接触Ⅱ⑱
「門」から玄関まではさらに少し距離があった。偉そうに歩道のようなものが設けられていて、その左右にはただ広いだけで殺風景な庭?が、ほとんど手入れされた様子もなく放置されていた。雨ざらしで黒ずんだタヌキの像と、茶色く色あせた葉で覆われた松の木だけがかろうじて景色に色合いを添えている。身を隠せるような場所もなく、だから私は「着地」後すぐにうつぶせになり、じりじりと這い進むことを開始した。本屋で大分時間を使ったということもあり、いつしか時刻は夕方に近づいているようだったが、所謂「石畳」風の道は、むしろ一日分の太陽の熱を一身に集めていて素肌で触れると火傷しそうなほど暑かった。
それでも私は自らをイモリに擬し、律儀に前進を続けた。
ようやく玄関に辿り着いたのは体感にして1時間ほどが経過した頃だった。門の外から想像できないほど中の敷地が広かったために、事前の予想よりも遥かに多くの時間と労力を要せられた。しかしもちろんだからと言って、「到着」によりもたらされた喜びと達成感とに脳髄を突き上げられ、そのまま衝動に身を任せる形で例えば玄関の扉のノブをやかましく回すなどといった愚行に手を染めるわけにはいかない。「名探偵」としての資質から、自分以外の存在を全く信用していない私は、いや、自分自身さえ信じていない私は、誰がどこから命を狙ってきているかわからないという状況下において警戒を解き、気を緩めるだなどという馬鹿なことはしない。この場合も同様で、要するにこれ見よがしに設えられた玄関の扉のレバーに致死性の毒が塗られている可能性を、私は捨てきれていなかったのである。
それゆえ私は玄関扉の前で方向を転換すると、イモリの物真似を続けながら道を外れて庭を横断し、松の木に近寄った。ところどころに破れ目が生じてはいるものの、寄り集まって比較的大きな広がりを形成する木陰の中に入ったところで立ち上がる。心なしか若干気温が下がった気がする。もちろんそれに浸ることなどせず、すぐさま横方向に長く伸びる太い枝の一つを掴んだ。そして懸垂の要領で身体を持ち上げると、さらにゴツゴツとした幹を頼りに上方へ進んでいく、そのつもりだった。
こうしてみると、私は何かに上ってばかりのような気もするが、好きでそうしているのではないのであるからして許していただきたい。それは端的に言えば「侵入」のための代表的な手段であり、だからこそその頻度の高さは、私がそれだけ「名探偵」の義務としての治安維持活動に熱心であることの裏返しであると言ってよい。
そしてこの時私の意図した「木登り」にももちろん明白な目的があった。それとはすなわち、家の屋根に飛び移り、煙突から屋内への突入を試みることである。こういう豪邸には、往々にして煙突があるものだと、相場が決まっている。嘘だと思う者は、「あわてんぼうのサンタクロース」とかいうクソガキ御用達のイカれたクリスマスソングを参照してくれたまえ。
だが先に少し予告しておいた通り、結局私の意図は実現に至り得ない。
竿に干されて風に吹かれるシーツよろしく、枝にぶら下がったところで初めて気が付いた。
その庭には私以外にもう一人、別の人物が存在していたのだ。




