お弁当が終わる日
『理華、今日のお弁当は夕ごはんの残りでごめん! 理華がお母さんのお弁当ですくすくと育ちますように』
(私もう高3なんだけど今言う?)
苦笑い。私は手紙を読みながら、すでに出来ているお弁当を丁寧にナフキンで包んでからカバンに入れ、学校に向かった。
「理華のお弁当、今日も美味しそー」
私は、箸の先で割った玉子焼きを口へと運んだ。ふわりお醤油の香りと、舌にほんのりとした甘み。
友だちも「おなかすきすぎ〜」と各々お弁当箱の蓋を開けていく。
「私のママ、玉子焼き超絶下手くそでさあ。上手く巻けないでやんの」と、薫。
「それな。うちもパパのが上手だもん」
有里が同調。
「だから理華のお母さんすげー」
「お母さんもともとは調理師免許持ってたから」
「玉子焼き完璧〜」
私は食べ終わると、空のお弁当箱にそっと蓋をした。
家に帰ってから、夜ごはん作りに取り掛かる。冷蔵庫から人参と牛蒡を取り出し、人参の皮をピーラーでむこうとして手を止める。
『お弁当の金平どうだった? 人参や林檎は皮に栄養があるらしいよ。今日も学校元気に行ってらっしゃい!』
……そうだった、私は皮はそのままにし、人参を細切りに牛蒡はささがきにした。フライパンで牛蒡、人参の順に炒め、砂糖、酒、味醂、醤油で味付け。最後に胡麻油。
(お母さんのレシピのおかげで上手く作れるようになったなあ)
牛蒡の金平と冷凍してあったハンバーグ、今日の夜ごはんはこれでいいか。お米をといで炊く準備をする頃、ピンポンとインターフォンが鳴った。
「チルドのお荷物でーす」
受け取ると、いつものように中から箱を取り出し、冷凍庫へ。最近の冷凍技術はすごい。ほぼ、そのままの状態を保てている。
『今日のお弁当の味はどうかな? 冷凍だから出来たてとは言えないけど!』
あれはいつだったかな。
「お弁当なんて普通に出来たてじゃなくね?」とツッコんだことがある。
ただ。明日は卒業式前日。これが最後のお弁当。
『理華、いよいよ高校卒業だね。今日でお母さんのお弁当もお終いです。お医者さんに余命半年と言われてから、たくさんの数のお弁当を作って、宅配してもらうよう冷凍保管サービスにお願いしておいたのだけど、お母さんのお弁当は美味しかったかな?
もう卒業かあ。卒業式の理華、ちょっと見たかったな。
理華、あまり一緒にはいられなかったけど、お母さんのもとに生まれてきてくれてありがとう』
溢れる涙を拭いながら、いつものようにお弁当箱を洗った。