第13話 義妹と一緒に、お風呂に入ってみた! ~オカン発覚編~
【乙女戦線】から宣戦布告を受けた、その日の夜。
俺はゆったりと湯舟に浸かりながら、今日1日の疲れをお湯と一緒に流していた。
「あぁ~。びばのん♪」
「お兄ちゃ~ん? お湯加減、どう?」
脱衣所から愛する義妹のエンジェル☆ボイスが、風呂場の中で反響する。
俺は何故か『するする♪』と聞こえる衣擦れの音を気にすることなく、夢見心地のままコガネに返事をした。
「お~う、最高だぁ~。最高の湯加減だぁ~♪」
「そっか。――じゃあ、ボクも一緒に入ってもいい?」
「おう。入れ、入れ~♪」
……うん?
あれ?
今、アイツ、なんて言った?
「やたっ! それじゃ、失礼しまぁ~す♪」
コガネの嬉しそうな声音と共に、
――ガラっ!
と、風呂場と脱衣所をしきる扉が開いた。……って、ちょっ!?
「ま、待て待てコガネッ!? 流石に混浴はマズイっ!?」
ただでさえ暴走しがちな俺の小指の先ほどもない理性が、消し飛んじゃう!
消し飛んじゃうから!?
もちろんウチの可愛いお姫様は、そんな言葉程度では止まるハズもなく、そのピチピチのナイスバディを惜しげもなく俺の前に晒し――
「――って、あれ?」
「じゃ~んっ! どう、お兄ちゃん? 似合ってる?」
そう言って、風呂場へ突貫してきた義妹の姿は、スッポンポンではなく、今日買った赤色のビキニがその豊満な身体を守っていた。
「??? どうしたの? そんな呆けた顔をして? ……もしかして、この水着、似合ってなかった?」
「いや……水着は超似合ってる。けど……」
「けど?」
「てっきり全裸で一緒に入るのかと……」
「んなっ!?」
ボっ! と、コガネの頬が、ビキニに負けないくらい真っ赤になった。
「そ、そんなワケないよ!? い、いくらボクでも、こ、こ、こんな明るい場所でその……裸なんて見せられないよ!」
そう言って、頬を赤らめるコガネは、世界で1番カワイイと思った。
◇◇
「あぁ~♪ やっぱり夏でも、お風呂は湯舟に限るねぇ~」
「だなぁ」
はふぅ~♪ と、兄妹の2人して満足気な吐息が、風呂場に反響する。
血は繋がってはいないが、兄弟仲良く一緒に湯舟に浸かりながら、ノンビリしたひと時を過ぎしていた。
「そう言えば、親父たちは?」
「リビングでお母さんとイチャついてたよ?」
「仲がよろしい事で」
「ねぇ~?」
ちゃぽんっ! と、コガネの顎から滴り落ちた水滴が、湯舟に落ちる。
ふむ? 現役女子高生のダシが染み出たお風呂か……。
ペットボトル版売したら、1本1万円で売れそうだな。
俺がビック☆ビジネスの予感に心を震わせていると、コガネが「むぅ~っ! お兄ちゃん」と声をあげた。
「どうした、妹よ?」
「もっとボクを見て」
そう言って、俺の対面に座るコガネが唇を尖らせた。
途端に、湯舟に浮いている義妹の2つの果実が、ぷるぷる♪ と左右に揺れて……ほほぅ?
「お、おっぱいじゃなくて、ボクの水着を見てよ!」
「おっと失敬」
恥ずかしくなったのか、コガネが胸の前で腕を組んだ。
そのせいで、胸の谷間が凄いことになり……うん。
「俺、コガネが妹で良かった」
「そんなシミジミ言わなくても……」
コガネが苦笑しつつも、どこか嬉しそうだった。
自分でも分かるのだが、ここ数カ月で、俺はかなりシスコンになってしまった。
「まったく、俺がシスコンを拗らせているのは、間違いなくコガネが原因だぞ? この魔性の妹め!」
「……嫌だった?」
「全然?」
「えへへ♪ じゃあ、もっとシスコンを拗らせてあげるね!」
そう言って、パシャッ! と、俺の顔に軽く水をぶっかける妹。
「おっ、やったなぁ~? お兄ちゃんにぶっかけるとは、いい度胸だ。ぶっかけるのはお兄ちゃんの方なのにっ!」
「最低のダブルミーニング!? うわっ!?」
ぴゅ~♪ と、両手で作った水鉄砲で、愛する妹のプリティフェイスを狙い撃つ。
すると、コガネの方も負けじとパシャパシャッ! 俺の方へ水をぶっかけてくる。
世間じゃ毎日冷戦状態の兄妹が多い中、ウチの妹は、とことんまでノリのいい妹だった。
しばらく2人してバシャバシャッ! やり合っていると、
「ゆぅく~ん? 騒がしいけど、何かあったぁ~?」
「ゲッ!? か、義母さん!?」
(や、ヤバ!? お母さんだ!?)
