エリーゼの自慢
一時間後、鍋の中の液体は無事にエリクサーとなっていました。つまり、成功です。完璧に成功したエリクサーは、薄い赤色で仄かに輝いて見える不思議な薬です。
「まさか、本当に作ってしまうとは……」
「今すぐ鑑定を!」
「間違い無い、エリクサーだ……!」
皆さん驚いています。すごく騒がしくなってきました。なんだか、この反応を見れただけでも、頑張った価値がある気がします。
そうした中、錬金術の教授が叫びました。
「何をしている! 貴重なエリクサーだ、今すぐに保存しなければ!」
はっとしたように皆さんが我に返り、何人かが部屋を出て行きました。保存用の容器に入れるのだと思います。エリクサーは特殊な薬なので、そうそう劣化することはありませんが、密閉しておくに越したことはありません。
残ったのは、学園長と、錬金術と魔法の教授が一人ずつ。錬金術の教授はゆっくりと息を吐き出しました。
「まさか……。ポーションどころか、エリクサーを作ってしまうとは思わなかったぞ、エリーゼ」
「私もです……。協力してくれる友達ができて、手伝ってくれました」
「いや、それでも、まさかエリクサーの調合に成功するとは……。たった一ヶ月でた。ポーションですらまともに調合できなかったのに、君というやつは……」
そこで気付きました。教授が泣いていることに。
教授にはたくさん心配をかけてしまいました。気苦労も多かったと思います。これで、少しは恩に報いることができたでしょうか。
「あの、学園長! これで退学はなしでしょうか!」
それが今日の試験の目的です。学園長に向き直ると、呆れたような顔をされました。
「お前は何を言っているのだ?」
「え……?」
「この件は王に報告せねばならん。エリクサーの調合に成功した君は、間違い無く国に召し抱えられることだろう。喜びたまえ、君の未来は輝かしいものに……」
「え、嫌です絶対に嫌です!」
思わずそう叫ぶと、学園長が首を傾げました。意味が分からない、とばかりに。
私は錬金術を学んでいますしそれを仕事にしたいと思っていますが、国に仕えたいわけではありません。むしろそれだけは絶対に嫌です。
だって、そうなると、もうあの大事な友達と会えなくなるような気がするから。クロちゃんたちとの縁を失いたくありません。一番の、友達だから。
「しかし……。もったいない。富も名声も思うがままだぞ? エリクサーとはそれほどのものなのだ」
「それでも、です……」
「ふむ……。しかし、このエリクサーを報告しないのも……」
学園長が悩んでいます。ここは、学園長の決断を信じるしかないでしょう。というより私ではもうどうすることもできそうにありません。
それよりも、私はもう一つの成果を見せたいと思います。
「あの、教授」
「む?」
お世話になった錬金術の教授を呼びます。教授はエリクサーをじっと見つめていましたが、私に視線を向けてくれました。
「これを見てください」
「なにかな?」
亜空間から取り出して教授に渡したのは、布製の小さな袋です。小夜さんは巾着袋みたい、と言っていました。
教授はその袋を見ていましたが、やがて大きく目を瞠りました。
「まさか……これは……!」
教授が自分の鞄を袋の入り口に持っていくと、鞄はあっという間に袋に吸い込まれてしまいました。学園長と魔法の教授も、唖然とした様子でそれを見ています。
教授が袋に手を突っ込んで引っ張ると、鞄が取り出されました。
「亜空間の魔法……!? これは、どうやって……」
「その袋に魔力で魔法陣を書き込んでいます。周りから少しずつ魔力を吸収することで亜空間の魔法を維持する仕組みです」
「これをエリーゼが作ったのか?」
「はい!」
頷くと、教授が唸りました。他のお二人も袋を手に取り、調べています。私の自信作なので、評価してもらえそうで嬉しいです。
火や水を出す魔道具はたくさんありますし、錬金術を学んだ魔法使いならわりと作ることは容易です。けれど亜空間の魔法のような高度な魔法を道具にする技術は、まだ確立されていません。
その技術を少しでも確立させられたら、と考えています。それが今の私のやりたいことです。
「エリーゼ」
口を開いたのは魔法の教授でした。
「魔法使いになりなさい。悪いことは言わない。君は魔法使いとして大成できる」
「え」
「何を言っている。この子は錬金術師だ。私の教え子だ。絶対にやらんぞ」
「え」
これは……どちらからも、すごく評価されていると思っていいんですよね? 二人の態度がなんだかちょっと怖くて、よく分かりませんが。
やがて学園長が大きなため息をついて言いました。
「エリーゼ。君の今後はよく考えて決めなさい。ただ、やはり王に報告することになる。だができるだけ君の要望が叶えられるように努力しよう」
「ありがとうございます!」
「まあ最悪、逃げられるかもしれないと言えば、在学ぐらいは許してくれるだろう」
「あ、はい」
なんだか学園長の顔つきもちょっと怖くなっています。大人ってそういうものなんでしょうか。
「ともかく、おめでとう、エリーゼ。君のような優秀な錬金術師を迎えられて、嬉しく思う」
そう言った学園長は、とても優しい笑顔でした。あの威圧感のあった人とは思えません。思わずそれを言ってしまうと、学園長は苦笑を浮かべました。
「平民だろうと、生徒を憎く思うわけがないだろう。君の将来を考えれば、別の方面の道を模索させた方がいいだろうと考えていただけだ」
つまりは、ただの演技。私はまんまと騙されていたわけで。
でも不愉快には思いませんでした。あれがなければ、きっとクロちゃんとも出会うことはなかったでしょうから。
「エリーゼは錬金術の生徒だ! 絶対にやらん!」
「優秀な魔法使いをみすみす見逃せるか!」
教授二人はまだ言い合っています。私と学園長は顔を見合わせ、思わず笑ってしまいました。
ちなみに。私の友達を紹介してほしいと言われましたが、絶対にだめだと言っておきました。あの子たちはそういうものに関わりたいと思わないでしょうから。
学園長は残念そうにしていましたが、納得はしてもらえました。
それから。王宮に呼ばれたり、錬金の魔女という妙な二つ名をもらって国の後ろ盾を得たり、錬金術と魔法の両方を学ぶことになってさらに忙しくなったりしてしまいましたが、とても有意義な毎日になっています。
そして、そんな毎日でも。
「こんにちは」
「あ、エリーゼちゃんいらっしゃい」
「ん……。エリーゼ。ようこそ。かんげい。おちゃ。おちゃ」
小さな魔女たちがたくさんいるあの不思議な場所には、毎日のように顔を出しています。
私にとって、とても、とっても大事な場所になったから。あの子の友達になれたことは、私の数少ない自慢の一つです。
壁|w・)富も名声も思いのまま。けれど友達が一番。
というわけで、エリーゼも加わりました。にぎやかにぎやか。




