけしゃあしゃあと言う。

「俺ってひどい奴ってコトか?」

 ジャックは無表情で彼女の方は見ず、前をむいたまま言った。

「まぁね」

 彼女も相変わらずの澄ました顔で肯定する。

「だったら…」なんで俺に話かけるんだ・・・。

と言おうとしたときふいにローズがカウンターの向こうを見つめたままぼそっとこぼした。

「でも、人間なんかそんなものじゃない?」

 ジャックは驚いてローズをみた。

「人間の心なんて思いどうりになんかいかない。悲しい時は涙がでてきちゃうし、好いことが起きればどうしたって嬉しいもの」

それに、と彼女は付け足す。

「どんなに悪い奴だって解ってたって好きなものは好きでどうあがいたって嫌いにはなれないもの」

 そう言った彼女の瞳はどこか遠くを見ているように感じた。だけどジャックはそんな彼女の一言に救われたような気がしていたのだ。



 しばらく二人は何も話さずにただ座っていた。

「帰るの?」

ジャックが席を立つとローズは口を開いた。

「ああ」

 ジャックはそう返事をすると出口へと向かう。

「ジャック」

 しかし、途中、彼は背後から呼び止められた。

 振り向くと、ローズは何もしてないかのように、ジャックの席を立ったときと同じにカウンターに前を向いて座ったままだ。


 だが、また、彼女の声がジャックまで届いた。


「また、来なよ」


 そして今度はこちらに背を向けながら手を持ち上げるとひらひらと軽やかに振った。

 ジャックの返事は聞こえたかわからない。それくらい彼の声はとても小さかった。




 ジャックはバーのドアを開けた。

 外は深々と粉雪が舞い降りていた。



 彼はとても不思議な気分だった。

 最後に見た彼女の後ろ姿が目蓋の裏側にちらついている。



『また、来なよ』



この言葉がジャックの心の奥をあっためていた。

 なぜかは、わからない。


 だけど、彼女の言葉を借りれば、



"嬉しいものは、嬉しい"んだ。




この寒い雪の日の出来事が、ジャックとローズの出逢いだった。

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