少々騒ぎ過ぎたらしい。
リビングで親父とイチャついていたハズの義母さんが、脱衣所から声をかけてきた。
やっべ!?
こんな場面見られたら、人生終わる!?
「な、何でもねぇよっ! ちょっと『黒歴史』思い出して悶えていただけだから!」
「あぁ~、あるある。若気の至りってヤツよねぇ~」
脱衣所の方で、義母さんが「うんうん」と同意してくれるのが分かった。
そのまま、何故か脱衣所を出て行こうとせず、
「あっ、そうそう! さっきね、マコトさんと話し合ったんだけどね? 7月の終盤から8月の頭にかけて、みんなで家族旅行にでも行かない? マコトさん、長めの休暇を貰えたらしいの! どうかな、ゆぅ君?」
アカン、お喋りモードに突入してやがる!?
完全に居座る気だ!
「う、う~ん? そうだなぁ~」
俺はバックン! バックン! と高鳴る心臓を無理やり押さえつけながら、声が上ずらないように、最新の注意を心掛けながら、
「お、俺は家族旅行に賛成かな。楽しそうだし」
「ほんと? よかったぁ~! ゆぅ君が同意してくれて、お母さん嬉しいわ」
声を弾ませる義母さん。
義母さん、ゴメン……。
喜んでいるところ申し訳ないが、はやく出て行ってくだせぇ!
見ると、コガネも同じ気持ちだったのか、口元を手で押さえて、擦りガラス越しに義母さんを睨んでいた。
「ところで、ゆぅ君? コガネ見なかった? あの子、部屋にも居なくて……どこ行っちゃったのかしら?」
「さ、さぁ? コンビニでも行ったんじゃね?」
ビクッ!? と震えるコガネを横目に、いかにも親子らしい日常会話を繰り広げる俺達。
なんだろう?
この扉越しで間男と交尾をしている新妻のような緊張感は?
ちょっと興奮する。
俺が新しい性癖の扉をノックしかけていると「あら?」と、義母さんが不思議そうな声をあげた。
「こんな所に、あの子の寝間着と下着が……」
「――ッ!?」
ビクビクッ!? と、コガネの身体が激しく震えたのが分かった。
「……ねぇ、ゆぅ君? もしかして何だけど――湯舟にコガネ居ない?」
デンジャーッ!? デンジャーッ!?
俺とコガネは間髪入れずに、お互いの顔を見合わせた。
コガネの顔色は、今にもぶっ倒れそうなくらい真っ青で……くっ!?
ここはお兄ちゃんである俺が、一肌脱ぐしかない!
「居ないよ?」
「本当に? じゃあ、なんであの子の寝間着がココに?」
「ソレは今晩の俺の夜のオカズ用だよ」
俺は義理の母親にナニを言っているのだろうか?
「……ゆぅ君?」
「ごめんなさい……」
「んっ。素直でよろしい」
義母さんは満足気に頷くと、確信を持った声音で。
「2人とも? お風呂から上がったら、リビングに来なさい?」
と言って、脱衣所を後にした。
アカン。
バレて~ら♪
「ど、どどどどどっ!? どうしよう、お兄ちゃん!?」
地蔵のように固まっていた義妹が、慌てた様子で俺に詰め寄ってきた。
う~ん。慌てる姿もカワイイなぁ~♪
「落ち着け、コガネ。そう慌てなくても大丈夫だ」
「えっ? な、なんで?」
『なんで?』って、そりゃおまえ――
「――兄貴なら普通、妹とお風呂に入るだろ? 常識的に考えて?」
「おかしいよ! お兄ちゃんのその思考はおかしいよ!? ボク達もう、いい歳した高校生だよ!? 幼稚園児とかじゃないんだよ!?」
コガネが血相を変えてそう叫ぶが、知ったこっちゃないね!
「いいかコガネ?『常識』って言うのはな、為政者どもが勝手に作った、ソイツらにとって都合のいいルールに過ぎないんだ」
そんな他者の決めたルールで、シスコン歴3カ月の俺の歩みを止められると思ったか?
答えは否っ!
断じて否っ!
親愛なる妹とお風呂に入るのに、何を後ろめたい事があろうか!
「だから、俺達は悪くない。社会が悪い!」
「な、なるほどっ! ……あれ? もしかしてボク、今、洗脳されてる?」
そう、俺達は間違っていない!
社会が間違っているんだ!
「妹とお風呂は、余裕でセーフだ。だから堂々と、リビングへ行くぞ」
そう言って、俺は湯舟から腰を上げたのであった。




