湖の水
「うるさかったガキも片付けたし、俺もキャンプに戻るか」
掴んでいた黒猫を自身の袋に入れようとする。
だがディーニの手が止まる。さっきまでの黒猫と何か様子が違う。さっきまでは息も小さくなって、今にも死にそうだった黒猫が俺を睨んでる?
『おい。いつまで俺を掴んでる。手を離せ』
ディーニは猫を掴んでいた手を離す。いや。離さざるおえなかった。
猫の体が急に重く感じたのだ。今までは振り回せるほど軽かったはずなのに。急に持てないくらい重く感じた。
「おい。なんだお前。さっきまでヒィヒィ死にそうになっていたくせに、今更抵抗か?今更だよなぁ、女のガキも沈んだのに自分だけ助かろうってか!虫がいいなぁ!!」
クロは男の言葉を無視し湖に向かう。
『ファストとの約束だからな。まずは娘を助ける』
「は?約束?何言ってんだお前。助けられるわけねぇだろ!女の体はもう水の底なんだよ!俺の魔法で逃げることもできねぇしな」
『水の底か…確かに今の猫の体じゃ娘を抱えて助けるのは無理だな』
『ま…水があればの話だがな』
「は?」
ディーニの耳がぴくッと動く、この黒猫の余裕はなんだ。さっきまでと別人だ。
てか話せてる?さっきまでは鳴くことしかできなかった奴が、俺と普通に会話してる。
「お前・・・・」
ディーニが何かを言いかけたとき黒猫の体が浮いた。
「は?・・・飛行魔法?その魔法は魔女と黒猫しかできなかったはずだ!お前やっぱり例の黒猫じゃねぇか!」
ディーニの声はクロに聞こえていない。いや、聞こえてはいるが、クロは奴を道端の虫程度にしか思っていない。虫とは会話しないのだ
「ふざけんな!俺を無視するんじゃねぇよ!」
クロには聞こえていない。ディーニはあきれる。
「は。俺に背を向けてずいぶん余裕だな、またハンデか?学習しねぇんだな猫ってやつは」
そう言うとディーニはクロに指を向ける。
【ライトオーブ】【ライトオーブ】【ライトオーブ】
クロに向かって何度も魔法を打つ
ファストの尻尾をぐちゃぐちゃにしたあの魔法だ。
だがクロは背を向け湖を向いたままだ。
背を向けたまま尻尾で緑の球を弾く。まるで顔の周りに虫が飛んでいるときに払うかのように。軽く。
クロが片手を湖のほうに向けると、湖の水が上に浮かぶ
浮かんで浮かんで浮かんで、湖のすべての水が上に上がる。
浮かんだ水は一か所に集まり、丸い大きな大きな球体になっている
男の魔法を打つ手が止まり、目を開き口をパクパクさせている。
『娘は・・・間に合ったか。息はあるな。』
ぼそっとつぶやくと、男のほうに体を向ける
「はへ?」
ディーニはもう地面に座り込んでる。黒猫の後ろには大きな水の球体。
初めて見る魔法。しかも詠唱なしで・・・。勝てない。そう悟るのに時間はかからなかった
「お願いします、何でもします。許してください。ここにあなたがいたことも言いません。お願いします。お願いします。お願いします。」
男は頭を地面にこすり付けて命乞いをする。
『私がお前のような虫けらを?ふん。馬鹿ばかしいな』
男を鼻で笑い、湖のほうを向く
地面を頭につけていたディーニはニヤッと笑う。
「油断したな馬鹿が!!これで死ね!!」
【ライト・・・】
男が呪文を唱えるより早く、男の頭に水の球が貫通する。
「へ?」
男は気づかなかった。大きな水の塊から自分に向かってくる小さな水の球に。
地面に倒れる。もう息もしていない。頭を貫かれたんだ。死ぬに決まっている。
『約束は果たしたぞ・・・交代だ』
最後にクロはファストの体をきれいに直し、湖の上にあった水の球を見て
『ゆっくりと水を元に戻すから、早く娘を外に連れ出せ』
そう言って黒猫が目を閉じる。次に目を開けたときは目の色が緑から水色に変わっていた。
「約束守ってくれてありがとな」
俺はクロに礼を言って走り出す。湖の上だけ雨が降ってるみたいだ・・・ゆっくり戻すってこういうことかよ。あいつどんだけすげぇやつなんだ・・・・。
ぬかるんだ地面のせいでこけそうになる。
エナ!!
「エナ!!!」
湖の真ん中に倒れている少女に駆け寄る。
エナ…だよな。髪の毛が黒かったはずなのに真っ白になっている。
「エナ・・・?」
ぴくッと指が動く。生きてる。
「エナ!エナ!」
「ファスト・・・?」
エナが俺の顔を見て笑う
「ファストなら来てくれるって信じてたよ。うれしい」
しししと笑うエナの笑顔を見て安心する。いつものエナだ。
「エナ…ごめん。俺のせいで…俺が黒猫のせいで巻き込んで…髪の毛だって白くなちまって」
エナは自分の髪の毛に触り、また笑う
「髪の毛…白に戻ったんだ…私の髪の毛は元々白だから大丈夫だよ。気にしないで。
ファストの事も私が白って決めつけてただけだし…実は最初に会った時に何となく思ってたの。男の人に黒猫を見なかったか?って聞かれた時に。この子の色は本当は黒色なんじゃないのかな…って」
俺の頭を雑に撫でまわし
「だからお互い様!!」
「ごめん・・・・ごめんな」
「もうー謝らないでよ…私はファストとずっと一緒にいたいの」
『おい。早く湖から出ろ』
頭の中にクロの声が聞こえる。
あ。俺は頭上にある水の塊を見上げる。俺につられてエナも上を見る。
「え!なにこれ!みず?!」
びっくりするよな・・・。・・・とにかく今はここから離れよう
「後で説明する!走れるか?」
「うん!てか普通に会話してたけど、ええええ。ファスト話せたの!!」
ごめん、その説明もあとだ。
「それもあとで言う!とにかく行こう!」
ここまでが第一章になります。まずはここまで読んでくださりありがとうございます。
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第二章も引き続きよろしくお願いします!!




