第3話
エイルとシャルはロッカールームの調査を終え、再びカフェのフロアに戻ってきた。エイルは何か思案顔で天井を見つめながら、シャルと話し合っていた。
「ロッカールームには特に異常はなかったね。」
エイルは言葉を切りながらつぶやいた。
「ただ、何かが見落とされている気がする。少し休憩してから、次はマスターに話を聞いてみようか。」
「そうですね!」
シャルが頷き、1度休憩をとることにした。
休憩の後、二人はカウンターに立つマスター、ロイドの元へ向かった。
白髪短髪のロイドはカウンターの奥でコーヒー豆をひいていたが、エイルたちに気づくと穏やかに微笑んで出迎えた。
「ああ、君たちか。調査は進んでいるかね?」
「マスター、今少しお時間をいただけますか?」
エイルが丁寧に尋ねた。
「レシピが消えた時の状況について、詳しくお話を聞きたいんです。」
「もちろんだとも。」
ロイドはひと息つくと、手を止めてゆっくりと椅子に座った。
「どうぞ、何でも聞いてくだされ。」
エイルは一瞬目を閉じて考え込み、慎重に質問を投げかけた。
「マスター、レシピがなくなったのはいつ頃のことですか?それから、その時店には誰がいたのでしょうか?」
ロイドはしばらく思い返すように頭をかしげた。「先週の土曜日のことだったと思う。あの日は特に忙しい日だった。客足が絶えず、サラや他のスタッフも大忙しだったんだが、みんなベテランだったからレシピを必要としていなくてね。レシピがなくなったことに気づいたのは、閉店後の片付けをしている時だったね。」
「その時、ロッカールームには誰が近づいたかわかりますか?」エイルは続けて尋ねた。
「いや、はっきりとは覚えていないよ。ただ、その日も普段と変わらず、誰もが自分の仕事に追われていたから…、レシピを持ち出す暇なんて誰にもないと思うんだが……」
ロイドは眉間にしわを寄せながら、苦悶の表情を浮かべた。
シャルが少し前のめりになり、興味深そうに尋ねた。
「マスター、そのレシピはカフェにとってとても大事なものですよね?何か特別な保管方法とか、対策はされていないんですか?」
ロイドは深いため息をついた。
「実は、特に厳重に保管していたわけではないんだ。私が自分の手元に置いて管理していただけだから、盗まれたのではなく、どこかに紛れ込んでしまったのかもしれない。」
エイルはロイドの言葉を聞きながら、さらに何かを考え込んでいるようだった。
「マスター、レシピが消える前に、何か変わったことはありませんでしたか?例えば、スタッフや常連客が何か妙な行動をしていたとか。」
ロイドはしばらく沈黙し、そして首を振った。
「特には思い当たることはないな。ただ、最近、常連客の一人がスイーツのレシピについてやけに興味を示していたのは覚えている。その客がレシピを狙ったのかどうかはわからないが、少し気にはなっていたんだ。」
エイルは興味深そうにその言葉を捉えた。
「その常連客の方について、もう少し詳しく教えていただけますか?」
ロイドは頷き、話を続けた。
「その客は、毎週来店している年配の男性だ。彼はこの店のスイーツを非常に気に入っていて、何度かレシピの話を持ちかけてきた。もちろん、レシピは企業秘密だから教えられないと断ったんだが……最近も何かしら質問してきていた。」
シャルが目を輝かせた。
「その人、怪しいですね!レシピを消したのはその人かもしれません!」
エイルは静かにうなずいた。
「その可能性はあるね。でも、まだ決定的な証拠はない。次はその常連客に話を聞いてみる必要がありそうだ。」
ロイドは心配そうにエイルを見つめた。
「その常連が犯人だと決めつけるのはまだ早いと思う。彼はただ好奇心が強いだけかもしれない。だが、もし君たちが彼に話を聞いてくれるなら、それで少し安心できるかもしれない。」
「もちろんです、マスター。私たちはどんな可能性も排除せず、慎重に調査を進めていきます。」
エイルは優しく微笑んで答えた。
その後、エイルとシャルはマスターに礼を伝え、次の手がかりを追うためにカフェを後にした。エイルは静かに歩きながら、次の調査の段取りを考えていた。