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【超超短編小説】走査線に願いを

掲載日:2025/12/21

 走査線の向こう側に行くために俺はビデオデッキに手を突っ込んでみたが無駄だった。

 冷たいプラスチックと熱を帯びた金属の感触が指を撫でる。

 中指も人差し指も何ひとつ探り当てられない。

 そこにあるのはいつだって絶望だった。


 初恋は叶わないと言うが本当にその通りだ。

 幼い頃に見たテレビニュースの女性に恋をしたのだ。

 キャスターなんかではない。街頭インタビューか、もしかしたら資料映像と呼ばれる記録かも知れない。


 特別な女性ではなかった。

 派手だとか露出度が高いとか言う訳では無く、ただ美しく見えた。

 それもあくまで印象だった。どんな目をしていたか、髪だったかも覚えていない。

 幼い時分なので、もしかしたら妖艶と言う表現が分からずに美しいと感じたのかも知れない。

 とにかく美しい印象だけを幼い俺の脳に深く刻みつけた。


 その女性を見たのはほんの数秒だった。

 それ以降、何度ニュースを見てもその女性を見る事は無かった。

 幼い俺がニュースを見たがるので親も訝しんでいた。

 しかしその時期特有の小さな拘りだと思ったのか、次第に気にしなくなった。



 そして俺も、その女性を見られないニュースに興味を失った。

 


 しかし中学生や高校生になっても、その姿を忘れる事は無かった。

 常に鮮明に思い出せたし、いつまでも美しいままだった。

 どんな同級生やアイドルよりも、俺の記憶に残り続けた。


 記憶の中の彼女は相変わらず曖昧な容姿のまま、次第に俺に目を向けて少し笑うようになった。

 近づいていると思った。


 俺は大学を出ると、あの日に見た女性に出会いたくてテレビ局に就職した。

 もちろんニュース部署を希望して。

 空いた時間を使って当時のニュースを探した。

 ニュースの内容を覚えていないから時間がかかったが、どうにか探り当てた。

 やはり資料映像で、その頃より前に撮られた映像だった。

 つまり、いま彼女はどんな姿かどこにいるかも分からない。名前も、何もかも。



 俺はその資料映像を繰り返し再生した。

 彼女は美しく、俺に向かって微笑んでいた。画素の荒いビデオはやはり彼女の輪郭をボヤかしていた。

 目も鼻も潰れて見えなかった。

 

 俺はそのままビデオデッキの蓋を開けて手を差し込んだ。

 ビデオデッキは反応しなかった。

 冷たいプラスチックと熱を帯びた金属の感触が指を撫でる。

 中指も人差し指も何ひとつ探り当てられない。

 そこにあるのはいつだって絶望だった。

 でも今日だけは希望が見つかった。


 その日の帰り、俺はその女性を見た交差点でわざと信号を無視して車に轢かれた。

 初恋は叶わない。

 でも会えないのなら会いに行くだけだ。

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