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魔力炉の子供達

突然ですが、以後はしばらく投稿のペースを落とさざるをえません。


時間はかかっても完結だけはさせる覚悟ですので、なにとぞご容赦を。

 森の中に建つ魔王城、ル・グラン・トリアノン。

 城の正面と裏には大通り、というよりは広場があり、真ん中には幾つもの彫刻が飾られた泉と噴水が並んでる。

 彫刻は水の中から飛び出す馬や魚達。その口から吹き上がる水の柱。

 特に城の裏にある大きな泉は、どちらかというと湖並みの広さ。その左右を太い通りが走り、城へと向かっている。

 それらは庭園である広大な森に囲まれている。

 広大な庭園は広い街道がぐるりと囲み、街道には多くの建物が並んでいる。城とルテティアをつなぐ道は大きな建物が密集してる。


 飛空挺や飛翔機の発着場は、城の庭園の端。広い庭園だけあって、その中に発着場を作ることも出来たようだ。

 上空には数隻が浮かび、発着場にも何隻もの大小様々な飛空挺が停泊してる。

 飛空挺の発着場とは別に、新たに切り開かれたらしい滑走路が隣に敷かれてる。

 飛翔隊は次々と滑走路に着陸していった。垂直離着陸機だけあって、何機かは垂直に地上へ降り立つ。

 そして僕らが乗る魔王一族専用機も、他の小型機に比べるとゆっくりと着陸した。


 機体の一部がバクン、と音を立てて開く。

 発着場の隅から車輪付きの階段がゴロゴロと押されてきて、機体のドアに横付けされる。

 発着場に居た誘導員や警備の兵士達が駆け寄ってきて、二列に並んで階段の前に綺麗に整列。

 そして王子王女達が機体から出てくると、全員がビシッと敬礼した。

 あ、いや、全員じゃないや。

 綺麗に並んでるのはワーウルフ・エルフ・ドワーフとか。

 あんまり綺麗に並んでないのは妖精やオーク、巨人とか。

 並ぶどころか、その多くが寄って来もしないのはワーキャット。遠くで昼寝したままとか、せいぜい耳を向けたり手を振ったりしてる程度。

 本当に魔族って、まとまらないんだなあ。


「ちょっと、どうして外をのぞき見してるのよ」

「出れないじゃないか。

 早く進んでくれ」


 王子王女達が全員出た後、怖々と外をのぞいてる僕と姉。

 頭だけチョコっとだして滑走路を観察していたら、後ろのリィンさんとデンホルム先生がつっかえて出れなくなってた。

 後ろから押されてるけど、いや、例の子供達がいたらと思うと。

 不発弾か時限爆弾同然な魔力炉の子供達が来てたりしたら、僕らなんて一瞬で消し飛ばされるんじゃないかと。

 そんな僕らを、出迎えの人達に囲まれたフェティダ王女が呼ぶ。


「大丈夫ですよ。

 ここは宮殿から離れていますから、危険はありません。

 降りてきて下さいな」


 機体のドアから周囲を見渡して、人間の子供らしき人影が無いのを確認。

 そして、姉ちゃんが後ろから押してくる。

 姉の盾にされることにも、もう慣れた。押されるままに移動式の階段を下りる。

 地上に降り立ったところで、オグル王子とネフェルティ王女が声をかけてきた。


「んじゃ、俺は仕事があるからな。ここでお別れだ。

 永久の別れにならねえよう、せいぜい死なないように働けや」

「あたしも疲れたから寝るねー。

 ルテティアの近くに家があるから、気が向いたら遊びにきなよ」


 オグル頭取は素っ気なく背を見せて、ネフェルティ飛翔隊隊長は手を振りながら、部下を引き連れて去っていった。

 ルヴァン王子は僕らの前に音もなく歩いてくる。


「私も仕事を幾つか済ませた後、数日中にダルリアダへ戻ります。

 あなた方の事に関しては、城にいる父上と妹へ引き継ぎます。

 フェティダ君も、あとのことはよろしく」

「分かりましたわ」


 それだけ言って軽く一礼、ルヴァン王子も部下を引き連れて滑走路を後にした。

 さて、飛空挺発着場と滑走路に残ったのは、空港の誘導員やら機体の整備員やらの職員達。あとは空港を警備している兵士達。

 フェティダ王女の部下であるドワーフ達も多くが、ジュネヴラからここまで飛んできた機体の整備にとりかかる。

 そんなわけで僕ら姉弟とデンホルム先生とリィンさんの前には、フェティダ王女様だけが残った。


「それでは、私が城へ案内します。

 道中は私が警護しますが、やはり危険は大きいので、離れないようにお願いします」


 フェティダさんが、王女様が警護?

