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接触Ⅱ②

 聞き間違いかと思い、反射的に目を大きくすると、Rはもう一度、恐らく同じ文句を繰り返した。

「アシアイチヨウアデエンタクイトイタルデオコカケオキャアッ!」

「恐らく(~繰り返した)」という風に敢えて留保をつけたのは、その時至近距離からぶつけられてきた音の羅列があまりに特殊すぎて、1度目と2度目のそれが本当に「同じ文句」なのか、判断がつきかねたためである。だがお言葉を返すようで恐縮だが、「「同じ文句」なのか(否か)」など、とりたてて重要な問題ではない。なぜなら少なくとも形式的には間違いなく「2度目」に該当するその「繰り返し」によって、私はRの言いたいことを完全に理解していたからだ。

「……そうかそうか、そういうことか」

 それゆえ私はそう呟いたのだが、ここでの「完全」な「理解」というのは、例えばくだんのセリフに対し変換や分節などの作業を施したり、Rの見た目からして悪そうな滑舌を考慮して必要最低限の音を補足したりすることで、「明日/日曜だで/洗濯しといたるで/そこ掛けときゃあ」という、一応それなりに整った一揃いのメッセージが獲得されるということを意味しない。

 重要なのはRの出現が「事務所」のごく近くで、しかもこの私がちょうど通過するタイミングで果たされたという事実である。それは明らかにあのオオタニが私の前に現れた時の状況と酷似している。つまりRはただ単にそこでグルグルしていただけではなく、私を待って、私に見せつけるために、その奇行を行っていたということだ。

 そしてそう考えれば、Rのステータスに関して、即座に相反する2つの可能性を想定することが可能となる。簡単に言えば〈敵か味方か〉、より詳細を期せば、〈Hの一味なのか、私を頼ってやってきた「依頼人」なのか〉の二択である。いずれにおいても、Rは私にとって赤の他人ではなく、何らかの形で密接な関わりを持つ存在ということになるわけだが、反面、遭遇の時点で、全くのイーブン、いやどちらかと言えば「敵」の側に傾いていただろう天秤の針は、くだんのセリフに対して「名探偵」の脳みそをほんの少し働かせた瞬間、一気に反対側に振れ、これ以上進むことのできない最も端の位置で固定されていた。

 お分かりいただけるだろうか?

 もちろん日々「温室」同然の環境の中でヌクヌクと生育を続ける世間一般の偉い偉い人間様が、何かの弾みで折れてしまいそうなほど研ぎ澄まされた私の思考をトレースできるだなどとは決して思わぬが、というか全く期待などしていないが、今はただこの物語を先に進めるためにのみ、私がRを味方(=「依頼人」)だと判断するに至ったメカニズムについて、できるだけ簡便に披瀝することを試みてみよう。

 必要なのは、Rのセリフの表面的な支離滅裂さに騙されるのではなく、発せられた言葉自体を本当の意味で虚心坦懐に見つめてやることである。すると何が浮かび上がってくるのか。ポイントをわかりやすく際立たせるべく、以下のように図式化を行ってみよう。


 ①…アシアイチヨウアデエンタクイトイタルデオコカケオキャア

 ②…明日/日曜だで/洗濯しといたるで/そこ掛けときゃあ

 ②-①=N・D・S・S・S・T

    =S+S+(N(14(番目のアルファベット))+D(4(番目))+S(19(番目))+T(20(番目))=57)

      =S+S+(57-26(全アルファベットの個数)×2)

      =S+S+5

      =S+S+(1×5)

      =S+S+0(15番目のアルファベット)

      =SОS(!)

 

 ……これでさすがにお分かりいただけただろうか?

 そう、意識的な読み取りを試みず、ただひたすら右から左へ流すような形で受け取ることをするだけでは単なる耳障りな「叫び声」のようにしか思えないRの言葉は、実際には心の奥底から押しとどめようもなく漏れ出してきた所謂「SОS」のサインだったのである。


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