閑話 ラングドシャ
午後の授業も、気がつくとしゅんくんの背中を目で追っていた。
その度に、しゅんくんが「まいちゃん」って呼んでくれたことを思い出して、
くすぐったくなった。
そんなことを考えているうちに、あっという間に放課後のチャイムが鳴った。
今日も早めに帰ってお菓子を作りたいから、さきちゃんにLINEを送った。
「今日はお菓子作りたいから、先に帰るね」
しゅんくんたちと関わるようになってから、このメッセージ、最近よく送ってるな......
しばらくすると、さきちゃんから返信があった。
「りょうかい 気を付けて帰ってね~ また明日✧」
私も「また明日」と送ってから、スマホを閉じた。
手早く帰る準備をした。
せっかくだから、しゅんくんにあいさつをして帰ろうと思って、
しゅんくんたちがいる端の方に向かった。
今日も3人で楽しそうに話していた。
私が近づくと、しゅんくんが声をかけてくれた。
「あ、まいちゃん!帰り?」
「う、うん。だからまた明日って言おうかと思って......」
変じゃなかったよね......?
仲良くなったから、挨拶するし......
私は誰かに言い訳するでもなく、しゅんくんと目を合わせられないまま、言葉を待った。
「また明日!明日も、まいちゃんのお菓子楽しみにしてるね!」
しゅんくんの声が弾んでいた気がする。
私は思わず頬を緩めて頷いた。
私が教室の入り口に向かうと、しゅんくんは笑顔で手を振ってくれた。
私は腰のあたりで小さく手を振って応えた。
帰り道、今日しゅんくんが名前で呼んでくれたこと、
帰りに「また明日」って言えたこと、手を振ってくれたことを、何度も思い出しながら家に帰った。
最近、しゅんくんのこと考えること、多くなってる気がするな......
家に着くと、いつも通り準備をしてキッチンに立った。
「今日は多めに作って、しばらく作らないようにしないとだよね......」
一昨日ママに注意されたことを思い出しながら、私は呟いた。
とりあえず何作ろうかなと思いながら、冷蔵庫を開けた。
中には、卵白だけ入れたボウルがあった。
「そろそろこの卵白消費しないとだね」
お菓子って、卵白だけとか卵黄だけ使うのあるから余るんだよね。
前に、卵白だけ余らせすぎて、ママに「ちゃんと処理しなさい」って注意されたっけ。
そろそろ注意されそうだし、今日はこれ使おうかな。
いっぱい作るなら、ラングドシャにしようかな。
私は材料と調理器具を取り出した。
今日はバターを常温にする手間短縮したいし、レンジ使っちゃおうかな。
私はバターを量って、様子を見ながらレンジに入れた。
溶ける前に取り出して、他の材料も量った。
ダマになると嫌だから薄力粉はふるいにかけた。
計量が一段落すると、私はバターに砂糖を加えて混ぜた。
「そろそろかな......」
全体が混ざったところで、卵白を4回に分けて、ちょっとずつ入れて混ぜた。
しっかり混ざったところで、薄力粉を入れてさっくり混ぜた。
「粉っぽさ、なくなってきたね」
私は絞り袋に生地を入れた。
「もう予熱しちゃおっと......」
オーブンの予熱を設定して、オーブンペーパーを準備した。
オーブンペーパーに薄く、近いと焼けたときにくっついちゃうから、少し離して絞り出した。
「とりあえず1回目はこれくらいかな」
オーブンペーパーの上には、生地がきれいに並んでいた。
予熱が終わったオーブンに入れて焼き始めた。
「ラングドシャって、すぐ焼けちゃうから他のことしにくいんだよね......」
そう言いながら、私は次のオーブンシートを準備して、生地を絞りながら焼きあがるのを待った。
しばらくすると、オーブンが焼けたことを教えてくれた。
蓋を開けると、バターの甘い香りが広がった。
「あ、少し周り焦げちゃってる......もう少し時間減らそうかな......」
オーブンシートを入れ替えて、さっきより短めに焼き始めた。
取り出したラングドシャを、割れないようにお皿に移し替えて、生地を絞る作業を続けた。
次はうまく焼けるといいな。
そうすればしゅんくんも喜んでくれるはず......
また気が付いたらしゅんくんのこと、考えてるな......
誰かに見られてるわけじゃないのに、少し気まずくなっていた。
最近こういうこと多いな......
なんでだろ......?
そう考えてるうちに2度目の焼き上がりの音がした。
「今回はうまくできてそうかな」
今日はこの時間を基準にして焼いてみよう。
その後も、何度か焼いては移してを繰り返した。
しばらくすると、目の前には大量のラングドシャができていた。
「さすがに作りすぎたかも......」
いくつか焦げちゃったのと、割れちゃったのがあるから、それは私が食べるとして......
「これ、今週は余裕で持ちそうだよね......」
しゅんくんにおいしいって言ってもらえるといいな。
あ、でもこんなにあると、味飽きたって言われないかな......
そのときは味変しようと心に決めながら、ラングドシャを冷蔵庫にしまった。
割れちゃったラングドシャを一枚つまんで食べた。
サクッとした音と、バターの香りが心地よかった。
私はそれを食べながら、明日のことを想像していた。




