第5話 約束と名前
朝起きると、さきちゃんからLINEが来ていた。
昨日は、谷口くんが呼んでくれるかなって考えてるうちに、眠っていたみたい。
「おはよう!まいちゃん 一緒に登校しない?」
「うん 準備できたらさきちゃんの家に行くね」
私は少し目を擦りながら返信した。
スマホを閉じてリビングに行って朝の準備をした。
ふとした拍子に、谷口くんに「まい」って呼んでもらいたくて、
ご飯を食べているときも、制服に袖を通しているときも、何度か手が止まった。
家を出ると、足取りは少し弾んでいた気がした。
さきちゃんの家に行くと、玄関で待ってくれていた。
「まいちゃん、おはよ~。よく眠れた?」
「おはよう、さきちゃん。うん......眠れたよ?」
私は少し誤魔化しながら答えた。
「行こっか」
さきちゃんは、私の隣に並んで歩き始めた。
「まいちゃん、心の準備できた?」
準備はできてると思ったのに、胸がドキッとした。
「う、うん......できてるよ?」
声が震えているのが、自分でも分かった。
「一緒に行ってあげるから、頑張ろう、ね?」
さきちゃんの言葉が、じんわりと胸に広がった。
その後は、テレビや動画の話をしているうちに、学校に着いた。
「それじゃ、行こっか」
私はさきちゃんの言葉に頷き、教室に向かった。
教室に入ると、谷口くんは、教室の端の方で楽しそうに友達と話していた。
「だいじょうぶだよ。ちゃんと聞いてくれるよ」
気が付いたら、自分でも強く握っていた手を、さきちゃんは優しく包んでくれた。
小さく深呼吸をして、谷口くんに話しかけた。
「お、おはよう。谷口くん......少しお話ししたいなって......」
どう答えてくれるか怖くて、目を彷徨わせながら聞いた。
「おはよう、佐々木さん!うん、いいよ!」
教室の隅の方に来てもらって、息を少し長めに吐いてから、話し始めた。
「あ、あのね......わ、私も......」
小さい声が震えていた。
うまく声が出ない私を、谷口くんは優しく待ってくれた。
「......私のこと、下の名前で、呼んで欲しい」
私は、床に目を落としながら最後まで言えた。
「下の名前?まいさん......?まいちゃん......?うん、まいちゃんで!」
谷口くんは、いつものように答えた。
「......あ、それと俺のことも俊でいいよ」
いきなりで、顔を勢いよく上げてしまった。
目が合っちゃって、目を彷徨わせながら呼んだ。
「......え、えっと......。しゅ、しゅん、くん......?」
谷口くんは頷きながら言った。
「うん!伊藤さんも俺のこと俊でいいから。伊藤さんも下の名前で呼んでいい?」
「あー......私は機会があったらでいいよ」
さきちゃんは少し困った声で答えた。
「それじゃ、まいちゃん、谷口くん、またお昼」
「まいちゃん、良かったね」
さきちゃんは小声で私に言ってから、逃げるように教室に戻っていった。
気が付くと、私は息を吐いていた。
「......しゅ、しゅんくん。今日もお菓子持ってきたからあげる」
少しでもこの空気を変えたくて、私はバッグから、
昨日作ったパウンドケーキが入った袋を、しゅんくんの前に出した。
喜んでくれるかなと、恐る恐るしゅんくんを見ると、目を輝かせながら受け取ってくれた。
「やった!まいちゃんのお菓子だ!今日は何かな......」
そう言いながら、パウンドケーキを袋から大切そうに取り出した。
「わぁ......おいしそう!食べていい?」
「う、うん。いいよ?」
私が答えると、しゅんくんはすぐにパウンドケーキを頬張った。
しゅんくんが好きな甘いのにしたから、口に合うといいな。
気が付いたらしゅんくんの顔を見ていた。
しゅんくんは飲み込み終わると、さっきよりも嬉しそうに話した。
「まいちゃんのお菓子、甘いのとちょっとの苦さがおいしい!ありがとう!」
しゅんくんの笑顔が眩しく見えた。
読んでくださり、ありがとうございます。




