クロのお家
「小夜。黒乃」
そう呼んだのは、母。じっとクロを見つめてる。
「今は……楽しいの?」
「ん。楽しい」
「小夜は?」
「ちっちゃい魔女ちゃんがたくさんで最高だね!」
「そう。小夜の将来だけが不安だけど、いいわ。私からは何も言わない」
「ひどくない?」
なんか魔法とは何の関係もないところで不安だと言われた気がするんだけど。何が理由でそう思ったのか聞いておきたい。あ、いや、やっぱり言わなくていいです。
「いいのか?」
「いいのよ。さすがに忘れたいとまでは思わないから」
「そうか……。そうだな」
父がゆっくりと頷いた。そうして顔を上げた父は、なんだか少し憑き物が落ちたような、と言えばいいのか、少し晴れやかな顔だった。
「小夜。クロ。せめて中学校ぐらいは卒業しなさい。義務教育だからな」
「それって……」
「その後は好きにするといい。だが、そうだな。月に一度は顔を見せろ。それが条件だ」
あっさりと、理解を得られてしまった。正直なところ、もっと色々言われたり、最終手段にも頼る可能性も考えていたんだけど……。ちょっと、拍子抜けだ。いや、いいことだけど。
それはクロも同じみたいで、目をまん丸にしてる。そんなクロもかわいいです。
リオちゃんも満足そうに頷いて、そして言った。
「その人はどうするの?」
「あ」
私たちの五人の視線を受けるのは、クロの担任の先生。魔法のあたりから完全に置いてけぼりになってたみたい。ついていける方がおかしいとも言える。
全員が黙り込んで、そして最初に口を開いたのは父だった。
「記憶処理とやらを頼む」
「ん。わかった」
「え、ちょっと、ま……」
リオちゃんが先生の頭に手を触れると、先生はその場で気を失って倒れてしまった。これは、元々そういう魔法、ということでよかったのかな? さすがに不安になる。
「これでよし。他の先生っていうのにも少し話してるみたいだから、処理してくる」
「え」
「それじゃ、クロ。また後で」
そう言い残して、リオちゃんと先生は一瞬で姿を消してしまった。
後に残されたのは、私たち家族四人。なんだか、とても気まずい。
「…………。ハンバーグを作るけど、食べていく?」
「えっと……。クロ。どうする?」
「たべる」
「じゃあ、はい」
その日の晩ご飯はなんだか静かな晩ご飯になったけど、以前ほど居心地悪く感じなかった。
翌日。認識阻害が解かれた両親が私たちの家にやってきた。
「おい、ここは……。幽霊屋敷、ではなかったか……?」
「そういえば、最近全然噂を聞かなかったわね……」
「認識阻害で、みんなこの家のことが分からなくなってるらしいからね」
「なんでもありか?」
私もなんでもありかと言いたくなるけど、クロたちが言うには魔法にも何らかの法則があるらしい。ただ間違い無く物理法則とは違う何かだとは思う。正直、私たち一般人には分からないことだ。
「ちなみに幽霊屋敷っていうのは本当だったよ」
「それは、どういう?」
「おばけがいます」
「なんですって?」
「おばけがいます」
両親が理解を拒むような遠い目になってしまった。おばけこばけちゃんについては、正直私も同じ気持ちになったからとても分かる。でも事実だ。受け入れてほしい。
家の中、大広間に出る。するとそこには。
「リオ! 貴様! そのチョコはわしが狙っておったのじゃ!」
「知らない」
「もぐもぐ……。ウル、ラキ、おいしいね?」
「わふ」
「リコリスさん、このポーションの効果ですけど、どう思います?」
「これは……とてもすごい……ですね……」
「宿題が終わらないよお……」
とても大騒ぎな魔女ちゃんが集まっていた。
いや、待って。言い訳させてほしい。本当はもっとこう、威厳たっぷりに出迎えるつもりがあったらしんだよ。私たちが魔女だ、みたいな。
でもね。心配かけたお詫びに、首相さんからもらったものと同じメーカーのチョコを買ってきたら、それはもう大騒ぎになった。みんなどれだけチョコが好きなのかな。子供かな? 子供だったよ。
そんな魔女ちゃんたちのお世話をするみたいに、おばけとこばけが忙しそうに飛び回ってる。ジュースを持っていったり、チョコを補充したり。働き者のおばけだね。働き者のおばけって何だよ。
おばけたちがこっちに気付いたみたい。おばけとこばけがそれぞれジュースを持って飛んできた。おばけが両親にジュースを渡すと、両親は戸惑いながらも受け取った。
「ありがとう……?」
「ばけばっけ」
すうっとまた飛んでいくおばけちゃん。こばけは私とクロに渡してくれた。
「ありがと」
「ぱけ!」
そしてこっちもすっと飛んでいく。いつも通りだね。
「お! いつの間に来たのじゃ! ほれ、こっちに来い! 若い者が遠慮するな!」
「…………。小夜」
「あそこの竜人族の魔女ちゃんは百年以上生きてるよ」
「百年」
「ちなみに昨日会ったリオちゃんは千年以上」
「…………」
これはあれだね。理解を諦めた顔だね。なんというか、ごめんなさい。
両親が色々諦めた顔で椅子に座り、それでは、とドラコが叫んだ。
「貴様らに! クロのことを教えてやるのじゃ!」
「いや、それは……」
「拒否権はない!」
どんなところに住んでいるのか確かめたい、ただそれだけのはずだったんだけど……。なぜかドラコちゃんがクロの自慢話をしてる。私もやりたい。
それはともかく。
「クロ。よかったね」
「ん」
クロがどことなく嬉しそうだから、良しということにしようかな。
壁|w・)さくっと解決、なのです。
暗い話をながながとやるのはいやなので……!




