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第7話 お義兄ちゃんは最強!~キングジョー軍団と愛しの義妹編~

「――というワケで、今日の放課後、さっそくコガネの水着を買いに行こう」




 朝食を手早く胃袋に収めた、その日の早朝。


 俺はここ数カ月で恒例となった、義妹との朝の通学を楽しみながら、そんな事を提案してみた。




「きゅ、急だね、お兄ちゃん?」

「善は急げって言うだろ? それに、実は俺、昔からの夢だったんだ」

「夢? なにが?」

「恋人と放課後デートするのが」

「ほ、放課後デート……」




 コガネも『放課後デート』という素敵ワードに、心惹かれているのだろう。


 俺と同じく、ぷっくり♪ と鼻の穴が膨らんでいた。




「あっ! でもボク、新しい水着を買うほどのお金なんて無いよ……?」

「そこは安心してくれ。お兄ちゃん、こういう日のために、死ぬほどバイトしてお金貯めてたから!」




 まさか去年の春からずっと貯めていた『いつか彼女が出来たら使おう!』資金を、こんなに早く火を噴くハメになるとは!


 彼女のため、ひいては愛する義妹のために散財出来る喜びに身を震わせながら、俺はコガネにサムズアップしていた。




「だから、お金の事は気にしないでくれ!」

「う~ん? でも、それだとお兄ちゃんへの負担が大きくないかな?」




 コガネが渋るような声音で、う~ん? と小首を傾げる。


 ここも計算通り。


 俺の愛する義妹のことだ。俺のことを気遣って、遠慮することがここ数カ月で嫌というほど理解している。


 なので、彼女が納得できる逃げ道を、ちゃ~んと用意してあるのだ!




「気になるならさ。今日のコガネの水着は、お兄ちゃんが選んでもい~い? ほら? お兄ちゃんのお金で買うんだからさ、お兄ちゃんが選ぶのが筋ってモンじゃないかな?」

「お兄ちゃんが? ボクの水着を選んでくれるの?」




 オフコースッ! と、爽やかに微笑みながら、




「とびきり可愛いの選ぶからさ! ……それでも、ダメか?」

「つまり、今日買う水着は、お兄ちゃんからのプレゼントってこと? ……うん。なら一緒に買いに行こう!」




 にぱっ! と笑う義妹に見られないように、俺は小さくガッツポーズをしてみせた。


 いいぞ、順調だ。


 計画は俺の思い描いた通り動いているぞ。


 俺は(よこしま)な想いが義妹にバレないように、にっちゃり♪ と口角を引き上げながら、




「よし、決まりだな! 今日の放課後は、コガネの水着を選びに、駅前でデートだな!」

「お兄ちゃんがどんな水着を選んでくれるか、ボク、楽しみにしてるね?」




 そう言って無邪気に微笑むコガネを前に、俺は心の中で返事をした。


 安心しろコガネ、マイハニー。


 もう買う水着は決まっているんだ。


 俺の脳裏に【例の水着】を着た可愛い恋人の姿が浮かび上がる。


 もうすぐコレが現実になるのかと思うと……ふふっ!


 オラ、わくわくすっぞ!