 一瞬「?」と思ったけど、よく考えたら魔王一族は最強だから良いんだ。

 というか、最強の戦士だけが警護しなきゃならないほど、危険な状態なのか。

 やっぱり、ここで死ぬのかな……なんてブルーになりながら王女の後をついていく。

 すると滑走路の端に来たところで、馬車が城の方から走ってきた。


 森、としか形容出来ない広大な庭園の中の小道を走ってきた馬車は、僕らの前へやってする。 

 馬車といっても、引かれている物の形こそ馬車に似てるけど、それを引いてるのは馬じゃなくて大きなトカゲ達。

 そのトカゲにしたって、小型のティラノサウルスみたいな二足歩行。しかもウロコだけじゃなくて長い毛や羽にも覆われてる。

 リザードマンの御者がかけ声をかけると、足を止めた恐竜モドキ達が長い二股の舌をチロチロと出しながらこっちを見る。

 同時に停車した馬車のドアが静かに開く。

 中から姿を現したのは、少しウェーブがかかった長い黒髪と黒い目の中年女性。黒髪は簡単に後ろでまとめ、グレーの上着とズボンと革靴を履いている。

 耳は短いので人間族のように見える。

 その女性は馬車から軽やかに降り立ち、王女へ深々と頭を下げた。


「フェティダ王女様、ご帰還をお待ちしておりました。

 出迎えに遅れ、申し訳御座いません」

「構いません、おもてを上げて下さい。

 お久しぶりですね、ノエミさん」

「はい、フェティダ王女様もお変わりなく、なによりです」


 ノエミ、と呼ばれた女性は王女と笑顔を交わす。

 そして視線をずらし、僕らの方へと目を向けた。

 皿のように細めた目で、上から下まで僕らをマジマジと観察する。

 なにはともあれ、僕は頭を下げる。


「ハジめまして。

 ボクはカナミハラ=ユータとイいます。

 ウシろにいるのがアネの」

「カナミハラ=キョーコです。

 初めまして」


 後ろに隠れてた姉もピョコッと飛び出て礼をする。

 デンホルム先生とリィンさんも簡単に礼と自己紹介。

 ノエミという女性も同じく礼をした。


「初めまして、あなた方の話は伺っています。

 私はノエミ。皇国の人間族ですわ。

 魔王様の下で保母をしています」


 人間族のノエミと名乗った女性の耳は、なるほど人間の耳。

 去年のインターラーケン戦の後、たくさんの人間が魔界へ亡命したそうだから、その一人か。

 なんて考えてたら、リザードマンの御者からも声がかかった。


「魔王陛下もお待ちです。

 話は馬車の中で」

「そうですね。

 それでは皆様、城へ案内致しますわ」


 ノエミさんに促され、僕ら全員馬車に乗り込む。

 結構大きな馬車で、六人が前後のシートに三人ずつ乗っても余裕があるくらいだ。

 御者のかけ声と手綱を振る音と共にトカゲは走り出す。

 ほぼ完璧に整備された石畳の上を、ガタゴト音を立てて馬車が揺れる。

 馬車の中、ノエミさんは改めて僕らに向けて頭を下げた。


「本当に、来て下さってありがとうございます。

 多分、魔力炉の子供達の事は色々と聞いておられると思います。

 ですが、誤解しないで欲しいのですが、気をつけてさえいれば危険なことはないのです」


 ノエミさんの正面に座る僕と姉は、チラリと視線を交わす。

 危険が無いって、城を破壊し地面にクレーターを作る連中の、どこが危険が無いというんだ?

