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依頼③

 これまで「名探偵」として様々な極悪人を檻の中に放り込んできた私は、現在その代償として「犯人」たち及び彼らの背後に控える「犯罪組織」(以下、Hと記載)から強い恨みを受けるに至っている。何時いかなる時も奴らからの攻撃に備え気を張っていなければならない。そういうある種の「四面楚歌」状況が、私を取り巻く環境のデフォルトということだ。

 もちろん、他者からの妬み怨み誹りを向けられるのは、「先覚者」としての宿命なのであるからして甘んじて受け入れるしかないし、そもそも奴らと私とでは「役者が違っている」ので、仮に四六時中狙われ続けていたとしても、そんなのは所詮、わずかながらのスリルを味わわせてくれるチープなアトラクション以上にはなり得ない。

 だがいずれにせよ、くだんの「デフォルト」(=「四面楚歌」状況)を踏まえさえすれば、例えば、刃物を持った男が叫び散らしながら「人質」をとるという明らかに異常なシチュエーションを、「名探偵」の元に「工作員」を潜入させるためにお膳立てされた「茶番」であったと見なすことに全く何の無理もなくなるはずだ。私のたった一言で「茶番」が完全に収束したとかいういくぶん奇妙な展開(もちろん私は「名探偵」であるので、その言葉に特別強大な力が備わっているのは当然と言えば当然だが)もまた、この「見なし」の正しさを間違いなく裏付けている。

 そして実際、その気さえあれば、【あのタイミング】に【あの場所】で私を待ち伏せするのはそれほど難しいことではない。なぜなら私は「名探偵」でありながら、「依頼」が事務所に持ち込まれてくるのをただひたすら待つのではなく、定期的に街中を隅々まで歩いて回り、異常の有無等について隈なく調査することを自らに課していたからだ。要するに、「パトロール」が習い性になっていたというわけだが、その「見回り」が毎日朝昼晩のほぼ同時刻に規則的に実施されているとあっては、意図的に私と遭遇することは排便するのと同じくらい容易に実現されうる試みとなる。お分かりいただけただろうか?

 とは言え、「オオタニ」という人物の詳細についてはこの程度で十分だろう。当初の想定以上に長々と述べてしまったが、いずれにせよ、こいつは単なる脇役にすぎない。先の一文(「その時、私はオオタニとともに「人生」について考えていた。」)に関してむしろよほど着目に値すると思われるのは後半部、すなわち「「人生」について考えていた」という部分の方である。

 先入観の類いを捨てて虚心坦懐にとらえれば、「人生」という完全に個人的であって然るべきはずの対象について、なぜ「~とともに」という仕方で、つまり誰かと協力するような形で「考え」なければならないのか、単純にそれがまず疑問である。また、所詮身の回りの世話をするぐらいしか能のない「助手」であり、且つまず間違いなくHの「スパイ」でもあるという意味合いにおいて、明らかに「協力者」として不適格なオオタニに助力を仰ぐというのも、冷静に考えればおかしな話ではあるまいか。 

 以上の推察から、ここで用いられている「「人生」について考え」るという表現が、ある種の比喩だという可能性を導き出すのはそれほど難しいことではない。そしてそれは実際のところ「可能性」などではなく、確かな「事実」である。そう、ここまではっきりと述べてしまえば、もはやこれ以上丁寧に名状する必要などどこにもなかろうが、要するに私とオオタニはその時、「人生ゲーム」に励んでいたのである。


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