第1話 俺は完璧で究極なアイドル(ヤンキー限定)
爽やかな春の風が、頬を撫でる4月中旬。
俺、金城優が、この県立森実高校に入学して、2度目の春がやって来た。
照りつける太陽と春風が、俺の身体を磨くべく、びゅうびゅう! と、情け容赦なく駆け抜けていく。
果たして俺は、この学校でどんな物語を紡いでいくのだろうか?
「あっ、ジョーさんが来た! ――全員せいれぇぇぇぇぇぇつ!」
「「「「オッス!」」」」
期待と不安を胸に、高校生活2年目の運勢を決める、大切な第1歩は、
「おはようございます、ジョーさん!」
「「「「おはようございます、ジョーさんっ!」」」」
――登校と同時に、灰色に染め上げられていた。
「……俺が求めていた学園生活と違う」
ツツーッ! と、俺の頬に一筋の涙が迸る。
ソレを見て、周りの野郎共が一斉に沸き上がった。
「見ろ! ジョーさんが喜びのあまり、涙をお流しになられているぞ!」
「よし、テメェら! もう1度挨拶だ!」
「「「「おはようございます、ジョーさんっ!」」」」
校門の前に整列していたスキンヘッド達が、再びデカい声で俺に向かって頭を下げる。
その瞳は、俺のことを崇拝している信者と同じ目をしていて……チクショウ!?
これが全員、俺の事が大好きで仕方のない美少女なら、俺もハーレムラノベ主人公らしく、膨らませるところを膨らませているというのに……ふぁっく。
「毎朝、毎朝うるせぇな!? なんだ、おまえら? 佐々木ア●メーション学院声優科か!?」
「おはざっす、ジョーさん! キングジョー軍団、今日も全員そろってます!」
周りの生徒たちよりも一回り身長のデカい同級生……土佐健太郎こと【トサケン】が一際デカイ声を張り上げて、俺の傍まで駆け寄って来る。
その顔は恋する乙女のようにキラキラしていて……正直、直視に堪えない。
「声デッカ……。おい、トサケン? 毎朝、毎朝、コレ止めろって言ったろ?」
「そ、そんなぁ!? これやらないと、オレたちの1日は始まらないっすよぉ~っ!?」
トサケンが、泣きそうな声をあげ、プリティに瞳を潤ませた。
そのあまりのプリティさに、首だけ抱きしめてやろうかと思った。
「おはようございます、ジョーさん! 今日もそのスキンヘッド、最高にキマッてますね!」
「バッカ、おまえ!? ジョーさんはいつだってキマッてんだろうが!?」
「じ、ジョーさん! きょ、今日も究極にカッコいいっす!」
「……おう、あんがと」
俺の近くで頭を下げている野郎共が、アイドルでも応援するかのように、黄色い声援を送って来る。
これでも『良からず』と呼ばれる、不良の皆さんである。
「まったく。毎朝、毎朝、よくもまぁ飽きずにやるもんだ」
朝の校門に並んでいた不良共が、一斉に俺に向かって頭を下げる光景に、呆れるよりも先に溜め息が出てしまう。
規則を守らないハズの不良どもが、不思議なくらい規則正しく整列している光景に、思わず脳が混乱してしまう。
「天下に轟く森実高校の頭を出迎えられる、こんな幸せな事は他にないっすからね!」
「それが【西日本最強の男】と呼ばれているジョーさんなら、なおさらです!」
「オレ、ジョーさんのためなら、何でも出来るっすよ!」
スキンヘッド達が満面の笑みで俺を見てくる。
相変わらず、凄い熱気だなぁ。
……中学から数えて、もうかれこれ5年近くはこの光景を見ているが、一向に慣れる気配がないや。
「相変わらず、舎弟にモテモテですね、ジョーさん?」
「……男にモテたところで、嬉しくも何ともねぇんだよなぁ」
そう、どういうワケか、俺は昔から男によくモテた。
何故かは知らんが、超モテた。
なんなら貞操の危険を感じるくらい、滅茶苦茶モテた。
「チクショウ……、本当なら今頃、ガールフレンドを作って青春を謳歌していたハズなのに……。どうしてこうなった?」
いや、そもそも。
そもそもの話だ。
「おい、トサケン? 一応言っておくが、俺はこの学校の頭じゃねぇぞ?」
「ご謙遜を! 入学1週間で、全学年全クラスを腕っぷしだけで纏め上げた喧嘩の大天才が、何をおっしゃりますか!」
「アレはテメェらが勝手に喧嘩を売ってきたから、しょうがなく買ってたんだよ」
正当防衛だ! と、当然の権利を主張するのだが、トサケンは聞く耳をもってくれない。
どう言い繕うが、俺がトップだと信じて疑っていない。
俺がさらに言葉を重ねようとして、
「キングジョーッ!!」
――ビリビリッ!
