第26話 妹だけど愛さえあれば関係ないよね!
義妹との禁断の関係が義母さんにバレて、数分後の金城家のリビングにて。
俺とコガネは隣り合うように座りながら、机を挟んでムッツリと押し黙った義母さんと、向かい合うように座っていた。
「さて、2人とも? お母さんに何か言う事はなぁ~い?」
「お兄ちゃんとチョメチョメ♥ して、すみませんでした!」
先手必勝ッ! とばかりに、コガネは勢いよく頭を机に擦りつけながら、義母さんに謝罪した。
その姿はまさに、ラブドールが新妻にバレたときの旦那そのものであり……なんて男らしいんだ、ウチの妹は!
愛する義妹の男らしい姿に、胸をキュンキュン♪ させていると、義母さんは「ハァ……」と、ちいさく溜め息を溢した。
「それはまぁ、もう別にいいわ」
「いいのっ!?」
ギョッ!? と目を見開くコガネ。
流石の俺も、義母さんのこの対応には度肝を抜かれたね!
なんか対応が投げやり過ぎじゃない、義母さん?
それとも、適応能力が高いだけなの?
もしかして義母さん、昔T●KIOのメンバーに居た?
「よくないよ!? 実の娘が、義理の兄とチョメチョメ♥ してたんだよ!? 母親なら、しっかり怒らないとダメだよ!?」
「じゃあコガネ? アンタ、お母さんが『お兄ちゃんと別れなさい』と言ったら、別れてくれるの!?」
「絶対ムリッ! 死んでもムリッ! ありえないっ! お兄ちゃんと別れる位なら、舌を噛んで死んでやる!」
「でしょうね。アンタ、変な所で頑固だし」
流石は母親。
娘の行動パターンはお見通しである。
コガネが「うぐぅっ!?」と、変なうめき声をあげながら、沈黙してしまう。
う~ん、やっぱり義母さんの方が1枚上手だったか。
そんな事を考えていると、義母さんの視線が、静観していた俺の姿を捉えた。
「それで? ゆぅ君は? 何か言うことある?」
「妹とチョメチョメ♥ して、すみませんでした!」
「絶対言うと思ったぁ~♪」
流石は義母さん。
俺の行動パターンなんて、お見通しか。
だが、まだだっ!
まだ俺のターンは終わってねぇ!
「でも待ってくれ、義母さん。妹とチョメチョメしてしまったのは謝る! でもっ! 俺の立場になって考えてみて欲しい!」
なにを? と、小首を傾げる義母さんに、俺はハッキリ言ってやった。
「ある日突然、こんな可愛い女の子が妹になったら、男として、いや兄として手を出してあげるのが、世間の常識的な風潮ない?」
「ないよ? エロ漫画の読み過ぎだから、ゆぅ君」
はい、説得は無理デ~ス☆
「可愛いなんて、そんなっ!?」と、腰をクネクネさせるコガネを無視して、義母さんは、
「それで?」
「そ、『それで』とは?」
「だから、いつから2人は付き合ってたの? 少なくとも、ここ数日からってワケじゃないでしょ?」
俺は素早くコガネとアイコンタクトを飛ばし、2人同時に頷いた。
「実は……」
「お義父さんとお兄ちゃんと、初めて顔合わせをする直前に……。ボクの方からお兄ちゃんに告白して、それで……」
「……なるほどね。合点がいったわ」
ハァッ、と義母さんは椅子の背もたれに身体を預けながら、ゆっくりと天井を仰いだ。
「通りでコガネが始めから、ゆぅ君に懐いている理由が分かったわ」
「……付き合っていたのを隠していたのは謝るよ、お母さん。でもっ! ボク、本気なんだ! 本気でお兄ちゃんの事が好きなんだよ!」
「ソレも知ってるわよ。アンタは隠しているつもりだったでしょうけどね、もう駄々洩れだったから。ねっ、お兄ちゃん?」
「えっ、うそっ!?」
「……ノーコメントで」
バッ! と、勢いよく視線を俺の方へ送るマイハニー。
そんなマイハニーの視線から逃げるように、俺はサッ! と顔を背けた。
いやまぁ、アレだけ家の中でベッタリ♥ していたら、バカでも気づくよね!