 きっと大魔法を連発して気に入らないヤツは皆殺しにする、しかも笑顔で。そんな子供に違いないわ。

 なんて会話をアイコンタクトだけでしてしまった。

 ノエミさんも、僕らの雰囲気だけで何を言いたいかは分かったんだろう。静かに話を続ける。


「まず、最初に言っておきます。

 子供達は高い魔力を秘めていますが、魔法は使えません」

「え?」「どういうこと?」


 僕も姉も思わず聞き返す。

 巨大な城を破壊する魔力の持ち主。だったら、巨大な魔法も使えるはず。


「確かに子供達は大魔力を秘めています。

 ですが、魔法を発動するための術式を知らないのです。

 術式を教えていないため、どれほど巨大な魔力を秘めていても、それを魔法として制御し、放つことが出来ないのですよ」

「ジュツシキ……」


 術式。

 魔法を発動させるための術式。

 アンクが魔法を使うとき、水晶玉内部や表面に多くの複雑な図形が描かれた。

 飛翔機の機体表面にも多くの方陣が描かれてる。

 魔界で使われる魔法のアイテム、宝玉。これは術式が書き込まれた宝石。

 飛空挺墜落の時に暴れ回ったジバチトカゲも、仲間の触手を組み合わせて図形を描いてた。

 あれが無いと、魔力を魔法として発動出来ないらしい。

 チラリと先生の方を見れば、疑問を口にする前に答えてくれた。


「魔法というのは、手足を動かすように自然に使える、という物ではないのだよ。

 魔力を蓄積し、凝縮し、一定の方向を与え、変化させ、必要な量だけを放つ……それらを実行するのが術式だ。

 この術式は、別に実際に描く必要はない。頭の中で描くだけでも魔法として放てる。

 だが、魔法を使い続ける間、ずっと術式を脳内に思い描き続けるのは難しい。これには特殊な訓練を何年も積まねばならないんだ。補助的に呪文を唱えたり手で印を組んだりするが、それも一時的なものでしかない。

 でも術式を何かに予め描いて所持しておけば、術者は自分の魔力を術式に流し込むだけで魔法を発動させることが出来る。

 それも硬く丈夫な物に書き込めば、図式を小さくコンパクトに書き込めるし、持ち運びに便利なのだよ。

 それが宝石に術式を描いた宝玉、というわけだね。

 なおかつ、高品質の宝石は魔力を蓄積する能力が高くてね。それがあれば微弱な魔力で強力な魔法を放つことも出来る。

 それに、紙や石に術式を描くと、曲がったり削れたりインクが落ちたりで、すぐ使えなくなる。金属も気温の変化で伸び縮みするからねえ」


 ふーん、と納得する僕と姉。

 あの宝玉って魔法のアイテム。どうして大方が宝石だったのか不思議だったけど、そういう理由だったのか。

 なるほど、硬い宝石になら細かい字と線が大量に書き込めて、簡単には壊れないし、持ち運びに便利。曲がらないし熱で変形もしにくい。

 魔法の種類だけ宝玉を持ってれば、魔力が尽きるまで様々な魔法を連続で使える。

 あ、ということは……逆に言うと、術式が無いと魔法が使えない。


「理解してもらえたかな?

 術式は本来、学ばなければ身に付かない、使えない。

 そしてそれは極めて高度な知識なため、幼い子供には理解出来ないんだ」


 この話にノエミさんも頷く。

 皇国の魔法技術について説明してくれる。


「皇国では僧院に入るか、神学校や士官学校に入学しないと本格的には学べないわ。

 独学でも出来ないことはないけど、大変な苦労よ。昔は貴族や金持ち相手に教える学校しかなかったのだけど、もちろんお金がかかるわ。あとは術者に弟子入りするか。

 宝玉にしても、普通は宝玉加工専門の魔導師がカッティングした宝玉を買うの。もちろん高額なので、金持ちしか買えないけど。

 一部の魔族、そこの、えと」

Sieglindeジークリンデ、みんなはリィンと呼ぶわ。覚えておいてね」


 自己紹介はされたけど、リィンさんの名前を忘れてしまったらしいノエミさん。

 ちょっと赤くなりながら話を続ける。


「そうそう、そうでした。失礼しました。

 リィンさんみたいな妖精のように背中に空を飛ぶ羽を持つとか、生まれつき何らかの魔法を使える種族もいるわ。

 これは、生まれつき体内に術式を組み込まれてるのね」


 ふふん、と得意げにお澄ましするリィンさん。

 そして今の話だと、子供達はまだ術式を学んでいないので、魔力は高いけど危険はないということになる。

 でも……城は崩れてるんですけど。


「でも、シロは、クズれてるけど……あれは、ナンで?」


 その質問に、ノエミさんは表情を暗くする。

 言いにくそうに口ごもった末、意を決して話し始めた。


「その、魔力は、術式を与えなければ魔法としては発動出来ないんだけど……実は、魔力そのままで放出する方法がありまして。

 あまり詳しく説明するのは控えるように言われてるんですけど」

「ヒカえるって何を、なぜ?」

「それはですね」


  ガタンッ!


