第25話 義理の妹と付き合っている事がママンにバレたんですが、どうすればいいですか?
「なんかもう、今日はプールどころの騒ぎじゃなかったよね?」
「安心しろ、コガネッ! 次のデートこそは最高の思い出にしてみせる!」
「あっ、次があるんだ?」
「当たり前だ! なんせまだ、夏は始まったばかりだからな!」
ウハハハハッ! と、豪快に笑いながら、愛する義妹と一緒にアスファルトの上を歩いて行く。
時刻は午後8時少し過ぎ。
【乙女戦線】を壊滅させてから、軽く2時間くらいが経とうとしていた。
俺はマイハニーとゆっくり家路へ着きながら、ヘンテコなお月さまに見守られつつ、楽しく談笑していた。
「それにしても、早乙女さん、大丈夫かな? アレ、完璧に鼻の骨が折れてたように見えたけど……」
俺と早乙女のタイマンを、廃車の陰からずっと見守っていたコガネが、心配そうな声をあげた。
まったく、自分を誘拐しようとした奴らの心配までするなんて、なんて心の優しい妹なんだ?
前世はナイチンゲールだったに違いない。
「拳の感触的に、鼻と前歯3本ほど折れただろうけど、大丈夫、大丈夫! 後処理はセブンがするって言ってたし、アイツなら上手くやるだろ」
「そ、それは本当に大丈夫なの……?」
「大丈夫、大丈夫! それに何かあったとしても、因果応報。自業自得ってヤツだ。コガネが気に病む必要はねぇよ」
不安そうに俺を見上げる義妹の頭を、軽くぽむぽむっ! 叩いた。
途端にコガネの頭部から、ふわり♪ と甘い匂いが立ちのぼった。
チクショウ、イイ匂いするな?
結婚してやろうか、コイツ?
「ゼットンの妹ちゃんも無事だったし、問題ナシ!」
「いやほんと、モモカちゃんが無事で良かったよね?」
「ほんとソレな?」
いやはや、ゼットンとは去年何度かタイマンを張った事はあったが、今日ほどアイツが怖いと思った日はなかったよね!
マジで今日のアイツの強さは神懸かっていたよね!
正直、あの状態のアイツとタイマンを張ったら、勝てるかどうか分からんわ。
「モモカちゃんが無事だって分かったときのゼットンさん、すごく安心した顔をしてたね?」
「もしアレで妹ちゃんが無事じゃなかったら、一体どうなっていた事やら」
考えるだけでもゾっ!? とするぜ。
妹のピンチに戦闘力が跳ね上がるって、シスコン拗らせ過ぎだろ、アイツ?
ゼットンの意外な一面に盛り上がっていると、いつの間にやら我が家の前へと辿り着いてしまった。
「着いちゃったね、家……」
「着いちゃったな、家……」
2人してピタリッ! と、足を止めながら、何とも言えない表情で我が家を見上げる。
この敷地を跨げば、俺とコガネは、また義兄と義妹に戻ってしまう。
今日のデートが終わってしまう……。
2人とも、ソレが分かっているから、なかなか1歩目を踏み出せずにいた。
まだ、あと少しだけ、恋人のままでいたい。
「……少し散歩でもする、お兄ちゃん?」
「流石に時間も時間だし、義母さんが心配するから、やめとこうぜ?」
「そっか。そうだよね……」
コガネは大切な存在だが、家族も大切な存在なんだ。
だから、義母さんを心配させるワケにはいかない。
名残惜しいが、ここが潮時だ。
「帰るか、家」
「お兄ちゃん」
俺が敷地の中へと足を踏み入れようとした瞬間、
――グィッ!
と、コガネが俺のアロハシャツの裾を引っ張った。
振り返ると、そこには瞳を閉じて、唇を俺に向かって突き出す義妹の姿があった。
いくら鈍感な俺でも、流石に妹が何を求めているのか、すぐに分かった。
鈍いのはおティムティムの感度だけで十分だ。
「コガネ……」
「お兄ちゃん……」
俺は密に群がる蝶のように、ゆっくりと愛する義妹の方へと顔を近づけ――
――ガチャッ!
「そんな事だろうとは思ってたけどね」
「「ッ!?」」
瞬間、さも当たり前のように玄関から出て来た義母さんが、呆れたような溜め息を溢しながら、俺達を見つめていた。
……えっ!?
「か、義母さん!? なんで!?」
「お、お母さんっ!? こ、これは違っ!?」
「うるさい、うるさい。近所迷惑でしょ?」
抱き合ったまま、あばばばばっ!? 状態へ突入する我が子達を、片手で制する母上。
べ、ベリーCOOLッ!?
ベリーCOOLだよ、母上ぇ!?
COOL過ぎて、ちょっと怖いよ母上ぇぇっ!?
そのうちラジカセで会話しそうなくらいCOOLだよ、母上ぇぇぇっ!?
「とりあえず、キスし終えたら、2人共リビングへ来なさい」
ソレだけ言い残すと、義母さんは、
――バタンッ! スタスタスタ。
と、アッサリ扉を閉めてリビングへと引き返して行った。
や、ヤバいッ!?
義母さんに俺達の関係がバレた!?
「ど、どどどどっ!? どうしよう、お兄ちゃん!?」
「お、落ち着けコガネ! そ、素数を数えるんだ! え~と、バスト87・ウェスト57・ヒップ88のEカップ!」
「いやソレ、ボクのスリーサイズ!? なんで知っているの!?」
教えてないよね!? と、トチ狂う義妹をその場に、ハッ!? と我を取り戻す。
どうやら俺としたことが、あまりの展開に、らしくもなく慌てふためいていたらしい。
おそらく義母さんのあの様子からして、数日前から俺達の関係を疑って、罠を張っていたに違いない。
たぶん今日を上手く乗り切っていた所で、近い将来、俺達の関係はバレていただろう。
なんせ女性は、男の浮気を一瞬で看破する生得術式を持った、1点突破型の名探偵だって、ジッちゃんが言っていた。
……女性怖ぇ。
もう気軽に風俗とか行けないよ……いや行った事ないけどさ。
「ナニはともあれ、どうやら今日は長い1日になりそうだ」
ケロケロケロケロッ! と、一斉に鳴き始めたカエルの声が、俺には何だが終末を知らせる運命のラッパの音に聞こえて、しょうがなかった。