「まぁ、ソレはゆぅ君も同じだったけどね。ねっ、コガネ?」
「えっ、うそっ!? 駄々洩れだった、俺!?」
「……ノーコメントで」
サッ! と、俺から顔を背けるコガネ。
えっ、マジで!?
そんなにあからさまだった、俺!?
ちゃんと家に居るときは、細心の注意を払って、義母さんや親父にバレないようにイチャついていたつもりだったんだけど!?
今明かされる衝撃の真実に、俺が何も言えなくなっていると、
「まぁ、アンタら異常に仲が良いし、いつかはこういう日が来るんじゃないかなぁ? とは思ってたから、別にいいけどね」
「いいのっ!? 本当に!?」
義母さんの発言に目を剥くコガネ。
いや、気持ちは分かるよ?
さっきから義母さん、妙に軽いっていうか……。
コレ、一応、今後の金城家を行く末を決める会議じゃないの?
なんか『買い物行って来て☆』くらいのノリの軽さなんですけど?
「いいも、何も、兄妹とは言え義理なんだし、法律上『結婚』も出来るんだから、問題ないでしょ?」
「け、けっこん!?」
シュボッ!? と、瞬間湯沸かし器よろしく、一瞬で顔を真っ赤にして俯いてしまうコガネ。可愛い♪
俺は何も言えなくなってしまった義妹の代わりに、「なにカマトトぶってんのよ、この子は?」と、呆れた表情を浮かべる義母さんに質問をぶつけてみた。
「えっ? 結婚していいの、俺達?」
「だから法律上問題もないし、やりたきゃやればいいわよ?」
「いやでも? 義母さんが良くても、親父が何て言うか……」
「あぁ、そうか。ゆぅ君たちは知らないのか」
「???」
義母さんは『うっかり、うっかり♪』と言わんばかりに、コツンッ☆ と、軽く握った拳を頭にぶつけて、ペロ♪ と舌を出した。可愛くない……。
自分の歳を考えてくれ、義母さん。
キチィよ、色んな意味で……。
なんだコレは?
精神的虐待か?
「実はね? マコトさんとは、昨日の夜に、もうすでに話し合っていてね? 2人が本気なら、応援してあげよう! って、結論に達しました!」
「??? え~と? つまり?」
「つまり、ゆぅ君とコガネが本気なら、お母さん達は2人の仲を応援するって事」
瞬間、膨らんだ風船が割れるかのように、コガネが歓喜の咆哮をあげていた。
「YATTAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!」
「こら、コガネ! 急に大きな声を出すんじゃないの! ビックリするでしょ!?」
憤慨する義母さんをガン無視して、
――ガバッ!
と、俺に抱き着いて喜びを全身で表現する義妹。
コラコラ、コガネ?
近所迷惑でしょ?
まったく、その愛らしい唇を俺の唇で塞いでやろうかしらん?
「やったね、お兄ちゃん! お母さんとお義父さん公認だよ!? コレで何の心配もなく、イチャイチャ♥ 出来るね!」
「……そうだな」
「……あれ、お兄ちゃん?」
どうしたの? と、義妹の心配そうな瞳が俺を射抜く。
俺はそんな妹の視線に、曖昧な笑みを浮かべて返す事しか出来なかった。
「顔色悪いよ、お兄ちゃん? もしかして……嬉しくないの?」
「いや……嬉しいのは嬉しいんだけどさ? そのぅ……義母さん達は、本当にいいの?」
どこか試すような視線を義母さんに向けると、義母さんは『舐めるんじゃない!』と言わんばかりに、むふーっ! と鼻を鳴らした。
「マコトさんの言ってた通り、ここぞって場面は、自分の気持ちより、家族の気持ちを優先しちゃうのね、ゆぅ君は」
そう言って義母さんは、どこか叱るような口調で、ハッキリとこう言った。
「いい、ゆぅ君? こういう時はね、素直に喜べばいいの! 大丈夫、何があっても、ゆぅ君とコガネがお母さん達の大事な子どもなんだから」
にひっ♪ と、迷いなど微塵も感じない笑みで、そう言い切る義母さん。
……親父が何で義母さんと再婚したのか、分かった気がした。
そんな事を考えながら、俺は義母さんに頭を下げていた。
「ありがとう、義母さん。俺、コガネを幸せにしてみせるよ」
そう告げた時の義母さんとコガネの嬉しそうな顔を、俺は多分、一生忘れないと思った。