と、男の怒声が、森実高校の校舎を震わせた。
「んっ、なんだ?」
「ジョーさん、アレ見てください! アレ!」
「アレ?」
トサケンに言われて、背後に振り返る。
ウチの校門前、そこには、真っ黒な革ジャンを着込んだ3人組の男が、俺を睨みつけながら、ズンズンッ! と大股で近寄って来ている姿があった。
その雰囲気は、新作AVを吟味する俺の父親のように真剣で……あぁ。
「またか……」
今日で何日連続だ? と、心の中でため息を溢しながら、革ジャンの野郎共と向き合った。
「待ってたぜ、キングジョーっ!」
「西日本最強の看板、今日で降ろして貰うぜ?」
「……またカチコミかよ」
「あぁんっ!? 誰だ、テメェら!?」
ノリ気でない俺の代わりに、血の気の多い狂犬こと、トサケン同級生が、革ジャン野郎共に嚙みついた。
瞬間、革ジャン3人衆の1人が『よくぞ聞いてくれた!』とばかりに、喜々として声を張り上げた。
「オレ達は『乙女戦線』総長、早乙女乙女さまよりつかわされた、森実が誇るケルベロス3兄弟だっ!」
「ケルベロス……ハッ!? 気を付けてください、ジョーさん! こいつら、今、巷を騒がせている喧嘩3兄弟ですよ!?」
「その通り!」
先頭に立っていた革ジャンの男が、懐から何かを取り出して、手に嵌めた。
アレは……メリケンサック?
「三途の運賃代わりに教えてやる。俺の名は中島っ! ケルベロス3兄弟の長男にして、パンチ力では右に出る者はいない。人呼んで『森実が誇る重戦車』――ラッシュ中島っ!」
ニヒルに笑う中島くん。
「そして俺が、メリケン二刀流で5人を病院送りにした、ケルベロス3兄弟の次男。歩く人間核弾頭――バニラミントの義春っ!」
名前が可愛い……。
「そして俺が、ケルベロス3兄弟の三男にして『乙女戦線』最強のハードパンチャー……ラッシュ中島だぁっ!」
それさっき聞いた。
「うるせぇなぁ……。朝8時のテンションじゃねぇだろ? ……ハァ」
とりあえず、売れない芸人3兄弟はトサケンに任せて、俺はさっさと教室に行こう。
「おい、トサケン? あとは任せたぞ」
「へいっ! ――おい、おまえらぁっ!」
「「「「「へいっ!」」」」」
トサケンの声を合図に、俺を出迎えていたウチの不良ども30人が、どこに仕舞っていたのか、角材やら鉄パイプやらを構えだす。
……みんな、どこに隠してたのさ、ソレ?
「ふんっ! 雑魚には用はないね!」
30人分の殺気をぶつけられても、笑みを崩さないラッシュ中島くん。
中島くんは、コソコソと隠れるように校舎の中へ消えようとしていた、ウチの1人の女子生徒を捕まえると、30人近い不良どもに向けて、ニタァ♪ と笑った。
「うひゃっ!?」
「動くなっ! 動けば、この女がどうなるか……分か――」
――瞬間、ラッシュ中島の顎に、俺の拳がめり込んだ。
「ぶべらぁっ!?」
「「あ、兄者ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」
点火されたロケット花火のように、垂直にお空へ飛んで行く、ラッシュ中島。
ソレを見て、ウチの連中が「おぉ~っ!」と歓声をあげた。
「でたぁぁぁぁぁっ! ジョーさんの得意技、一撃必殺技の『キング・アッパー』だぁぁぁっ!」
「漫画なら見開き確定の大技だぜ!」
「相変わらず、何度見てもジョーさんの拳は凄まじいな!」
「あぁっ! あの物理法則を無視しているとしか思えない突き……やっぱりジョーさんが最強だ!」
好き勝手言いやがる……ったく。
心の中でため息を溢しつつ、革ジャンに捕まれていた女子生徒を奪い返す。
「レディーの扱いがなってねぇぞ、坊? 大丈夫ですかい、お嬢さん?」
「は、はいっ!」
「そりゃ良かった。ほら、ここは危ないから、もう行きんしゃい?」
「あ、ありがとうございますっ!」
ペコペコと頭を下げながら、校舎の中へと消えて行く。
その後ろ姿を眺めていると、バニラミントの義春が青い顔で「お、おまえ!?」と、声を震わせた。
「ま、まだ兄者が喋っている途中でしょうが! じょ、常識は無いのか!? 常識は!?」
「そ、そうだ、そうだ! 戦隊モノでも名乗っている最中は攻撃しちゃいけないルールを知らないのか!?」
「常識? ルール? ハッ! バカか、おまえら? 喧嘩に『常識』も『ルール』もあるワケねぇだろうがっ!」
チャンチャラおかしい事を口走るバニラミントと、ラッシュ中島(三男)。
態度は強気だが、腰は完全に引けていた。
ぶっちゃけこれ以上は『弱いモノいじめ』になりそうで嫌だったが、コレから先、また絡まれると厄介なので、ここは心を鬼にして【お仕置き】しなければなるまい。
「一応礼儀だし、名乗っておこうか」
無理やり顔に笑みを張り付けた途端、バニラミントとラッシュ中島(三男)の足が、可哀そうなくらいガクガクッ!? と震えだした。
……そこまで怖かったかな、俺?
内心かなりショックを受けながらも、俺は礼儀として、ケルベロス3兄弟に名を告げた。
「森実高校2年、金城優。――喧嘩最強の【キングジョー】だ」
ブックマークとポイント評価、ありがとうございます!
もう薄々感づいている方々も居たので、ご報告させていただきますと、実は本作は腐れ作者が書いた
《俺のことが好き過ぎて、『女神』と呼ばれている学校1の美人姉妹が【ヤンデレ】化しました!?》(https://ncode.syosetu.com/n5477hz/)
の10年後の世界のお話です!
もし興味があれば前作を読んでみてくれると嬉しいです!