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接触Ⅱ①

 新たな「依頼人」がやってきたのは2日後のことだった。

 いや、より正確を期せば、今度の「依頼人」は何も私のもとへ「やってきた」のではない。私が、そいつのもとへ、馳せ参じてやったのだ。

 その日は朝から分厚い雲が空を覆っていた。ある「特定の情景」を参照し、そこに何かが暗示されていたなどと短絡するのはもちろんヤボというものだが、事実としてその景色が見る者に気鬱を募らせるものだったのは確かだ。

 そんな中「依頼人」は、「事務所」の属するマンション前の、普段ゴミ置き場として利用されているちょっとしたスペースの中を、一人元気にグルグルグルグル周り続けていたのである。年齢は50から80の間ぐらいで、要するに「棺桶に足を突っ込みかけている」と言って間違いでない、しわくちゃの老婆(以下、Rと記載)だった……だと? またか……。

 それでも初めのうち、私は無視して立ち去るつもりでいた。

 以前にも述べたように、街の治安を守るのが「名探偵」の最重要任務の1つなのであるからして、本来であれば少しでも怪しい動きを見せる輩には声をかけて牽制球を送るぐらいのことはしてやって然るべきはずだった。というか、いつも私はそうしてきた。

 だがさすがに最近俺の人生にはあまりに多くのババアが登場して来すぎていると、私はRを見てまずそう思った。Zに始まり、次にむらさきババア、そして今まさに目の前に現れたグルグル野郎……。どいつもこいつも一筋縄ではいかないイカれた連中ばかりだ。最初の2人についてはもはや説明の必要はなかろうが、今回のRもまた、そいつらに負けず劣らず相当な傑物だった。

 この評価はもちろん私の個人的かつ主観的な判断だけには決して拠らない。思い込みや独断は、いずれも「名探偵」たるために最も注意深く避けるべき類の要件である。だから翻って考えれば、私がRに「相当な傑物」との称号を与えたのは、誰もが納得し、是認しうる外見的特徴の異常さに基づく。例えばその「異常」の現れの一つが、すぐ前で述べた意図不明な周回運動であることは言うまでもないが、実際にはそれはあくまで枝葉末節に過ぎない。より顕著なのはさらに手前、つまり一言で言えば容姿である。

 もちろん容姿を茶化して面白がろうとかそういうことがしたいわけではない。むしろそうすることが人間の屑の所業であることは重々承知している。だが反面少なくともここで私は、唐突に目の前に現れたRの容姿、より正確を期せば、そこに備わる普遍的な「ヤバさ」だけは、どうしてもご紹介いたさないわけにはいかない。ゆえに必要最低限の特徴だけ、以下に列挙することをどうかお許しいただこう。


 ・小学生が登校時にかぶるような黄色い帽子

 ・ノースリーブのタンクトップと太腿の半分までの長さぐらいのハーフパンツ

 ・口の周りをうっすらと覆う髭

 ・毛皮を模したような白色のマフラー

 ・首から下げた大振りの携帯ラジオ

 ・赤子の人形を載せ、その周りにお菓子の袋や箱を敷き詰めたベビーカー


 ……いかがだろうか? これを見て、全く異常だと思わない者が、この世のどこかにたった一人だけでも存在するだろうか? 少なくとも私は、一応「老婆」と認識したが、そもそもその性別さえ定かでない生き物を前にして大きな戸惑いを禁じ得なかった。

 しかしそれでも、もとより選択肢など用意されていない。その目撃の「時点」が、朝一のパトロールの最終盤であったということも合わせて考慮すれば、なおさら放置して去るわけにもいくまいだろう。

 だから私は自身の本心と職業倫理とのはざまで揺れ動きながらも、結局遠巻きに次のように問いかけることをしたのである。

「どうかしたのですか?」

 それに対するRの反応が以下だ。

「アシアイチヨウアデエンタクイトイタルデオコカケオキャア」

「?」



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