 そんな事を考えながら、いつも通り義妹と一緒に校門をくぐり、




「おはようございます、ジョーさん!」


「「「「おはようございます、ジョーさんっ!」」」」




 例の野太い野郎共の大合唱が、俺の身体を包み込んだ。


 ……マジでこの出迎え、やめて欲しいんだよなぁ。




「わぁ~。いつ見ても壮観(そうかん)だよねぇ、コレ」




 コガネが感心したように、校門の前に整列していた例のスキンヘッド軍団こと【キングジョー軍団】を見渡した。


 途端にスキンヘッド達は、今度はコガネの方に勢いよく頭を下げて、




「おはようございます、アネゴ!」


「「「「おはようございます、アネゴ!」」」」




 と、全力で我が義妹を出迎えたくれた。


 コガネもここ数カ月で、この【キングジョー式】朝の挨拶に慣れたのか、笑顔すら浮かべて、スキンヘッド達と挨拶を交わしていた。




「おはようございます、センパイ方。毎朝、精が出来ますね?」


「「「「ありがとうございますっ!」」」」




 ……うるせ。


 音量のボリュームが壊れているのか、みな元気いっぱいにお礼の言葉を口にする。


 その表情は、俺の義妹と会話出来たことに、満足気な表情をしていて……むぅ。




「おい、おまえら? 通行の邪魔だから、解散しろ。解散!」

「へいっ! テメェら、散れ! 散れぇぇぇぇ~~っ!」




 俺の一声に、クモの子を散らしたように、その場から姿を消すスキンヘッド達。


 そのスキンヘッド達の中から、1人だけガタイのいい男がニコニコ♪ 笑顔でコチラに近づいてくる。




「おはようございます、ジョーざん。アネゴッ! 今日も仲良く登校ですかい?」

「見ての通りだよ」

「おはようございます、トサケンさん!」




 ガタイのいいスキンヘッドこと、我が同級生トサケンが、子犬のように俺達兄妹にすり寄ってくる。うぜぇ……。


 まったく、空気の読めない男だな、コイツは?


 俺と義妹のゴールデンタイムを邪魔するんじゃないよっ!




「それにしても、いまだ信じられないですよ。ジョーさんに、こんな可愛い妹が出来るだなんて」

「か、可愛いだなんて……もうっ! トサケンさんは、口が上手いですね?」

「おい、トサケン? テメェ、ナニ人の妹を口説いてんだ? あぁん!?」

「――ッ!? い、いえっ!? ご、誤解ですジョーさん!? オレは事実を口にしただけで!?」




 ナチュラルに我が恋人を口説き始めるスキンヘッドに、俺は鋭い視線を向けた。


 俺の義妹をいやらしい目で見つめるヤツは、誰であろうとギルティだ。




「そ、そんな事よりもジョーさん!? 大変な事が起こりそうですよ?」

「そうだよ、これから大変な事になるよ? おまえの身体が」

「じょ、冗談キツイっすよ、ジョーさん? アハハッ!」

「アハハッ! バカだなぁ、おまえ? 俺がこの手の話で冗談を言った事があったかぁ?」




 トサケンの顔が真っ青になった。


 うむ、ちょっとスッキリしたし、病院送りは勘弁しておいてやろう。


 俺は拳をゆっくりと振りかぶ――ろうとしたが、ソレを遮るように、




「『大変な事』ってなんですか?」




 と、コガネがトサケンに助け船を出してしまった。


 トサケンは出動した救助艇(きゅうじょてい)に、一も二もなく飛びついて、




「それがですね、アネゴ? 実はここ数カ月、【乙女戦線】とかいう族がここら一帯を暴れまわっているんですよ」

「あっ、ソレ知ってる。実はウチのクラスでも話題になってるよ」

「そうなん?」




 俺がコガネに尋ねると、コガネは神妙そうな面持ちで「うん」と頷いた。




「ここ最近、この近くで恐喝(きょうかつ)やカツアゲを繰り返している人達で、ウチのクラスの子も、何人かカツアゲされたんだってさ」


「なにっ!? コガネは大丈夫だったのか!?」

「う、うん。ボクはほら? 毎日お兄ちゃんと一緒に居るから」

「そうかっ! よかったぁ~」




 とりあえず、コガネが被害を(こうむ)っていない事に安堵しつつ、小さく吐息をこぼした。




「しかし【乙女戦線】か……。小耳には挟んでいたが、そこまで酷いことになっていたとはなぁ……」

「どうします、ジョーさん?」




 そうだな、と適当に相槌(あいづち)を打ちながら、思考を巡らす。


 正直、放っておいてもよかったのだが、ウチの生徒に手を出したというのなら、話は変わってくる。


 いずれは我が可愛い妹に、ちょっかいをかけてくるかもしれないし、夏休みに入れば、もっと活発に活動を始めるかもしれない。


 なら、夏休みに入る前のこの時期に叩いておくのがベストだろう。




「流石に目に余る、か。よし、トサケンッ! ウチの者を何人か使って【乙女戦線】の情報を集めて来い。あとは俺が、キッチリ落とし前をつけてくるわ」


「了解ですっ! ……ただ、気を付けてください、ジョーさん? この件、どうやらクズ校の【セブン】と、連合の【ゼットン】が絡んできてるらしいですから」


「なに!? ソレを早く言わんかい」




 むむむっ?


