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9月24日②

 アルバムは部屋の入り口から最も遠い位置(つまりベランダ側)にある本棚の、下から2段目と3段目にまとめて収められていた。スケッチブックぐらいの大きさ、かつ漫画雑誌ぐらいの太さの冊子が、ただ一冊どころか、まるで隙間をなくすことこそが真の意図であるかのようにギュウギュウに詰め込まれており、取り出すのにひどく手間取った。その時点で、なぜこの程度のことさえ滞りなく進行してくれないのか?という習い性になった憂鬱の類に囚われ始めたのは言うまでもない。

 とは言えアルバムを見つけ、その中を点検しようと考えたのは自らの意志であったので、大抵の障害を耐え忍ぶことはもとより覚悟していた。何が起ころうと全ては自分の「責任」であり、そのことから逃れるつもりなど毛頭ない。むしろ障害を踏み台にしてさらなる飛躍を遂げるぐらいの気概がなければならないだろう。

 だが反面、その後の展開については話が別だった。

 そもそも原理的な部分にまで遡って考えてみれば、私がアルバムを開いたのは、「調査」の最中にたまたまそれの存在に気づき、そのままの流れで、写真を見ればHに関する何らかの新情報を得られるのではないかとの考えが生まれたためである。Hの部屋らしき場所で見つかったアルバムに、Hの連中の日常の一コマを捉えた写真が収められていること、それは特に何の変哲もない、ただの「自明の理」のはずである。

 だが、私がいざアルバムの中に目を通した瞬間、予想していた展開は即座に水泡に帰した。

 そして代わりに別のあり得ない事実が、本来絶対「あり得ない」にも拘らず、この時に限り確かな実在感を伴って私の前に堂々と立ちふさがってくれたのである。

「……、おまえは……、だれだ?」

 私は思わずそう呟いた。というよりも、小さく言葉を発してしまってから、自分が呟いたのだということに気がついた。つまり全くもって不毛である。だがそれは仕方のないことであり、むしろ当然であるとさえ言える。

 ピーナツの可食部のような目、つぶれたあんパンのような鼻、ゴーヤのような顔面、豚のような耳、尻のように割れた顎……。

 夥しい数の写真のほとんど全てに所かまわず写り込んだ〝そいつ〟の、それらのなかなかどうして個性的なパーツから構成された顔面は、さらに加えてブクブクと膨れ上がってさえおり、もはやハリウッドの特殊メイクによる加工を疑うレベルだった。にも拘らず、つまり見る者に「土砂崩れ」を連想させかねないほどの顔面の崩壊度合いを全く気にすることなく、〝そいつ〟はカメラのレンズに向けて満面の笑みを見せてさえいたのだ。初見で言葉に詰まるのは、むしろ当然ではなかろうか?

 だがここでの真の問題は、私にとって〝そいつ〟が「初見」であるどころか、むしろこの世で最も近しいと言って過言でない相手であるという点にこそ存する。……どういうことか?

 意味深な表現を弄してそれとなく暗示することを繰り返しているだけでは埒が開かず、それどころか単純にみっともないとの誹りをも免れられないので、ここらで腹を決め、明確に言語化して差し上げることにしよう。

 アルバムの中の写真に多く写り込んでいたという〝そいつ〟。その正体は端的に言えば、この私だった。

 ……だがどういうことだ? ここは私の自宅でも何でもなく、「名探偵」の「事務所」であるはずなのだ、仮にHの根城の一室が、本当に見た目だけ見様見真似でそっくりそのままこの建物内に移設されたのだとしても、俺の写真がそこに隠されているというのは、どう考えてもつじつまが合わない、あらゆる方面から検討してみても、そのようなことが起こり得る可能性や発生方法が、ほんの露ほども見出し得ない、しかし事実として、それは起こった、いったい何がどうなっているのか……?


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