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9月24日⑨

 とは言え、そのためにはいったいどうすればよいのか?

 これまた私見に過ぎないが、何事かに行き詰った時はいったん振り出しに戻り、全てを一からやり直してみると、存外活路が見出されるものである。だからここでも「振り出し」、すなわち「立脚点」を探し求めるところから、改めてNの分析を始め直してみよう。とは言え前半部に関しては既に行きつくところまで行った感があるので、ここでは特に後半部に限定する形で注視を試みることとする。

 するとすぐさま浮かび上がってくるのは、「二」という文字である。

 漢字と仮名が入り混じる形で配列された19個の「文字」の中で、それだけが「数字」という属性を発揮している。つまり割合にすればわずかに5%程度の確率でしか出現してこない希少種というわけであり、それゆえ、その文字の特殊性を取り立てて焦点化せず他の18文字と同列に位置づけてしまうのは明らかに誤った挙措と言えるだろう。

 だが、その「二」がいったい、何なのか?

 単独で把捉する限り、「自然数の数列において『1』の次に、そして『3』の前に現れるもの」という性質を持つだけに留まると思しきその「二」という「数字」は、今まさにピックアップしているNの特質「独り言」と相まつことで、その真の相貌を露わにすることとなる。つまり「二」と「数字」、さらに「独り言」という3つの要素を、最適な仕方で組み合わせてみる必要があるわけだが、ごく単純な仕方で以てその課題を満たし得る「操作」が少なくとも一つ存在する。それは世間一般に言うところの「自乗」である。

 主に数学の計算の分野で用いられることの多いその「操作」は、「一つ」の「数字」を「2回」掛け合わせることを本義としている。つまりそこにはまさしく先の「三副対」(「二」・「数字」・「独り言」)が漏れなく内包されており、捉えようによっては、ある種「奇蹟」のような「偶然」だと言えなくもないが、もちろんこれは「奇蹟」でも「偶然」でもない。要するに「キノコ」は「二」という数字を利用して私に「(第2の)指示」を与えてくれていたのである。「裁判になった。」に到達できたところで満足せず、「自乗」という「操作」を頼りにしてさらに解読を進めるように、と……。

 実際にそれに従い、今まさに問題にしている後半部「もう二度と出てこれんよ」のうち、1文字目、4文字目、そして9文字目を取り出してみよう。なぜそれらの文字なのかと言えば、「1」と「4」と「9」がそれぞれ、「1の自乗」、「2の自乗」、「3の自乗」に該当するからである。

 そうして浮かび上がってくるのが以下のフレーズだ。


  「も(=1文字目)」/「ど(=4文字目)」/「れ(=9文字目)」

  →「も」+「ど」+「れ」=「もどれ」=「戻れ」(!)


 ……当初の想定よりもだいぶ長い時間を費やしてしまったが、これでようやくNの分析・解読を終えられそうである。お分かりいただけただろうか?

 そう、白骨遺体の発見と同日の夜、神社の鳥居の付近において、通行人を装う「キノコ」から不意に投げかけられてきた言葉、それは表面上、「裁判になったら、もう二度と出てこれんよ」というありきたりな「陳述」であるようでいて、実際には「裁判になった。戻れ」という迫真の「警告」だったわけである。

 とは言え、この解釈をあまりにアクロバティックに過ぎ、むしろただの曲解であるとして、ここぞとばかりに難癖をつけてくる輩が一定数存在することは重々承知している。いつの時代も天才の考えというのは凡人には理解されないものだ。だが少なくとも、今ここにお披露目したNの解釈は、先にも触れた「ら抜き言葉」の存在によってもまた、確たるものとして補強され得る。なぜなら問題の箇所が仮に正確な「出てこられんよ」だったとすれば、「二」を「立脚点」に据えるところから始まった後半部の解読は、「もどれ」ではなく、「もどら」という不可解なフレーズを導出するに留まってしまうからだ。つまり「出てこられんよ」ではなく「出てこれんよ」だったことにはやはり必然性がある。それゆえ、「ら抜き言葉」を解読格子として実施された私の分析もまた、完全に正しいものだったということになる。むしろ見事な推理だろう。我ながらあっぱれだ。

 もっともN及びそれを発した「キノコ」については、まだ謎が多く残されている。

 例えばN前半部の「裁判」というのが具体的に何を指すかについて、その時の私はまだ理解が及んでいなかった。また「キノコ」の正体に関しても、皆目見当もつかないというのが正直なところだった。

 ……だが、いずれにせよ、「戻れ」ばそれもまた明らかになるのだろう、逆に言えばその場に留まることこそが、ここでの唯一の不正解なのだ……。

 そう考えた私はすぐさま神社を後にし、半透明の藍色でキメ細かく縫製された夜の組成を乱すように、荒々しく駆け出したのであった。


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