悪の組織の幹部と事件発生……?
日が傾いて、街が赤く染まる頃、クラスメイトたちは帰っていった。わたしはもうちょっと残るから、二人だけを送り出す。まだ日没までは時間があるし、いつもこれぐらいの時間に解散だから問題ないはず。
わたしは転移で送ってもらう予定だから、もうちょっとゆっくりと、ね。
「驚いたよ、エナちゃんがクラスメイトだったなんて」
「わたしも驚きました……。ずっと学校に来てない子がいるっていうのは聞いていたんだけど、クロちゃんだったなんて……」
「ゆうめいじん」
「クロ。褒められたことじゃないから」
「ん……」
良くも悪くも、だよね。クロちゃんのことだと知った今なら、悪い話のほとんどはみんなが適当に言っただけっていうのが分かるけど。
「でもエナちゃんがいてくれるなら安心だよ。クロ、良かったね」
「ん。エナ。いる。おともだち。うれしい」
「そ、そう? えへへ……」
なんだかすごく嬉しい。思わずちょっとにやけていたら、クロちゃんに撫でられてしまった。わたしも撫で返しておこう。二人でなでなで。
「ふへへ……。なかよしちっちゃいこはいいね」
「小夜。きもい」
「きもい!?」
リオさんが代わりに言ってくれたけど、わたしもその笑顔はどうかと思うよ……。
そうして少し話して、わたしも家に帰ることに。クロちゃんの魔法で家の側に繋げてもらう。転移の魔法の簡易版、ゲートという魔法で、目標の地点に繋がる穴を作るものらしい。
誰かに見られないように、穴の先はわたしのお家の上空。わたしも空を飛ぶのと認識阻害は使えるから、これで問題なく帰れる。
「それじゃ、クロちゃん。また学校に来てね?」
「ん」
クロちゃんたちに見送られて、ゲートをくぐって。
家の前にいる女の人に、私は警戒よりも前に驚いてしまった。
「あなたは……!」
「ああ、よかった……。探したよ。マジカルエナ」
そこにいたのは、一年以上戦い続けた悪の組織の幹部さんだった。
わたしは普通に家に入って、自分の部屋へ。幹部さんには認識阻害を使った上でついてきてもらった。
わたしの部屋は、特に何の変哲もない普通の部屋だと思う。ベッドと勉強机に、小さい丸テーブル。それに棚が二つほど。薄い青や緑で色を統一してる。
幹部さんに座布団を勧めて、わたしはベッドに座った。
「それで、どうしたんですか? もう戦うつもりはないと思ってたんですけど……」
「ああ、それでいいよ。少なくともあたしも総帥も、もうあんたと戦うつもりはない」
「なら、どうして……?」
「納得しないバカが出てきたんだよ……」
幹部さんが言うには、世界征服を諦めることに反感を持つ構成員は多いらしい。最初は幹部さんや総帥さんを説得しようとしていたけど、結局組織を抜けて新しい組織を立ち上げてしまったのだとか。
わたしの知らない幹部と離反した構成員で新たに立ち上げられた組織。その名もアルカディア。意味は、分からない。英語わからないから……。
「それで、わたしに何をしてほしいんですか?」
「あいつらを止めるのを手伝ってほしいんだ。もちろんあんたに何の得もないのは……」
「わかりました」
「わかって……、はやいね!?」
幹部さんのことは嫌いだけど、今はもう悪いことはしない人だ。もちろん、総帥さんも。むしろ悪い人たちを止めようとしてくれているなら、協力するのは当然だ。
だって、わたしは。
「魔法少女、ですから」
日曜日の朝のアニメ。わたしの憧れの原点。あの主人公たちのように、みんなを守れる魔法少女になりたいから。
「それに……。放置すると、動きそうな子たちを知ってるので……」
クロちゃんが先に気付いて動いてくれるなら、きっとストッパーになってくれると思う。でももし、リオさんが先に気付いたら?
想像しただけで体が震える。とても、怖い。
みんなから話を聞く限り、リオさんは敵に対して容赦しない人だ。総帥さんを追い返したことがあるらしいけど、それもここがクロちゃんの世界で、なおかつ一回目だからだと思う。多分、二回目は、ない。そして多分、別組織だからって区別しない。
「止めましょう。魔女たちが気付く前に」
「ありがとう……。恩に着るよ」
これは、スピードが勝負。今晩早速、説得に行くことになった。
夜の十一時。わたしと幹部さんは敵のアジトに来ていた。アジトというか、古い一軒家だ。ここで少しずつ勢力を拡大しているらしい。今のところ、総勢百名と少し。規模としては少ないけど、どんどん増えてるらしいから急がないと。
「こんな家に百人もいるんですか?」
「空間を拡張しているのさ。魔道具ってやつだね」
「へえ」
「組織から一つ盗まれてね。それについても、ぶん殴る」
「あ、あはは……」
幹部さんも相当怒ってるみたい。貴重なものを盗まれたらしいから当たり前かな。
「それで、この後どうします? 突撃します?」
「以前から思っていたけど、あんたってわりと脳筋だね」
「脳筋!?」
それ、確か脳みそまで筋肉みたいな考え方してるっていう感じの悪口だよね!? ひどくない? わたし、そこまで変なこと言ってないと思うのに。
「いきなり乗り込んでも、人数差で負けるよ。あっちにいる幹部は二人、どっちもあたしと同程度の強さだ。こっちもあたしとあんたの二人いるが、あっちはそれに加えてザコどもがいる。さすがに厳しいよ」
「なるほど……」
確かに、今更ただの構成員なんかに負けるとは思わないけど、幹部の相手もしながらとなると厳しいと思う。それなら、何か手段を考えて……。
そう考えていたら、予想外の子が視界に入った。
アジトの一軒家。そこのインターホンを鳴らす小さな子。というより、クロちゃん。いつもの魔女スタイルで、じっと一軒家を見つめてる。
家のドアが開いて、男の人が顔を出して。その人を見た瞬間にクロちゃんは、なんだかエネルギーの塊みたいなものを叩きつけて、家の中に入っていった。
うん。えっと……。その……。
「あの子にも声をかけました……?」
「かけたと思うのかい……?」
「いえ、まさか……」
この幹部さんは、クロちゃんたちを異様に警戒してる。今ならその理由も分かる。クロちゃんたちはあまりにも強すぎるから。
クロちゃんが使う魔法は召還の魔法とか、そういった楽しいことに振り切ってるみたいだけど、私たちからすればクロちゃんの膨大な魔力を叩き込まれるだけで危ない。
そんな、彼女にとってとても怖いクロちゃんに、自分から会おうとするとは思えない。
少し様子を見よう、と思ったところで。
家から誰かがまるで逃げるように飛び出してきた。そしてあっという間にクロちゃんに捕まって、連れ戻されてる。あれは……。
「こっちの……幹部ね……」
「はあ……」
うん。えっと。なにこれ……?
壁|w・)スピード勝負だと思ったらすでに負けていた魔法少女。
アジトの中は阿鼻叫喚になっている……かもしれない。どったんばったん。




