第22話 ウチの妹は世界で1番カワイイ! ~八木家VS金城家~
波の出るプールから移動して5分後の売店前にて。
健全な姿となった俺は、義妹と合流して、何故か八木兄妹と一緒にテーブルを囲んでいた。
「――改めまして。八木薫の妹の、八木桃花です」
「あっ、これはご丁寧にありがとうございます。金城優の妹で、金城コガネです。えっと、高校1年生です」
「あっ、金城さん、ウチと同い年だったんだ? ウチも1年生なんだ」
「えっ、そうなの!? すごい美人だから、年上かと思っちゃったよ!?」
キャピキャピ♪ と、ガールズトークに花を咲かせる妹たち。
そんな彼女たちを横目に、俺はゼットンに静かに語りかけていた。
「なぁ、ゼットン? ほんとに彼女、おまえの妹なの? 美女と野獣じゃん?」
「おまえら兄妹に言われたくないわ。……って、そうか。おまえら、血は繋がってないんやったな」
ゼットンがつまらなそうに買ってきていた【たこ焼き】を、口に含んだ。
「正真正銘、桃花は血の繋がったワシの妹や」
「マジかよ……。おまえの妹、美人過ぎじゃね? 『読モ』でもやってんの、彼女?」
「おぉ、ジョーのくせに勘がええやないか」
「えっ!? マジで『読モ』やってんの、おまえの妹!?」
おうよ! と、【たこ焼き】を咀嚼しながら、小さく頷くアフロ頭。
俺がさらに言い募ろうとした矢先、我が愛する義妹が「あぁ~っ!?」と声をあげた。
「思い出した! 八木さんって、もしかして!? 今月号の月刊女性向けファッション誌『パンパン♪』で表紙を飾った、あの八木桃花さん!?」
「えっと……『あの八木桃花』は分からないけど、表紙は飾らせて貰ったよ?」
「うわぁぁぁぁっ!? ほ、本物だぁ~~~っ!? 本物の八木桃花さんだぁぁぁ~っ!?」
妹のテンションが、晩御飯にウナギが出て来たとき並みにハネ上がる。
「えっ? 有名人なの、彼女?」
「嘘でしょ、お兄ちゃん!? 『モモカ』を知らないの!?」
信じられない!? とばかりに、目を剥くマイハニー。
ふむ? 初めて見るタイプの喜び方だ。
また1つ、愛する義妹への造詣を深めてしまったぜ☆
心の中で、妹の新たな一面を知ることが出来た喜びに、身を震わせていると、コガネが厄介オタクのように口を開き始めた。
「あの大女優『八木優香』と大御所芸人『アケボノまんま』の実の娘で、子役時代には『色気のある演技をする幼児』で一躍有名になった『モモカ』を知らないの、お兄ちゃん!?」
「ちょっと待て? その流れでいくと、ゼットンてめぇ!? あの大女優の息子だったのか、おまえ!?」
「そうやで?」
知らんかったんか? と、逆に驚いた眼で見られてしまう。
いや、知らんわ。
おまえとは『そういう話』、一切してこなかったからさ。
話すとしたら、最近人気のセクシー女優についてくらいだろ?
「まぁワシは見ての通り素行不良やさかい、両親からは半分勘当されとるけどのぅ」
「そ、それはアニキが悪いワケじゃっ!?」
何故か妹ちゃんが焦ったように口を開いたが、ゼットンが片手でソレを制した。
どうやら、向こうの家庭もウチと同じらしく、ちょっと訳アリらしい。
コガネもその件について、持ち前の勘の良さで察知したらしく、場の流れを変えようと、ワザとらしく別の話題を切り出した。
「そ、それにしてもっ! 兄妹でプールだなんて、仲が良いんですね!?」
「それはお互い様じゃろうて」
ゼットンが茶化すように肩を竦めた。
かと思えば、急に我がラブリー☆マイシスターを下心たっぷりの瞳で見つめてきて……むっ!?
「確か、コガネちゃんやったっけ?」
「は、はい」
「お互い、ヤンチャな兄と妹を持つと、苦労するのう」
「そ、そんな事は……」
「そこで、どうや? 気苦労の多い兄と妹で、ちょっとお話がてら、一緒に遊バルサンッ!?」
「ば、ばるさんっ? えっ? どうしたんですか、ゼットンさん!?」
オロオロっ!? するコガネの目の前で、脇腹を押さえて悶絶するアフロ。
どうやらコガネの位置からじゃ、桃花殿の放ったリバーブローが見えなかったらしい。
いやぁ、凄いモノをみたね!
俺、満面の笑みでリバーブリーを放つ女子高生、初めて見たよ!
一体ゼットンの妹は、どんな特殊な訓練を積んでいるのだろうか?
「あらあら? 大丈夫、アニキ? やっぱり今朝飲んだ牛乳が腐っていたのね」
「も、桃花……キサマぁ!?」
「そうだ、金城さん! 親睦を深める意味で、ウチとちょっと遊ばない?」
恨めしそうに実の妹を見やるゼットンを無視して、八木さんは我がマイハニーの手を取り立ち上がった。
実の兄貴から可愛い女の子を引き離そうとする気マンマンである。
何となく感じていたが、この子、結構ブラコンだな?
気が合いそうだ。
「えっ、でも……」
「遊んで貰え、コガネ。お兄ちゃん、ここでもう少しゆっくりしとくから」
チラッ! と、困惑した表情で俺を見てくる義妹に、ヒラヒラと軽く手を振って応える。
コガネは少しだけ『ほっ』としたような表情を浮かべたが、それでもやはり俺が気になるのか、渋るような声をあげた。
「んん~、でもっ?」
「そうか、なら仕方がない。八木さん、俺が妹の代わりにちょっとそこまでランデブーしても――」
「――遊ぼう、八木さん。体力が尽きるまで、とことん遊び尽くそう」
「う、うん。きゅ、急にやる気になったね?」
ズンズンッ! と、八木さんと手を掴んで、ウォータースライダーの方へと大股で歩いて行くコガネ。
そんなシスターズの後ろ姿を、ゼットンはもの悲し気な瞳で見送っていた。
「あぁ、コガネちゃんっ!? ……ちくしょう、桃花の奴!? 兄の恋路を邪魔するとは、妹の風上にも置けん奴め!」
ギリギリッ! と奥歯を噛みしめながら、悔しそうにそう呟くゼットン。
俺はもう2度と、コガネとコイツを2人っきりで会わせないことを、魂に誓った。
「さて、妹達が帰ってくるまで、俺らはナニするよ? 流れるプールの方にでも行くか?」
「ふざけんな? 何が悲しゅうて男とプールで遊ばにゃならんのじゃ?」
「それもそうだ」
珍しく意見が一致した俺達は、特に何かをするでもなく、妹たちが帰って来るのを、ボケーと待ち続けた。




