9月24日⑥
その行き先としてまず初めに挙げられるのはやはり火事になったという「豪邸」だろう。どのくらいの被害なのか、またそれが本当に「マンドリル」の仕業なのかなど、確認すべきことはそれこそ無数に存在する。
だが優先されるべきはいつの時も「過去」ではなく、「現在」もしくは、「未来」である。
この場合で言えば、既に起こってしまった「火事」ではなく、今まさに進行中であると思しき、「連続殺人」の方にこそ注力すべきだ。できるだけ早く白骨死体が見つかったとされる現場を訪れ、犯人へとつながる手がかりを1つでも多く見つけておく必要がある。その意味でも、やはり「豪邸」の方は後回しにされて然るべきだろう。なぜなら火事の発生は、その場所にめぼしい「手がかり」の残っている可能性を限りなく低めるからだ。私の読み通り、両方の犯人が同じ「マンドリル」であったとして、その確保の確率を上げるためには、遺体発見現場を目指す方が賢明というわけである。
ところでその問題の「現場」は、「事務所」から走って15分ほどのところに位置していた。その異様なほどの「近さ」が私の神経をさらに逆撫でしたのは言うまでもない。「遺体の発見現場」という、「日常」から本来極めて縁遠いものであって然るべき場がそれほど近くにあるということは、その「遺体の発見」が決して「偶然の産物」でないことをはっきりと示唆している。つまり「挑発」というわけだが、反面、「マンドリル」が人の命を奪うことでこの私を弄ぼうとしていることは既に指摘した通りなので、ここでは措いておき、実際に「現場」に到着した後、いかなる仕方で事態が展開していったかについて説明するところから始めよう。
遺体が発見されたとされる雑木林はそれ単独で「一帯」を成しているわけではなく、実際にはある神社に付属するような形でその裏手に広がっていた。
手水舎と一対の狛犬と本殿、そして社務所が少しあるぐらいのこじんまりとした神社だったが、それでも鳥居をくぐった瞬間、心なしか何かの「境界」を越えたという感覚があって、こんなところに穢れを持ち込んでいったい何を考えているのかと、まず私は「マンドリル」に対して改めて呆れに近い怒りを覚えた。また、雑木林の方はと言えば、神社とは対照的に視野の内に収まらずに見切れてしまうほど大規模なもので、ほとんど「森」に近いという印象を受けた。既に日が沈んでいることも相まって、鬱蒼と茂る木々の間から何が出てきてもおかしくない雰囲気があり、正直言ってなかなか無気味なシチュエーションだった。
しかし神社の敷地を突っ切るようにして歩みを進めていく過程で実際に私を襲っていたのは、全く別の感覚だった。その「感覚」は、わかりやすく名状するならば、「違和感」ということになる。要するに「名探偵」としての勘が、「何かがおかしい」との感を芽生えさせていたわけだが、しかしその実、「何がおかしいのか」という疑問を解消するまでには少しばかり時間を要した。より具体性を期せば、雑木林に足を踏み入れ、まばらに散らばる落ち葉を踏みしめる段になって、ようやく要因に思い当たったということになる。「名探偵」にしては珍しく手こずったと言うべきなのかもしれない。だが反面、そのタイムラグは件の疑問が、難解なものだったということを意味しない。むしろその逆だ。単純すぎて、だからこそすぐに気づくことができなかったのだ。
結局のところ問題は、その時周辺に人の姿がほとんど認められなかったというところに求められる。
私はある種の危機回避本能に突き動かされる形で身体を神社の側に戻し、そのままの流れで本殿の方へ引き返していきながらそう考えた。……そう、人の気配が全く感じられないのは明らかに異常だ、なぜならあの場所は「ただの雑木林」ではなく、「遺体の発見現場」なのだから、つまり本来であれば、「黒山の人だかり」ができていたとしても全くおかしくないのだ。にもかかわらず、神社の敷地に入ったところから雑木林にたどり着くまで、俺はただの1人の野次馬にも遭遇することがなかった、これはいったいどういうことなのか? 単に時間帯の問題なのか? それとももっと何か別の原因によるのだろうか……?




