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魔界近代史:2/3

 部屋に戻ったら、既に先生が居た。

 すでに準備万端、資料である地図の量もサイズも、本の数もハンパじゃない。本には付箋が大量に挟まれてる。

 いつにもまして気合いが入ってるな。


「エズラ支店長からの話は終わったようだね。

 やはり皇国の話はゴブリンの流浪の歴史から始めた方がいい。

 その後の歴史、魔界と皇国の戦乱は私から詳細を説明しよう」


 部屋で黒板を前に、先生は待ちかねたかのように授業を始める。

 ぐへー、と姉と二人でダウンしちゃいそう。

 とにかく、それから何日もかけて皇国と魔界の戦乱について説明がなされた。





 神聖フォルノーヴォ皇国。

 ゴブリンの聖地ロムルスを獲得したナプレ王国は、神聖フォルノーヴォ皇国へと名前を変えた。

 この時点までは魔族と人間、魔界と皇国なんていう区別はなかった。

 なぜなら、種族間抗争なんて珍しくなかったから。


 エルフとドワーフは極め付けに仲が悪い。

 リザードマン達は無表情で何を考えてるのかわからないと嫌われてる。

 ゴブリンは血も涙もない金貸しとして恨まれ続けた。

 特別仲が悪くなくても、些細なことで生じた小競り合いが、即座に戦乱へ結びつく。

 その中では、人間による多種族への迫害も、少々派手ではあったけど珍しいものではなかった。


 だが、一つの転機が訪れる。

 皇国はある新興宗教を国教と定め、信仰による支配を国土に敷いたのだ。

 宗教名は、アンク教。

 ピエトロの丘に顕現したる三位一体にして同一たる福音、とかいう存在を崇めてる。

 その存在の名前がアンク。

 ご神体は球体を三つピッタリと三角形に並べたような形をしている。


 て……それって魔法の水晶玉、魔力式スーパーコンピューターの名前じゃんか!

 スパコンが信仰の対象で、しかも敵国たる魔界のジュネヴラで使用されてるって、どういうこと!?


「それについては、後々ゆっくりと説明がされます。

 今は魔界と皇国の戦乱について説明しましょう」


 先生は、アンクのことは置いといて、話を続ける。





 王国は皇国となり、北部の小国も呑み込み、アベニン半島に統一国家が築かれた。

 だがアンク教の教義では、人間以外の種族は地獄からの使者であり悪魔である、と教えていた。

 この教えに従い、半島で暮らしていた人間以外の種族へと襲いかかる皇国軍。

 アンク教が御神体とするアンクの演算能力もあって、その強さはケタはずれ。


 しかも人間達の中から化け物が現れた。

 常に皇国軍の先陣を切り、撤退する人間を守る、神出鬼没の戦士。

 すなわち、勇者。

 勇者は死を恐れぬ鬼神のごとき戦いぶりを見せる。信じられないことに、何度も殺されても復活してくる。

 人間にとって勇者は神の戦士であり、その他種族にとっては恐怖の化身だ。

 魔王軍内では、勇者は矢の方が避けていく、勇者に向けた剣はひん曲がる、大砲で勇者を撃とうとしたら暴発する、とまで噂される有り様。


「ナンドもコロされて、そのたびにフッカツする?

 そのナが、ユウシャ?」


 質問に頷く先生。

 でも僕は首を捻る。

 不死の戦士である勇者って、実際に勇者が存在するのか。しかも敵として。

 でも、この世界は魔法世界だけど、決して無茶苦茶で理解不能な不思議法則で動いてるワケじゃない。

 死んだ生物は蘇らない。

 なら、その勇者と呼ばれる無敵の戦士であっても、死んだらそれまでのはず。

 例え魔法だとしても、何らかのからくりがあるはずだ。


「この勇者については謎が多く、私にも語れることは少ない。

 今はともかく歴史を語ろう」


 勇者のことも脇に置き、歴史の話が続く。

 統一国家と統一宗教の下で一致団結して迫りくる人間達に、いまだ同種族内でも小競り合いを繰り返している魔族の小部族は太刀打ちできない。

 その侵略と虐殺と追放の規模は拡大し、皇国の侵攻から逃げ出した者達は難民となって他地域へ流入。

 人間たちの侵攻に押され、それ以外の地域にも混乱が広がった。

 魔族同士でいがみ合い、その地の住民と避難民とで殺し合い、その間隙を突いて皇国は更なる侵攻を繰り返す。


 人間と皇国は、魔族の中でも特別な存在と認められた。

 無慈悲で強欲で残忍な、血も涙もない悪の象徴として。

 悪魔の力を我が物とし、世界に死と破壊をもたらす地獄の軍団、と。


 だが救いの神は現れた。

 皮肉なことに、人間の中から。

 侵攻を繰り返す皇国から、後に魔王と呼ばれる人間の若者がエルフの国ダルリアダへ亡命した。

 今の王子王女となる子供達を引き連れて。


 魔王一族は、アンクのエネルギー源として開発された存在。

 魔力炉と呼ばれる、魔力供給生物として改造された人間とその他の魔族達。

 無理やり改造された魔王は、研究所を破壊して実験材料の人々を救出し、ダルリアダへ逃げてきたのだ。

 その話に、さっきの勇者の話と同じく、僕は興味をひかれてしょうがない。


「す、スゴいですね。

 マオウこそがセイギのミカタで、ユウシャがテキだなんて」


 隣の姉ちゃんも魔王の物語に食いつく。


「本当だわね。

 ジャアクなジッケンからナカマ達を連れてダッシュツ、マゾク達をまとめあげて皇国に立ちムかうだなんて。

 きっとアツく燃えるタマシイの持ち主とか、強いイシを胸にヒめる人なのね」


 そんな姉の予想に、先生は苦笑い。


「はは、いやまあ、そんな風に思うのも当然なんだが。

 でも実際には、陛下はそういう人柄ではないんだ。

 むしろ、まるで春のように穏やかな方と言うべきだろう」


 先生が語る魔王の姿は、僕らが考える魔王像からはほど遠い姿。

 魔王は、とってものんびりした人だった。

 荒っぽいことが嫌いで、細かいことは気にしない、どんな悪口も笑顔で流す人。

 人間達に追われ混乱する各種族部族を根気よく説得し、誤解を解き、利害をすり合わせた。

 何より、皇国の侵攻からそれ以外の種族を守り続けた。


 結果、人間以外の種族は魔王の下に集結。

 力を合わせて皇国の侵攻に立ち向かう。

 おかげでどうにか反撃に成功、インターラーケン山脈の向こう側へと押し返した。

 押し返した所で魔王は攻撃を停止。各地に巨大な要塞を築き、そのまま専守防衛に徹した。

 どんな挑発をされようと、なにがあろうと、要塞を守ったまま動くことはなかった。

 昨年までは、要塞を挟んで小競り合いがたまに起きるだけの、安定した冷戦状態が何十年間も維持されていたという。


 こうして、魔界と皇国は明確に区別された。

 地獄の使いである人間と、平和を愛する魔王の下で手を携える魔族。

 インターラーケン山脈を国境ラインとする魔界と人間界。



 この話を聞いた僕は、驚いたし納得もした。

 イタリア軍って地球では弱いことで有名だったのに、この世界では強いんだな、と。

 やっぱりパラレルワールド、色々と違うところもある世界なんだ。

 んでもって、やっぱり魔族と魔界の側からみれば、人間と勇者の方が侵略者で悪役なんだな、と。


次回、第十章第三話


『魔界近代史:3/3』


2011年6月27日00:00投稿予定

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