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2話


『…………』


「こんにちわー!お話、お聞きしたいんですけどーっ!!」


畳みかけるように大声で掲げる取材依頼。初めは何回も死んだ後&千載一遇の好機によるハイテンションで飛び出したものであったが、今はそれを止めるわけにはいかない。


空元気というか、なんというか。


一度ここで私が沈黙してしまったら、きっともう私は口を開けない。全身が恐怖に押し負け、思考は白塗りになり唇は重くなるだろう。それに今こうして私が生きているのだって、彼の龍が死んだはずの私がココに居ることに驚いていてくれているからだし。要は時間制限アリ、回数制限一度きり、の挑戦であった。


「おーい!嘆きの龍さーん!綺麗な白銀色の山っぽい龍さーん!聞こえてますかー!さっき首チョンパされた者ですけど!」


『……』


なんと言うか自分で口を開いていてあれだけど、今の私は大分テンションがおかしいらしい。普段の言葉遣いの延長線上みたいな話口調ではあるが、いかんせん吹っ飛びすぎている。具体的に言えばアホっぽい。


正しく脳死で言葉を紡ぐ、脊髄反射的な発言。受け取り手によっては不興を買ってもおかしくないだろう。それで殺さずにいてくれているのは目の前の存在が優しいのか、それとも想定以上に混乱しているのか。ありがたいことである。


「おーい、おーいっ!聞こえてますかー!取材です、しゅざ……っ!?」


しかし、そのようなボーナスタイムも終わりが来た。


左右に分かたれていく視界。右目は右側の視界を獲得し、左目は左側の視界を更に獲得する。だが、その両目の持つ視界の境は離れて、離れて。視界の中央が黒く塗られていった。


イメージで言うと、右に倒れると同時に左に倒れている視界を持っている様。左右それぞれの眼球を反対側に水平投射したような視界模様。


まぁ、イメージというか実際のところ、その通りであるのだが。


今の私は、身体の縦の中心線で真っ二つに切断されていた。


(またやり直しかぁ……。話、聞いてもらえるかな?)


勝手にハイになって忘れていたが、そういえば耐性を獲得できてから蘇生のポータルとしている指を設置していない。直接見ることができないが、今、私の右手の人差し指は唯一の指として接着しているだろう。


だから、次のやり直しのスタートは最後から1つ前の中継地点だ。距離にして十キロくらいあっただろうか。若干、面倒だ。


まぁ、距離なんて実際はあんまり障害にならないけど。こっちの障害に比べれば。


(次は絶対混乱なんてしてくれないよなぁ。はぁ、耐性出来るまでは往復するかな……)


今回みたいなチャンスは、もうないのだから。


(……ん?)


そこで、一つ違和感を得た。


私の蘇生は死亡の前までに切り離した身体の一部を起点として行える。今回で言えば私は両手の指十本を来る時の道で度々設置し、もし何かあった時の復帰地点としていた。足の指とかでもそれは可能だが、今回は徒歩での旅なので止めている。もちろん指である必要はなく、腕や脚などの大きな一部でも良い。


髪の毛とかでもできなくは無いが、起点となるものが小さいほど蘇生にも時間がかかる。しかも指数関数的に時間がかかるので、指一本起点なら一瞬であるが、髪の毛起点なら下手したら一か月かかる。


そして今回の違和感はこれから来ているのだが、この復活の起点は選択が可能だ。まあ当然だが、選択できなければこの度の中継地点として働かない。運が悪ければ開始地点に戻る復帰地点など意味は無いだろう。


だから耐性を得るときは必死に指をかみちぎって、損傷しないように保護していたのだ。死ぬ前に切り落し、それが消滅さえしていなければそこからやり直せるから。


そんな復帰点だが、今私の選べる選択肢は数えて十、感知している。正確に言えば指を起点とした復帰点の数を。


そう。そうなのだ。十だ、九ではないのだ。


それはおかしい。


私が道中に設置した指は九本。最後の一本は分かたれた右半身に生えているはず。


だというのに、いくら感知しても帰ってくる応答は十本分の反応だ。


また、ただでさえそれだけでも不可思議な話だというのに……、


(この反応は……、前?いや、あっちの方向は……)


異常な十本目の位置。それは自身の身体の前方1キロ弱先。しかも、すごくすごく高い位置にあると感知が届く。


きっとそこは、彼の白銀の山頂。即ち、彼の龍の……。


(呼ばれている……、罠?いや、そもそも何で指のことを……?)