 セブンとゼットンが絡んできてんのかぁ。


 という事は近い将来、あの2人のどちらかが戦線を叩き潰す可能性が高いな。


 なら、俺が無理に動く必要はないかな?


 なんて思考を加速させていると、



 ――くいくいっ!



 と、プリティー☆マイシスター・コガネちゃんに制服の裾を引っ張られた。




「お兄ちゃん? 【セブン】と【ゼットン】ってなに? あの特撮のヒーローと怪獣の?」

「あぁ違う、違う。『あだ名』だよ、あだ名。【セブン】と【ゼットン】は、ある2人の男を指す言葉なんだよ」




 トサケン、と俺が同級生の名前を呼ぶと『待ってました!』と言わんばかりに、スキンヘッドが嬉々として口を開いた。




七瀬(ななせ)七雄(ななお)――通称【セブン】。森実が誇る三大天(さんだいてん)が1人で、あの殺し屋『九頭竜高校』の頭を張っている男です」


「九頭竜高校って……全国から不良さんが集まる、あの?」

「はい。そこでジョーさんと同じく、1年次より頭を張っている男が【セブン】こと七瀬七雄です」




 トサケンはチラッ! と俺の方を見て、




「ジョーさんとは、浅からぬ因縁がある相手ですね」

「そうなんだ。お兄ちゃんと……」

「おい、トサケン? テメェ適当な事を妹に吹き込むんじゃねぇよ?」

「適当じゃないっすよぉ! 去年のクリスマスでのジョーさんとセブンのタイマン、自分シビレたんすから! あんな凄ぇタイマン見たのは、生まれて初めてっすよ!」




 フガフガっ! と、鼻息を荒くするトサケン。


 去年のクリスマス? と、小首を傾げるコガネを無視して、俺は無理やり話しを進めた。




「んな事よりも【ゼットン】の説明をしてやれ」


「あぁ、はいはい。【ゼットン】っすね。三大天が1人、【ゼットン】こと八木(やぎ)(かおる)は、森実高校と九頭竜高校を除いた、森実市内にある全高校が、この2校に対抗するために同盟を組んだ組織【クロサキ連合】の初代総長です」


「【クロサキ連合】……聞いたことある! 確か、お兄ちゃんに恐れを抱いた人たちが集まって出来た組織だよね?」




 コガネの問いに、トサケンは「ですですっ!」と、満足気に頷いた。




「ジョーさんこと【キングジョー】の圧倒的強さに恐れをなした八木薫たちが、ジョーさんに対抗するために作った組織です」


「ほへぇ~……。やっぱりお兄ちゃんって、凄かったんだぁ……」


「凄いなんてモノじゃないですよ、アネゴ! なんせジョーさんは、三大天の中でも最強を(うた)われる男なんですから!」


「トサケンさん。そのちょいちょい出てくる【三大天】って、なんですか?」




 きょとん? と小首を傾げる、マイシスター。


 可愛い。


 お持ち帰りしたい。


 俺が義妹の仕草に胸をキュンキュンッ♪ させている間に、トサケンが今度は【三大天】について語り始めた。




「【三大天】――このヤンキーの聖地、森実のトップに君臨する3人の男たちの総称です。壊し屋の【セブン】。鉄壁の【ゼットン】。そして喧嘩の王様【キングジョー】。この3人が絶妙なバランスで成り立っているからこそ、この森実はかろうじて平和を維持出来ていたんです。……が、そこに突然割って入ってきたのが」


「【乙女戦線】って人達なんですね?」




 そういうワケです、とトサケンは小さく首肯(しゅこう)した。




「森実の夏が平穏に過ぎた事はない……こりゃ今年も嵐がきますよ!」




 トサケンはどこか嬉しそうにそう言った。

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