決意と捕虜
気が付けば、わたしは元の場所に立っていた。
なんだろう……。すごく不思議な体験だった。異世界に、すさまじい力量の魔女たち。わたしは結構優秀な方だと自負していたけど、あの子たちと比べるとまだまだだ。
力をかしてもらえれば魔王も倒せるかもしれない。そう思ったけど、あの子たちはみんな、それぞれに住む世界があるらしい。そんな子たちを、わたしの世界の都合に巻き込むのはさすがにだめだと思った。
それにしても、本当に夢みたいな体験だったけど……。大丈夫、夢じゃない。だって、私の手にはたくさんのポーションがあるから。
渡されたのは、五本。でも渡してくれた子が言うには、百倍に希釈して使うとちょうどいいらしい。つまり五百本分のポーションだ。
ポーションもすでに枯渇しかけていたから、すごく助かる。早速渡さないと……。
そうして意気揚々と拠点にしている宿に戻ると、ディアンたちがわたしを見て勢いよく立ち上がった。
「リコリス……! よかった、無事で!」
「え? あの、どうかしたの……?」
「どうかしたの、じゃないわよ! あちこち探し回っても見つからなかったのよ!」
ああ、そっか。戻った場所は同じでも、時間の経過はちゃんとあるから……。みんなに心配をかけてしまったみたい。反省しないと。
「ごめんなさい……。襲撃、ありましたか……?」
「いや、それは大丈夫だ。あっちもまだまだ準備中なんだろうな」
「ところでリコリス。それはどうしたんだい?」
ディアンが聞いたものは、わたしが持ってるポーションだ。枯渇しかけているものを持っていたら、驚くのも当たり前だと思う。
「その……。もらいました……。百倍に希釈して使うみたいなので、五百本分のポーションになる、らしいです……」
「五百……!? それはすごい! でもそんなポーション、どこに……」
「あの……えっと……。わたしの、とっておきというか……」
さすがに、異世界のことは話せない。話したところで信じてもらえるかも分からないし、そもそもとして巻き込みたくないから。
でもうまく理由が思い浮かばずにそんな回答をしたら、ディアンは苦笑いしてしまった。
「言えないってことだね。わかった。詮索はしないよ」
「ありがと、ございます……」
「いや。それじゃ、これは騎士団に届けてくるけど、それでいいかな?」
「はい……。あ、でも、一本は残しておきたい、です。わたしたちも、使いますから……」
「そうだね。ポーションを渡してくれた人もそれを望んでいそうだ」
ディアンは頷くと、四本のポーションを持って宿を出て行った。
ディアンはすぐに戻ってきて、改めて今後を決めることになった。
「まずはっきり言っておく。僕は、魔王城に向かう」
真っ先にディアンがそう言った。それに驚きはない。ディアンはそんな人だって知っているから。だからこその勇者だから。
「でもみんなに無理強いをするつもりはない。僕一人でも構わない。でも一緒に来てくれると、嬉しい」
ディアンがそう締めくくる。次に口を開いたのは、アクスさん。
「水くさいことを言うなよ、ディアン。行くに決まってんだろ」
「そうよ。ここまで来て逃げることなんてできるはずがないでしょ」
ミレナさんもそう続いて、最後は、わたし。
「わたしも、もちろん……。行きます」
逃げたい気持ちがないとは言えない。それでも、この人たちを残して、自分だけ逃げるなんて絶対に嫌だ。
わたしたちの言葉に、ディアンはとても嬉しそうに笑って。
けれど、魔王城に四人で挑むことは、結局できなかった。
ディアンたちと魔王城に向かうと決めた、翌日。魔族の大攻勢があった。今までの規模じゃないそれに、わたしたち人類は敗走するしかなかった。
幹部ほど強い魔族がいたわけじゃない。でも、あまりに数が多すぎた。
そうして勇者たち人類は砦を放棄して敗走して……。
でもわたしは、逃げられなかった。
「う……」
わたしの手足には、枷がある。その上この牢屋には魔封じの結界をかけられているらしくて、魔法を使うことはできない。今のわたしは、無力な人質だ。
勇者を逃がすために、囮になった。もちろんディアンは反対したけど、わたしよりもディアンが失われる方が問題だ。だってあの人は、勇者だから。
だから勝手に行動した。わざと派手な魔法を使って、アクスさんたちにディアンを連れて行くように頼んで……。そしてわたしの目論見はうまくいった、はず。確かめる方法はないけど。
あれから、何日経ったのかな。日の光が見えない場所だから、分からない。
わたしもそろそろ限界かもしれない。パンと水はもらえているけど、精神の方が、ちょっとつらい。
思い出してしまうのは、ディアンたちと旅をした日々。とても、とても楽しい日々だった。世間知らずのわたしにディアンがいろいろ教えてくれて……。辛いこともたくさんあったけど、大切な記憶だ。
あとは、あの小さな魔女たちがいる家。とても平和な世界みたいで、あの場所にいる魔女たちはみんな幸せそうで……。
わたしも、あの輪の中に入りたかった。クロちゃんと話したけど、とってもいい子で、わたしも友達になってあげたかった。
きっと、きっと楽しかったと思う。みんなの世界の、いろんなことを聞きたかったし、あの転移魔法もちょっと調べてみたかった。
でも。もうどうしようもない。きっとわたしは、近いうちに処刑されるだろうから。
絶望ってこういうのを言うのかな。心が苦しくなってくるのが分かる。ああ、いやだ。覚悟はしていたつもりなのに、やっぱりまだ、死にたくない……。
だから。
「だれか、たすけて……」
そう、口からこぼれていた。
「ん。たすける。まかせて」
そんな声が、すぐ側から聞こえてきた。
・・・・・
壁|w・)すぴーどかいけつ!




