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接触Ⅱ⑩

 幸いなことにと言うべきか、その「マンドリル」は筋金入りのレベルで鈍感だったようで、こちらに全く気付く様子のないまま、ゆっくりと歩み去っていった。女性のモデルが所謂「ランウェイ」上でよくやるように、身体を左右にセクシャルにくねらせながら、パンパンに膨れ上がった臀部が大げさに暴れ回る様子を周囲に見せつけている。それを誤って直視してしまってさらに気分を害された私は、そいつが視界から消え去るや否や、すぐさま「こどおじ」の近くから飛びのき、もう一度尋ねた。

「おいっ! あいつは誰だ? ナニモンだ?」

「こどおじ」はよほどその体勢が好きなのか、相変わらず「ライオン」の背に密着したまま、大きなあくびを1つすると、言った。

「ヨウギシャだよ」

「は?」

「知らねえのか? このあたりで最近起こってる不可解な事件、その容疑者があいつなんだよ」

 そう言うと「こどおじ」は、さらに「最近起こってる不可解な事件」の概要について滔々と説明することを開始した。以下はその簡単なまとめである。


 ①4ヶ月ほど前、春の終わり頃、この街の外れの方に住む30代の男性の家が、深夜にいきなり炎上した。

 ②2ヶ月ほど前、この街に住む40代の主婦が車でコンビニにつっこんだ。

 ③2週間ほど前、この街の繁華街にあるレストランで集団食中毒が発生した。

 ④数日前、この街のとある公園に隣接した池で、大量の魚が白い腹を上に向けた状態で浮かんでいるのが発見された。


「名探偵」の御多分に漏れず、ごく控えめに言って私もまた非常に有能な「情報通」だった。可能な限り完璧に近い具合に治安を維持するためには、刻一刻と変化し続ける街の現状を常に頭に入れておかなければならない。そういう「格率」を所謂「座右の銘」として密かに自分自身に対して掲げている私が、「こどおじ」の語るいくつかの事件について存じ上げないはずはなかった。というか、恐らくこの街で暮らす者の大半は、その①~④について、少なくとも1つは見知っていたはずだ。何しろそれらはいずれも例外なく、テレビのニュースや新聞の地方欄で報道されているものばかりだったのだから。

 だが逆に言えば、その4つの事件の発生は、私が日々パトロールをして街の隅々まで目を配っていながら、それでいて事件の未然防止を完全には果たせていなかったということを意味する。つまり屈辱だ。そしてその屈辱的な事柄を、敢えてぶつけてこようとする「こどおじ」は、どう好意的に見ても仇敵、もしくは何の考えもないただのクズという以上にはなり得ない。

 だから私は、放っておけばさらに「5件目」についての語りに突入しようかという「こどおじ」を制止し、こう言い放ったのである。

「知ってるよ、全部知ってる、お前の知っていることで、俺の知らないことが、あるなどとは決して思うな、思い上がりも甚だしい、わかったか? わかったなら黙れ、いや、わからなくても黙れ、とにかく黙ってくれ……」

 この一言で「こどおじ」は口を噤むことになる、私にはそのような目算があった。何しろ私の要求は、「わかってもわからなくてもとにかく黙れ」というものであり、また「黙る」ことには特別な技量など何も必要とされない。

 しかし蓋を開けてみれば、「こどおじ」はまだ最後のカードを隠し持っていたようで、この期に及んで「質問を質問で返す」という禁じ手を繰り出してきた。

「まだ気づかねえのか?」

「……何に?」

 私がかろうじてそう尋ねると、「こどおじ」は、まさしく「こどおじ」の真骨頂と言わんばかりのドヤ顔で、強く言い切った。

「俺はアズマ、貴様と同じ、『名探偵』だ」


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