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SRBM

「ルヴァン様! イソいで!」


 言うが早いか裕太は翼を広げて飛翔する。

 見る限り、弾道マジックアローは2つか3つ。だが次々と増え、大気圏外から落下している。

 そのうちの幾つかは間違いなくジュネヴラを狙っている。


 風を切り裂き、遙か上空へ飛翔する裕太。

 状況に気付いた飛翔機も次々と急上昇を開始する。

 そのさらに後ろ、地上から舞い上がる巨大な翼、魔王も天へ駆け上っているのが見えた。


「まさか『大陸間弾道弾』で来るとはね。

 やってくれるよ」


 青さを増す空へ駆け上がる裕太が呟く。

 皇国本土から発射されたそれらは、一旦大気圏外に出てからジュネヴラへ落下してきたのだが、射程距離的に言うなら大陸間弾道弾ではなく短距離弾道ミサイルのそれに近い。

 だが去年まで普通の高校生だった彼に、大陸間弾道ミサイル(ICBM)と短距離弾道ミサイル(SRBM)の違いは分からない。

 いずれにせよ、これらを撃墜しなければインターラーケンクレーターが火の海になるのは疑いない。


「けど、数は少ないな。

 これならなんとか撃ちオとせ……え!?」


 未だ遙か上空に浮かぶマジックアローが、割れた。

 バラバラと外殻を剥がして中から現れたのは、大量の子弾。その数、百近い。

 子弾とはいえ一つ一つが十分に大きく、地面に落ちて爆発すれば大穴が空くだろう。

 大気圏突入時の加速は失って自由落下するだけの子弾は、速度こそ空気抵抗で徐々に落ちつつある。

 だが、数が半端ではない。しかも見る間に広範囲へ拡散していく。

 おまけに、子弾を散布し終えた親機は速度を落とさない。

 間違いなく親機も爆弾としての機能を維持している。


「く、くっそおっ!」


 新魔王たる裕太が、旧魔王たる老人が、新型飛翔機が空へ駆け上る。

 彼らが飛び立った地上では、広範囲に煙幕が漂っていた。

 それは勇者隊が放った煙幕弾。ところどころに一瞬強い発光もある。閃光弾や、その他様々な探知阻害系爆弾がばらまかれているのだろう。





「ぐほげほ、クソ、やられたぜ」

「みんなして上を向いた一瞬を狙われるとはな」


 視線が逸れた一瞬に煙幕弾、閃光弾、怨響弾、その他もろもろを一気にばらまいた勇者隊。

 炸裂する音と光と煙に紛れ、皇帝と勇者隊は消えていた。

 一般兵と従者達も一気呵成に包囲を一点突破し、森の中へと消えていく。

 もちろん皇帝の姿も消えていた。

 ただ、一枚の紙が残されている。

 それを手にしたトゥーンは素早く読み上げた。


『まだ殺さぬ。

 お前達で開戦の鐘を鳴らすが良い』


「だとよ」

「んじゃ、やるか」


 面倒臭そうにボソリと呟いたオグル。

 地面に手をつき精神を集中する。するとオグルを中心とした巨大な魔法陣が現れ、淡く光り出す。

 魔導師達はオグルを中心とした魔法陣に入り、座って精神を集中する

 周囲の部下達は印を組み、突風を起こして煙幕を晴らす。

 音と光で目を回した仲間を助け起こした兵達は、数隊はオグルを中心とした魔法陣の警護のため円陣を組む。残りは隊列を組み直して武器を手に森を睨む。

 トゥーンは魔法陣の中心に立つオグルの真後ろに立ち、高速で印を組む。


「俺の魔力を使え」

「ほう、気前が良いじゃねえか」

「俺は魔力無しで戦えるからな。

 むしろ邪魔だ」

「そういえばそうだったな。

 んじゃ、遠慮無く使わせてもらうぜ」


 トゥーンの魔力が注ぎ込まれた魔法陣は、さらに強く輝く。

 それは『増幅』の魔法陣。

 他にも周囲にいる魔導師からの魔力も流れ込み、オグルの目は眩しく輝く。


 醜い王子は空を見上げる。

 既に巨大マジックアローと大量の子弾が空一杯に広がっている。

 目が激しく輝く。


 光。


 光の柱が天を貫く。

 一瞬で消えたそれは、雲にすら穴を開けていた。

 同時に親機が一機、爆発して破片を四散させる。

 幾筋もの光が空を穿ち、そのたびに爆発が生じ、爆炎が地対空レーザーの射線を遮ってしまう。

 裕太の触手が、飛翔機の機関砲が、空から降り注ぐ子弾を破壊していく。


 そして魔王は、戦っていた。

 勇者隊、恐らくは皇帝の警護に残ったろう二人を残した十人が、一斉に魔王を襲う。

 マジックアローの親機と子弾の破片が降り注ぐ空、巨大な翼を広げる魔王の周囲を飛び回る。

 魔王の雷撃を、触手を、風を軽快にかわし、真っ黒な魔力の衣に覆われた魔王の首を狙って剣と矢と銃を撃つ。


 地上でも戦いは始まっていた。

 オグルを中心とした魔法陣を破壊せんと、森から矢と銃撃が飛ぶ。

 重装甲の巨人族が盾を構え、魔法陣に加わっていない魔導師が大岩を浮かべ積み上げて、激しい攻撃を防ぐ。

 翼持つ者達が舞い上がり、森を空から銃と矢で狙う。

 セドルン要塞からは尽きることなく援軍が吐き出されていく。


 インターラーケンクレーター限定戦争は、幸せな結婚式の舞台となった礼拝堂すらも単なる弾除けとし、着々と穴だらけにされていく。


 そんな中、一発の子弾が迎撃をかいくぐり落下した。

 幸い駐屯地や要塞からは大きく離れた場所に落ちたそれは、爆発する。

 地面を大きく抉るような大爆発を。

 爆炎が舞い上がり、空から土砂のシャワーが降り注ぎ、近くに立っていた木々が吹き飛ばされなぎ倒される。