脳裏に浮かんでいく様々な疑問。


この反応が正しいのなら、彼の龍はたったこれだけの邂逅で私の身体の特異性を読み取ったことになる。異常の存在だと先生から聞いてはいた。理解したつもりでいた。


だが、違った。想定が何重にも足りなかった。


逃げることは、できる。逃げて、耐性を取り直すことは可能だ。一番遠い指で蘇生すればいい。


だが、なんと言うべきか。強いて言えば直観だろうか。


今ここで、あの指以外で蘇生を行えば、二度と彼の龍との対話は望めない、と。そう感じてしまった。


今、私というちっぽけな存在は彼の存在の大きな手中に握りこまれていると同時に、唯一にして最後の招待も受けているのだと、感じてならない。


(……)


選択に、悩みは無かった。覚悟など、とっくに決めていたはずなのだから。道があるのならば、進まねばならない。


(首に続いて全身をたたっ切ってくれたこと、文句言ってやりますからね……)


喉も縦に割かれ声はとうに出ないので、内心で精いっぱいの虚勢を吐く。これだけでも、なんだか勇気が出たような気がした。



ぐしゃり。



全身の半身ずつが、それぞれ叩き堕ちた。







「……ふぅ」


変わらぬ未来の光景を眺め、再度現世に舞い戻る。


そこは先ほど居た異常環境でなく、白銀に光り輝く地であった。足元も、その周囲も、さらに遠くも。一帯が一斉に光を放っている。しかし、その光は強いが不思議と目に痛みをもたらすことは無かった。


びゅう、と風が吹く。若干、肌寒い。蘇生直ぐであるため裸一貫の私には堪える。


さらに遠くを見ればここは正しく、山の上だと確認が取れた。先ほど自分がいたであろう場所もしっかりと確認できる。身体性能は常人である私では堕ちているであろう荷物は見つけられないが、歩いてきた異常な嵐には見覚えしかない。


ということは、まぁ、つまりは感知した結果は間違っていなかったわけだ。


今の私は正に、彼の白銀の山。つまりは、嘆きの……




『なんという、醜い身体だ……』




「……っ?!」


脳内に知らぬ声が響き渡る。私は驚き、その場で振り返る。が、そこには誰もいない。いや、分かってはいる。この声の主の正体は見当がついているし、その存在は決してそう振り返って見付けられる存在ではないことも分かっていた。ただ、脳内に響く声などという初めての経験に、思わず反射を示してしまったのだ。



『いや、醜いのは身体ではない、か。……先の身体と、その身体。その繋がりこそが醜い。酷い死臭と淫臭に塗れている。……その道は血と肉か?固定具は契り……。肉親との繋がりと、未だ産まれぬ無数の半魔の子の魂まで利用しているではないか。なんと、醜い……』



心臓を握りこまれたような気分であった。直接胸を割かれ、五本の指で無造作に握りつぶされたかのような狭窄感。呼吸の速度が意図せず早くなる。


今私の脳内に響く声が並べたそれらすべてに、私は思い当たる節があった。いやむしろ、思い当たる節しかなかったとさ言ってもいい。


脳髄の端々で悲鳴のような声が再現される。



『人という種族の愚かさを我は些か読み違えていたようだ。星内一の恥知らず程度だと評価していたが、よもや系内一とは。そこまでして死から遠ざかりたいなどと……。砂粒程度の恥さえ備えていればあり得ぬ選択であろうに』



その言葉の端々には嫌悪と侮蔑、呆れと驚きに満ちていた。



『自身の生を存続させるため、まさか同族の血肉の道の上を行き、あり得ぬ仮想とは言え世界一つを消費するなど……。生ある全てを唾棄し、自身のみの安寧を願う外法か……。普通の精神を持っておれば、思いついただけで自身を恥じ、首を捻じ切りたくなってしかるべきである』



正しく、その通りであると私も思う。呪術や魔法などと言ったものに精通していないので詳しいことは私も知らない。だが、自身がかつて経験し、見聞きした手法だけを鑑みてもそれは生物として許容すべきものでは到底ない。



いったい、どれだけの人間がたった一人の不死の為に犠牲になったことか。



『……して、死を拒絶するモノよ。何故、この場所を訪れた。何故、我を訪ねた』



ズン、と。空気がさらに重くなったように錯覚する。先ほどまでは何となく、視界の隅に入れられていたような感覚だが今は違う。その視線の先に私が存在し、その焦点が私に合っている感覚だ。


チリチリと、全身が炙られているようで総毛立つ。



『虚偽は許さぬ。もしその内心を偽りし時、その肉体はこの世から完全に消え去ると思え。世界と世界とを繋ぐ外法程度、その気になれば吹き飛ばせる』



それは耳を疑うような内容であった。規格外であることはこのわずかな時間で嫌というほど思い知っていたが、まさか、私を殺せる、だなんて。少し前の私なら、きっとその言葉を否定していただろう。


かつて自身に行われたありとあらゆる死の再現、その経験から自身の死亡がどうしても想像できないから。


だが、どうしてもその発言を今の私は否定できないでいた。


ゴクリ、と唾をのむ。首筋を冷たい汗が通った。





『答えよ』



『お前は我に何を望む』




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