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表と裏

はぁはぁ、ついに息切れです…


連日投稿、頑張りましたが、ここらで一休みが必要です


次回からはついに起承転結の、結へと入ります。情け容赦なき戦場へと。


この拙作に長くお付き合い下さった皆様、今後は血と硝煙が香る物語となります。


そういうものに耐性がありますなら、いま少しのお付き合い、よろしくお願い致します

m(_ _)m

 寒々しい雪の上、囚人服の上に差し入れのコートを羽織り、バルトロメイは魔王の前に跪いている。

 次に彼は城で一年を共にした仲間達へ頭を下げた。


「お世話になりました。

 本当に、ご迷惑をおかけしましたわ」


 あちこちからすすり泣く声。

 ミュウや子供達はポロポロと涙を流す。

 魔王はミュウの背中をさすり、大人達は泣きべその子供達を慰める。

 頭を上げた元皇国軍少将にして元魔王城コック長は、今度は京子と裕太へ向けて再び深々と礼をする。


「ありがとうね、二人とも。

 あなた達のおかげで命拾いしたわ。

 ちゃんと刑期を終えて、改めて会いに行くから、それまで元気でね」

「バルおじさん。

 キョーコはともかく、変態のユータになんか礼を言うことないぞ!」


 声を上げたのは涙を拭くシルヴァーナ。

 ヴィートなど、他の子供達も裕太を指さして責め立てる。


「ユータ兄ちゃん、おじさんを見捨てる気だったんだからな!」

「本当よ、全部キョーコ姉ちゃんのおかげじゃないの!」

「あらあら、それは違うわよ」


 子供達の抗議の声を遮ったのは、他ならぬバルトロメイ自身。

 まだ話を続けようとした彼だが、それを遮ったのは裕太だった。


「あの、バルトロメイさん、そういう話はこの子タチが大人になってからに」

「あー、うんと……いえ、ダメよ。

 この子達は魔界で生きていかなきゃいけないの。いずれは自立しなきゃいけないわ、それも早いうちに。

 子供扱いは出来ないわ」

「えっと、でも……ちょっと」


 迷った裕太は周りを見る。

 京子は「好きにしなさい」という態度、魔王とミュウは頷く、子供達は「何の話だろう」というキョトンとした感じ。

 さてどうしたものだろう、と考え込む彼を見て、少し笑ったバルトロメイは話し始めた。

 今回の裁判の裏事情を。


「ユータはね、各街区領主の屋敷を回って説得してくれたのよ。

 この城の人間達も同じルテティア市民だって、魔界とルテティア市のために働くことに違いはない、てね。

 それと、あたしが今後も色々と役に立つ人間だって説明してくれたの。処刑するには惜しいって。

 勇者を倒し陛下を救ったユータの話ともなれば、さすがに各種族の領主達も人間の言葉に耳を貸してくれたわ」


 その話に子供達は目を見開く。

 恥ずかしそうに頭をかく裕太へ驚きの視線を向ける。


「その上で、人間もルテティア市と魔界に貢献するってところを見せるため、街に献金や寄付をしたのよ。

 スラムへの下水道拡張工事、街道整備、井戸掘り、土地を買ってゴミ捨て場として寄付したり」

「え……ワイロってやつ?」


 眉をしかめたのはシルヴァーナ。

 生臭い単語に大人達は一瞬眉をしかめたり驚いたり。

 でもバルトロメイはニッコリと笑って答えた。


「ごく一部の上の人だけが得をするならワイロだけど、ユータは市民みんなが得をすることをしたからワイロじゃなくて寄付よ。

 領主達も、街が綺麗で便利になって住民に喜ばれるので、敵種族である人間からでも堂々と受け取れたの。最終的には自分の名と富が上がるし、ね。

 これは大人の事情だけど、大人になればこういうことも必要よ。

 覚えておくといいわ」


