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閑話 錬金の世界


 いろいろと忙しそうにしていたことが落ち着いた後、クロはエリーゼに招待されてエリーゼの世界にやってきました。

 エリーゼのお家には相変わらず錬金で使う鍋がたくさん並んでいます。材料になる素材もいっぱいです。エリクサーの調合で有名になったエリーゼには、たくさんの依頼が来るそうです。


「エリーゼ。たいへん? めいわく?」

「えっと……。クロちゃんのことを迷惑だなんて思ってないですよ。むしろクロちゃんがいなかったら、今の私はありませんから」


 そう言って、エリーゼがクロの頭を撫でてくれます。なかなか上手な撫で方です。七十点ぐらい。ちなみに百点満点はお姉ちゃんで、九十点が師匠です。


「この世界に興味があるって聞きました。どこに行きたいですか?」

「ん……。さんさく」

「散策ですね。じゃあ、のんびり散歩しましょう」


 そういうことになりました。




 エリーゼに案内されて、のんびり街を歩きます。エリーゼの世界の街は、いわゆるファンターのゲームに出てくる街みたいなものでした。煉瓦造りの街並みで、活気があるとてもいい街だと思います。

 そんな街で、エリーゼはちょっとした有名人でした。


「エリーゼちゃん、いらっしゃい! いい果物が入ってるよ!」

「薬草はいるかい? いつでも用意しているからね」

「エリーゼ! ちゃんとメシは食ってんのかい! ほら、パン持っていきな!」


 有名人というか、とても人気者です。エリーゼもそれに笑顔で受け答えしています。


「エリーゼ。すごい。にんき」

「あはは……。ずっと気に掛けてくれていたみたいで……」


 貴族が多く通う学園で、数少ない平民出身。それに愛想もいい。そういうわけで、エリーゼはこの街の人から大人気だそうです。


「それに気付いたのが全部終わってからだったので……。ちょっと情けないですね」


 もしも錬金術を諦めていた場合は、きっとどこかで雇ってもらえていたのでしょう。それぐらい、エリーゼは人気者でした。




 街の片隅にある噴水で、もらったパンを食べることにしました。

 この噴水は魔法で作られているものらしくて、街の人の憩いの場所なのだとか。常に浄化の魔法もかけられていて、井戸代わりに使われているそうです。いつでも飲んで大丈夫なのだとか。

 ためしにクロも飲んでみましたが、水道水よりも美味しい気がしました。


「はい。クロちゃん」


 エリーゼにもらったパンをかじります。とても柔らかいパンで、仄かに甘みを感じられました。日本のパンほどではありませんが、このパンもとても美味しいです。

 噴水の側のベンチで、二人でのんびりします。噴水の周りにはたくさんの子供が集まっていて、みんなでかけっこをしています。

 子供といっても、クロと同年代の人もたくさんいました。みんな元気です。クロはどちらかというと運動は苦手なので、さすがに一緒に遊びたいとは思えません。


「クロちゃん」


 エリーゼに呼ばれて、そちらを見ました。


「改めて。本当にありがとうございました。私がこうして錬金術を続けられるのも、クロちゃんのおかげです」

「んー……。あきらめない。すごい。エリーゼ。すごい」

「あはは……。ありがとうございます」


 確かにクロと師匠がお手伝いしましたが、それでもあの難しいエリクサーの錬金をわずかな時間で会得したのは、正真正銘エリーゼの努力と才能です。そこは間違いありません。

 それに。きっとそうやって努力を続けてきたエリーゼだからこそ、クロの魔法は反応したのだと思います。

 あの魔法は術者のクロですらよく分からないものになってしまっています。それでも、クロにとって好ましい人が選ばれているのは間違いありません。


 そうして二人で話していると、一人の男の人が近づいてきました。なんだか大人の人で、エリーゼを見てまっすぐに歩いてきます。

 もちろんエリーゼも気付いているみたいですが、逃げる素振りとかはないので知り合いなのでしょう。


「エリーゼ」

「こんにちは、教授」


 エリーゼの学園の先生みたいです。言われてみると、なんだか威厳たっぷりな気がします。


「家にいなかったので少し心配したぞ。その子は……」

「お友達です」

「ほう……?」


 教授さんの視線が、なんだかクロを値踏みするようなものになりました。正直、あまり気分のいいものではありません。でもエリーゼの先生なので我慢します。


「友人……ということは、その子が」

「教授」


 その時のエリーゼの声は、クロですらびっくりするぐらい冷たい声音でした。


「教授には感謝しています。でも、それ以上は、許しません」


 それは明確な拒絶の言葉でした。優しいエリーゼから出た言葉とは思えないほどに。

 教授は驚いているみたいでしたが、やがて苦笑を浮かべて肩をすくめました。


「承知した。邪魔をしてしまったな。ゆっくりするといい」


 そう言って、教授さんはすぐに立ち去っていきました。


「ふう……。ごめんなさい、クロちゃん。普段はいい先生なんですけど……」

「ん。だいじょうぶ。エリーゼ。しんぱい。いいひと」

「あはは。はい。私の恩師で、とてもいい人です」


 それは、なんだか宝物を自慢するような雰囲気で。

 ちょっとだけ、いいな、と思ってしまいました。もちろんクロにも師匠がいるので、負けてるつもりはありません。師匠自慢なら負けません。むしろ必勝です。

 いつでもこい、なんて思っていたら、エリーゼが言いました。


「そろそろ出発しましょう! いい景色もありますから!」

「ん! みたい!」


 そういえば観光の最中でした。クロはエリーゼに手を引かれて、街の散歩を再開しました。



 その日一日、街のあちこちで、ちっちゃい錬金術師に手を引かれるちっちゃい魔女が、街のあちこちで見られたそうです。


壁|w・)クロの存在がとても気になるけど、エリーゼを怒らせたくない、そんな教授でした。


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― 新着の感想 ―
[一言] クロとオフの日だから仕方ないね! 学園内なら話は聞けたかも? もうちょい愛想がよくて、〉ちょうど良い菓子があったので二人で食べなさい。では。 と愛想が良ければ知り合いになれたか?
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