ご新規さんいらっしゃい!
それからエリーゼちゃんの特訓が始まった。毎日夕方にクロがエリーゼちゃんの家を訪ね、エリクサーの調合を見守る。改善点があれば都度指摘するけど、練習あるのみ。材料が潤沢にあるからこそできる芸当だね。
私も毎日付き添ってる。最初は失敗ばかりだったけど、一週間もすれば成功することもでてきた。二週間もすれば、ほぼ成功するようになってる。心配する必要なんてなかったってことだ。
エリーゼちゃんは謙遜してるけど、やっぱりクロの魔法に選ばれるだけあって、錬金術の才能には恵まれていたんだと思う。
でも、エリーゼちゃんはそれだけで満足しなかった。
「あの学園長だから、エリクサーが調合できるだけだと納得しない気がするんです。材料を持ってるだけだろうって」
「さすがにそれは無能すぎるじゃろ。それとも、そういう人間か?」
「平民嫌いです」
「あー……」
ドラコちゃんの世界にも貴族とかはあるみたい。クロはよく分かってなかったみたいだけど、ドラコちゃんは納得したように苦笑していた。
「くらだんにもほどがあるのじゃ……。して、何をするのか決めておるのか?」
「はい。そのために、クロちゃんにお願いしたことがありまして……」
「ん?」
フラスコに入れたエリクサーを満足げに眺めるクロが首を傾げた。あの様子だと、話は聞いてなかったと思う。エリクサーが安定して作れるようになったことで、クロはもう自分の仕事は終わったと思ってるみたいだから。
でも頼られるのは嬉しいみたい。エリクサーを亜空間にしまって、エリーゼちゃんに向き直った。ちなみにエリクサーは材料を持ち込んだクロがもらうことになってる。
「クロちゃん。魔法を教えてください!」
「むり」
「即答!?」
「ぶはっ……!」
いや、すごいね。考える素振りもなく、即座に拒否してたよ。どれだけ嫌なんだ。ドラコちゃんとか腹を抱えて笑ってるし。
「あの……どうしても……?」
「おしえる。むり。はんにんまえ」
「クロちゃんで半人前なんですか!?」
「ん」
そうらしい。私から見ればいろんな魔法を使ってるように見えるけど、クロが言うには、そして師匠のリオちゃんやドラコちゃんが言うには、クロの魔法はまだまだ拙いらしい。
拙い技術を持ち前の魔力量でごまかしてる状態、なんだとか。
だから今もクロはリオちゃんから指導を受けてる。目指すは一人前、かな?
「れんきん。やりかただけ。まほう。ぎじゅつ。たいへん。くせ、だめ」
「えっと……」
「錬金はやり方を伝えるだけだから問題なかったけど、魔法は技術面が大変なもの。だから変なくせができちゃうとだめ、かな?」
「小夜さんすごいですね!?」
適当に繋げてそれっぽくすればいいだけだから、簡単だよ。多分。
ともかく、クロが教えると変なくせがあるかもしれないから、クロが教えるのは問題があるってことだと思う。じゃあどうするか、だけど。
「師匠。しょうかい。おうち、ごしょうたい……!」
あ、クロのテンションがちょっと高い。お友達をお家にお招きするってことで、わくわくしてるみたい。そういえばエリーゼちゃんはまだ私たちの家には来てなかったからね。
ふむ……。晩ご飯、ちょっと考えようか。
「小夜さん、お伺いしても大丈夫ですか? お邪魔になりません?」
「大丈夫大丈夫。むしろいつでも来ていいよ。私たちがいなくても勝手に入ってくれてていいから」
「ええ……」
不用心だと思われるかもしれないけど、それだけみんなを信頼してるってことだ。みんなを、というよりクロの魔法を、だけど。悪い人には繋がらないと思うから。
「いく。いこう。はやく」
クロがエリーゼちゃんの手を取って急かしてる。エリーゼちゃんは少し戸惑ってるみたいだったけど、意を決したように頷いた。
新規一名様ご案内、なんてね。
エリーゼちゃんを連れて、帰宅。転移してきた先は例のごとく裏庭だ。クロと手を繋いでるエリーゼちゃんは、びっくりしたように目を丸くしてきょろきょろと周囲を見回してる。
「すごい……。私の世界と全然違う……」
そう呟いて、でもすぐに顔をしかめた。
「なんだか……空気が変……」
「あはは……」
それは、申し訳ないというかなんというか……。ここもわりと都会の方だから、空気は汚いと思う。当然のように夜空に星は見えないし。
気を取り直して、家の中へご招待だ。クロに手を引かれるまま、エリーゼちゃんが中に入っていった。
「わ……! ここ、クロちゃんの工房ですか? すごく広いです……!」
「きっちん」
「キッチン!? ここが!? この広さで!?」
キッチンについては、私から見ても広いと思う。設備もクロの魔法でなかなかいいものが揃ってるけど、それでもスペースはかなりのものだ。キッチンとはちょっと思えないかもしれない。
そんなキッチンを通り過ぎて、次の部屋、大広間に入る。大広間にはリオちゃんとミリアちゃんがいて、ミリアちゃんが連れてきているラキをリオちゃんが撫で回していた。
「あ、クロちゃん! おかえり!」
「ん? ああ、おかえり。クロ。小夜」
「ただいま。師匠。おねがい。ある」
「なに?」
クロがエリーゼちゃんをリオちゃんの方に連れて行く。リオちゃんは小さく首を傾げ、エリーゼちゃんは頬を引きつらせていた。
「わかる……わかるぞエリーゼ……。あんな化け物が出てくるとは思わんじゃろうなあ……」
その言い方はリオちゃんに失礼だと思うけど、そう感じるものらしい。
エリーゼちゃんは小さく深呼吸をして、頭を下げた。
「初めまして。錬金術師のエリーゼと申します。ぶしつけなお願いですが、ぜひ魔法を教えてほしくて……えっと……」
これは、多分かなり緊張してると思う。言葉に詰まった結果、動きすらも止まってしまった。
緊張しすぎ、だね。そんなに気にしなくていいのに。魔法使いから見るとすごい子に見えるみたいだけど、リオちゃんもやっぱりすごく優しい良い子だから。
「魔法、教えてほしいの?」
「はい……。あの、だめ、ですよね……?」
「いいよ」
「いいんですか!?」
驚いたように顔を上げるエリーゼちゃん。リオちゃんは当然だと頷いて、
「クロが連れてきたなら、それだけで信用できる。まずは魔法を何に使うかを教えてほしい。そこから内容を考えるから」
「は、はい……!」
うん。これなら問題なさそうだ。それじゃ、私は晩ご飯の準備をしようかな。
その前に。
「へい。おばけこばけちゃん、おいで!」
「ばけばけ!」
「ぱけぱっけ!」
私が言うと、おばけとこばけがどこからともなく現れた。さすが幽霊、常識が通用しない現れ方だ。幽霊の時点で常識も何もないけど。
「人数分のジュースをよろしく」
おばけたちがかわいく敬礼をしてキッチンの方へと消えていった。
ふむ……。
「慣れって怖いなあ……」
「おぬしも大変じゃな……」
ほっといてください。
壁|w・)エリーゼちゃんがクロのお家にやってきました。