 今ひとつ納得できなさそうなシルヴァーナ以下の子供達。

 ともかく元コックは話を続ける。


「で、各種族の領主はそれぞれの配下の判事に話を通してくれたのよ。あたしに情状酌量をかけて良いって。

 まー、この辺はあれね。魔族も人間も同じだわね」


 地球の民主的先進国であれば、司法の独立性の点から、裁判官に外部から圧力をかけることは許されない。

 だがここは魔界、まだまだ文明レベルの低い国家連合体。ルテティアの高等法院でも司法の独立性は形式だけのものでしかない。

 むしろ司法の独立という概念が存在しない種族地域の方が多い。

 でなければ統治者である魔王が最高判事を兼ねたりしない。各街区領主が部下を判事として法廷へ派遣するという形式をとらない。

 法体系が未整備な国世界だからこそ出来る、金にものを言わせた買収劇だ。寄付という形式をとれば胸を張って行えるほどの。



 なぜにバルトロメイは死罪を免れぬとされたか。

 一つ、魔王という魔界最高位にある唯一無二にして至高の存在への反逆荷担という重罪。

 一つ、過去の判例を積み重ねた魔王典範に照らすと死罪以外の刑に処す根拠が無い。

 一つ、敵国敵種族出身の人間に情をかける必要も利益もない。

 これらをまとめて覆すのは、まさに奇跡というべき困難だ。

 同時にこれらを解決せねば、『過去の例に比して意味無く罪を減じると、他種族との不公平となり魔王統治の正当性に反する。今後の反乱防止効果も望めない』という批判を回避出来ない。

 京子はこれらを分析し、一つ一つ解決していった。


 彼女の法律知識、罪刑法定主義という理論的根拠。

 魔王自らの『市民宣言』という政治的地位の明確化と特権の否定。

 バルトロメイの利用価値。

 裕太の『対勇者戦の切り札』『陛下の懐刀』という名声。

 魔王が食事用ナイフを研いだ程度の武器で殺されるはずもない、という魔界の常識。

 何より、金。

 これら、高等法院での法廷闘争と街での寄付攻勢が合わさり、適用法規が魔王典範から市民法へ変更された。情状酌量もなされた。

 バルトロメイの命は救われた。

 全ては京子の計画、というより賭け。



 バルトロメイは子供達と仲間達一人一人と抱き合い、別れの言葉を交換する。

 最後にもういちど魔王の前に跪く。

 そして手を振りながら飛空挺へと乗り込んだ。

 北の空へ飛び去る機体は、魔界北方の海岸近くに浮かぶ小島に立てられたモン・トンブ監獄へと向かう。

 数奇な運命を辿る男を、機体一杯に積み込まれた差し入れの品と共に乗せて。



 雲間に機体が隠れて見えなくなった頃、ようやく人間達は涙を拭きながら城へと戻っていく。

 皆が去りゆく中、まだ空の彼方を見上げているのは京子と裕太。

 だが京子の姿は見送っていると言うより、呆然としているかのようだ。

 彼女は大きく息を吸い、そして、大きな大きな溜め息として吐き出した。


「うああぁ~……あたしのお金え……スマフォまで売った、あたしのお金え~」

「ハンブンはボクのでしょーが」

「うっさいわね! どっちにしても、お互い一文無しよ!」

「まーまー。

 これからも給料はもらえるんだから、いいじゃない。

 ルヴァン様からは他にもイロイロ売って欲しいとか言われてるし」

「こ、こんな調子でいたら、あっと言う間に全部なくなっちゃうわ!」

「でも代わりに、ステキなものを手に入れたよ」

「……何よ」

「友の命、さ」

「カッコつけてんじゃないわ!」


 そんな漫才をする二人の背後から「ねーねー」と声をかけてくる者がいた。

 振り返れば、そこにはリィンとシルヴァーナ、他にもルテティアへ飛んでこようとした年長の子達。

 モジモジとする子供達、代わりにリィンが説明する。


「この子達が、ユータに謝りたいってさ」

「あ、そんなこと?

