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接触Ⅰ⑫

 ポイントは大きくわけて二点ある、と私は考えた。「私は考えた」とは言ったが、「名探偵」に備わるずば抜けてハイセンスな脳みそは、時として主である私の制御を外れて作動することがあり、この場合もまたそのパターンだった。つまり「考えた」主体は実際には私ではなく、アポロとか何とかいうただのデブもひれ伏すレベルの「灰色の脳細胞」の方だったわけだが、まあそんなことはどうだってよろしい。いずれにせよ、ポイント、すなわちここで私が事件の全容を把握するにあたって手がかりとしたものはやはり二つだ。すなわち、住人が中にいるはずであるにも拘らず、しかも夏であるにも拘らず、ガラス戸が完全に閉め切られ、鍵さえかけられているということ、そしてそのガラス戸は私が突っ込んでもビクともせず、それどころかむしろこの私を跳ね返すほどの強度を備えていたということである。前者に関しては先に十分筆を費やしたはずなので、ここでは後者の事象の重要性について、いましばらくの補足を試みよう。

 私が世間に向けて公表している身長体重の数値は、それぞれ170センチ96キロである。つまりオオタニほどではないが、なかなかの巨漢であると言い切ってしまって差し支えない。もちろん「名探偵」としての用心深さから、その「公称」は完全に正確ではなく(私が私であると特定されるのを防ぐためだ)、実際の私の身長は恐らく165センチほどで、体重は少なく見積もって決して100キロを下りはしなかったであろうが、その虚構とリアルとの間の「ズレ」は、本来であればこのような場面でこそ有効に機能するはずであった。仮にHの連中が「名探偵」対策のため、事前に私の身長体重に合わせて建物を強化していたとしても、実際には私はそれを上回る体躯なのであるからして、「侵攻」を防ぐことは端から不可能だったということだ。

 だが繰り返しになるが、そんなラグビーかプロレスの選手と見紛うほどの肉の塊、まさしく「ミートボール」と称されて然るべき「名探偵」の私は、実際にはガラス戸に敢え無く弾き飛ばされた。つまりそのガラスは相当な程度に強化されたものであると見てまず間違いないわけだが、冷静に考えてみれば、いったいなぜ、単なるごく普通のマンションの一室の戸に、それほど耐久性の高いガラスがはめ込まれる必要があるのか? そのことが、大いなる疑問となるわけである。

 だがこの疑問に対する答えは、実は疑問自体に既に完全に内蔵されていると言ってよい。

 今一度確認しておけば、私のアンテナに引っ掛かったのは、「普通のマンションの一室」に、過剰なほど強化されたガラス戸がはめ込まれているという点だ。……もうお分かりいただけただろうか? そう、疑問の解消は存外簡単で、すなわちその部屋が「普通の部屋」でさえなければ、それだけで万事解決なのだ。そしてくだんの「普通でなさ」が、強化ガラスの硬度に由来することを鑑みれば、その場所が「監禁」のためにHの連中によって用意された部屋なのだということもまた自明である。つまり鍵のかかった非常に頑丈なガラス戸は、中にいる者の脱出、もしくは外からの救出を予防するための極めて周到な対策だったということだ。私が弾かれたのもムベナルカナという感じである。

 だがだからと言って、もちろんこのまま引いてしまうわけにはいかない。私は「名探偵」なのだ。誰かが中に監禁されているとわかった今、そこらへんに掃いて捨てるほどに溢れてる自称「探偵」どものように日和っていったん行動を差し控え、何もかもが取り返しのつかないところまで進んでから解決に向けて乗り出すふりをするというわけにはいかない。


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