 結果、大穴が生まれた。

 たった一発の子弾が、森の木々を吹き飛ばし地面を穿っている。

 それらが全て地上に降り注げば、駐屯地も魔王軍も壊滅してしまう。

 その威力に、魔族側の兵士達の背筋が寒くなる。





 大空と大地が戦いに埋め尽くされたインターラーケン。

 その片隅では次元回廊実験が開始されていた。

 空から降り注ぐ爆発音、舞い落ちる火の粉と破片。だが戦闘自体は実験場までは及んでいない。

 幾重も円を描く魔法陣、その真ん中の円に陣取る子供達とデンホルムは魔法陣とアンクに魔力を供給し続けている。

 対暴走用の抗魔結界を持つ装備を着たままだが、魔法陣自体は問題なく動いている。魔力を供給するだけなら大丈夫なようだ。魔法陣にも装備は直接触れていないので陣が消されたりもしていない。

 テントの中、京子はルヴァンに叫ぶ。


「ルヴァン様! も、もういいです!

 ここも危険です! みんなで逃げましょう!」


 あまりの状況に京子は実験中止を勧める。

 だがルヴァンの手は止まらない。イーディス達助手の手も。


「もう少しです。

 見ていて下さい。

 もうすぐ、太陽暦で完全に一年前と時間も一致するのです」

「だーっ!

 そ、その、今さらなんですが言いにくいんですが、公転周期だけじゃダメなんです!

 ビッグバン以来宇宙は広がってて、銀河系も回転してて!」

「言いたいことは分かります。宇宙の絶対座標上は全く別の場所にいますから。

 問題は絶対座標上ではなく、重力バランスなのですよ。

 衛星もずれてますが、恒星との並びが生み出す重力場は大方が一致しているはずなのです。

 魔法陣中心の気圧は上げてあります。チキュウ側より高圧にしてあるのでビーコンも吸い」

「そそそんなことはもういいです!

 あ、ああ、あたし、もう帰りませんから!

 地球諦めますから! 逃げて、みんな逃げてえー!」


 だがルヴァンは逃げない、止めない、諦めない。

 外で魔法陣に魔力を供給する子供達も、実験に協力するデンホルムとイーディスも、誰も実験を止めようとしない。

 魔法陣の光は強くなり、その中心には地響きが起き始める。



 黒い穴が生まれた。

 魔法陣の中心、地面を呑み込むように丸く黒い穴が広がる。

 それは一瞬で消えた。

 地面の一部と、ビーコンを呑み込んで。



 魔法陣は解除される。

 魔力の光も止み、陣に魔力を供給していた子供達も力を抜いて息を吐く。

 代わりにテントの中から京子の声が上がった。


「……ぎゃあーっ!」



 アンク下の台座にある巨大タッチパネル。

 その一部が画面として機能し、ビーコンからの通信用重力波によって受け取った内容を表示する。

 多くは数字や記号であり、ビーコンが探知した各種情報が高速で流れていく。

 ルヴァンの目は、普段ならそれら各種情報を見逃さない。だが今回は違った。

 彼の目は、京子と同じ物を見つめている。

 二対の目が、パネルの一カ所を凝視する。

 映像データ。

 ビーコンが撮影した画像が表示されている。


 麦畑。

 地面はアスファルト。

 遙か向こうには、山の上に立つ建物も見える。

 その画面を見ただけで、京子は涙が出そうになった。


「……地球だ……これ、地球よ……!」

「や、やりましたですよ。

 とうとう惑星に、異世界に、他の文明世界へ繋がったのですよお!」


 隣のイーディスも叫んでしまう。

 幾度も帰ることを夢見た光景。

 懐かしき故郷。

 同じく映像を見つめるルヴァンは、珍しく興奮して上ずった声を上げながらも、冷静で懐疑的な言葉を口にする。


「これは、間違いなく地球ですか?

 別の時間や場所、別パラレルワールドの地球という可能性は?」

「ま、待って……!

 これだけじゃ分からないわ、別の場所を映せる?」

「出来ますです。

 少し待って下さいです」


 イーディスの指がパネルを叩く。

 その動きに合わせて映像が横へずれていく。

 麦畑から誰もいないアスファルトの道路へ、その隣のブドウ畑と風景は移り変わる。

 道には赤丸に50や青地に白い矢印などの道路標識が立っている。

 それは、どうみても二十世紀の地球、しかも日差しや緑の濃さは夏だ。


「見たとこ、地球っぽいんだけど……て、え……あ、あああ、ぎゃあーーっ!!!」


 京子の絶叫が響く。

 ルヴァンも細い目を見開く。

 本来は絶対に有り得ない映像が映っていたからだ。

 そしてその意味は、ルヴァンも京子も一瞬で理解した。

 一瞬、訳が分からないという顔のイーディスも、すぐに理解して驚いてしまった。


「こ、こんなことが起こりうる、ですか……?」


 映像には、道路を歩く四人の男女がいた。

 前を歩くのは中年で黒目の男女。男の方は髪が寂しく白髪交じりだが、二人とも基本は黒髪。

 後ろを歩くのは若い男女、同じく黒目で、女の方は髪が茶色い。

 四人ともくたびれたシャツとジーンズを着て、背中に大きなリュックを背負う。中でも後ろの若い男は、一際巨大なリュックを背負っていた。


 京子と裕太。


次回、第三十章第五話


『回廊は開かれた』


2012年6月7日00:00投稿予定

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