 ベツにいーよ、大したことじゃないし」

「そ、そんなこと、ない!」


 顔を上げて叫んだシルヴァーナ。

 他の子達も口々に裕太に謝り、彼の奮戦を讃えた。


「ホントにごめん、あたしたち、そんなの全然知らなかったの」

「まさかにーちゃんとねーちゃんが、おじさんを助けるために全財産をつぎ込んでたなんて。

 魔物達と話をつけてくるなんて、ホントにすげーぜ!」

「私、キョーコねーちゃんみたいになる!

 ねーちゃんみたいに頭の良い、スッゴイことが出来る役人になってみせるわ!」


 子供達に、ここまで素直な感謝をぶつけられて、悪い気がするはずもない。

 二人とも照れくさいやら誇らしいやらで、クネクネと身をよじったり頬をポリポリかいたり。

 シルヴァーナは裕太の前へトトトッと駆けてきて、彼の頬に手を伸ばした。


「あん時、はたいちゃってゴメンな。

 痛かったろ?」

「あ、別にダイジョウブだよ。

 気にしないでいいから」

「そうもいかないよ。

 アザとか残ったりしなかったか?

 よく見せてよ」

「ん、ダイジョウブだって。

 ほら」


 裕太は頬に傷も何も残ってないのを見せようと、身を屈めた。

 頬をシルヴァーナの目の前へ寄せる。

 瞬間、少女の手がガッチリと彼の両頬を捕らえ、精一杯の力で引き寄せる。

 そして、強引に唇を奪った。


「!?!?……何を!?」


 目を白黒させる彼と周囲の者達。

 シルヴァーナは一人嬉しそうに、楽しそうに、花弁のような唇を小さな舌で舐める。

 今さっき裕太の頬を捕らえていた指が、口付けの余韻を楽しむように赤い唇をなぞっている。


「お詫びと、お礼だよ。

 決めた! あたし、ユータ兄ちゃんの奥さんになる!」


 このセリフに我に返ったリィン。

 鬼の形相で少女と少年の間に割って入った。


「な、何を言ってんのよ!

 ユータはあたしのものよ、あんたなんかに髪一本あげるもんですか!」

「へっへーん、何いってんだい。

 妖精じゃ人間のユータ兄ちゃんの子供、産めないだろ。

 あたしなら兄ちゃんの子供、すぐにでも沢山産んでやれるぜ。

 やっぱ夫婦は子供を作れねーとな」

「子供はあんたでしょうが!

 第一、ユータは外見が人間でも中身は全然違うの! 人間族だからってユータの子供を産めるとは限らないんだからね!」

「妖精よりは産める見込みはあるさ。

 ま、あんたの顔は立ててやって良いよ。

 本妻はリィンで、あたしは妾」

「な……」


 姉弟と妖精は、絶句。

 他の子供達は黄色い歓声を上げる。

 だが少女の話は終わらない。


「あたしも実は妾の子だからね、別に構わないさ。

 子供はこっちで沢山産んでおくから、そっちはそっちで楽しくやってなよ。

 まあ、可愛い子供達の待つ家と鬼嫁の待つ家じゃ、どっちが本妻になるか知らないけどねー」 

「だ、誰が鬼嫁よ!

 勝手なことをー!」


 追いかけるリィンと逃げるシルヴァーナ。

 少女達の追いかけっこ、というような可愛いモノではない。

 どちらかというと修羅場。


 妖精の女と人間の少女。

 見た目は二人とも花のように可憐な少女だ。

 そんな二人から求婚されている最中の裕太は、呆然と正体を無くしていた。

 左右から姉と子供達に冷やかされからかわれているのも気付かないほど、頭が白くなっていた。


次回は、長くなりすぎた物語を整理するための年表を挟みます。


おまけ③『年表』


2012年3月02日00:00投稿予定

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