 いきなり馬車が大きく揺れた。

 馬、じゃなくて恐竜みたいな大トカゲが悲鳴らしき鳴き声を上げる。

 同時に御者のリザードマンが叫び声を上げた。


「な、何!?」


 今まで黙って聞き役に徹していたフェティダ王女がドアを開け放つ。

 だが瞬時に身をよじる。頭を横に振る。

 長い金髪が移動して出来た空間を、何かが通った。


  ぺちゃ


 僕の顔に、飛んできた何かが張り付いた。

 妙に冷たくて、ペタペタした、ぬるぬるの物体。

 それが顔の真ん中に張り付いてる。


  バシュッ!


 風を切る音と共に、馬車からフェティダ王女の姿がかき消えた。

 目にも止まらないほどの一瞬で、馬車から飛び出してしまったようだ。

 で、王女の体がかき消えた空間から、さらに何かが飛んできた。


  ぺちゃぺちゃぺちゃぺちゃ


 緊張感のない音が馬車の中に響く。

 音の方を見れば、車内の全員の顔や頭に、何かが張り付いてた。

 ずるり、と僕の顔から落ちた物を反射的に手にとって見る。

 カエル。

 茶色のトノサマガエル、みたいなもの。

 それが僕の顔に張り付いてた。

 他の人達も見てみれば、頭や胸元やらに大小様々のカエルが張り付いてた。

 硬直した姉ちゃんの顔には、特大のガマガエルみたいなのが。


「き……ぎ、ぎゃ、ぎにゃあああああああああああああああああっっ!!!!」


 姉の絶叫が馬車に響く。

 続いてカエルを振り落とすリィンさんとデンホルム先生の叫び。


「や、やだ! なによこれ!? 気持ち悪い!」

「カエル? なんだ、カエルじゃないか。

 キングブラウンカエルに、食用のカウカエル、その他にも色々といるようだが、いきなりどうしたと言うんだ?」


 こんな時でも詳細にカエルの種類を解説する先生。

 姉は特大のカエルを顔に貼り付けたまま、白目をむいてる。

 そして外からは甲高い声が響いてきた。


「こらー! お客様になんてことをするのっ!?」

「ふーんだ! どうせそいつらだって、すぐに逃げ出すんでしょ!?」

「もう! 聞き分けのない子は、こうです!」

「うぎゃー! 痛い、痛いってフェティダおばちゃん!」

「だ、誰がおばちゃんですか、誰がー!」


 何時の間にやら馬車を飛び出したノエミさんと、おばちゃんと呼ばれて激怒するフェティダ王女が捕まえてるのは、子供。

 結構上物の服を泥と草で汚した子供達。

 恐らくは5歳から10歳の子供達が、ノエミさんに追いかけ回されたりフェティダ王女にお尻ペンペンされたりしてる。

 馬車から顔を出して大トカゲと御者を見れば、何か粉のようなものを振り払いながらクシャミをしてる……コショウか?


 と、いうことは。

 コショウを大トカゲと御者に投げつけて足止め。扉を開けたところで車内にカエルを投げ込んだ。

 それをやったのは、あの逃げ回ったり憎まれ口を叩いてる、子供達。


 あれが、魔力炉の子供達か!?


次回、第十一章第二話


『エプロン魔王』


2011年7月22日00:00投稿予定



現在の予約投稿

第十二章 2011年8月17日

第十三章 2011年9月5日

そして十月より後編を開始します


書き溜めは数十話先、物語の折り返し地点から少し先までありますので、このペースならしばらくは大丈夫。

以後も少しずつながら書き進めています。

投稿に間があいても中断放棄はしない覚悟です。ですが、挫けたりしないよう叱咤激励してくれると励みになります


どうかこれからも、気長なお付き合いを宜しくお願い致します

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