第11話 喧嘩の王様キングジョー、喧嘩を売られる。~三大天、大集合編~
前回までのあらすじ!
義妹のエッチな水着を買ってほくほく♪ 顔の俺の前に、【乙女戦線】と名乗る30人の男女が現れた!
ぶっちゃけ、はやく帰って義妹とイチャイチャ♪ したい!
どうする、俺!?
「そう警戒しなくても大丈夫よ、キングジョー。アタシが合図を出さない限り、ウチの兵隊はアンタたちを襲わないわ。……そう、アタシが合図を出さない限りは、ね?」
そう言って、黒い革ジャンを着込んだ赤髪の少女――早乙女乙女は、不敵に微笑んだ。
その瞳は肉食獣を彷彿とさせるほど、ギラギラ輝いていて……あっ、ヤバい。
コイツ、俺をここで仕留める気だ。
俺はチラッ! と、抱きかかえている義妹に視線を移した。
どうしようかな?
俺の可愛いコガネちゃんに、バイオレンスな場面は出来るだけ見せたくないんだが……う~む?
「おい、そこの……早乙女だっけ? タイマンならいつでも受けてやっからさ、今日の所はもう帰らせてくれ。このあと大事な用があるんだよ」
義妹とイチャつくという、とても大切な用がね!
「ダメね。キングジョー、アンタ、自分の立場ってモン、分かってる? よくもまぁ、そんな絶体絶命の状況で、そんな軽口が叩けるもんだわ」
流石は三大天の1人と言ったところかしらね。
と、何故か早乙女の中で、俺の株が上がった。
嬉しくない……。
はやく帰りたい……。
「お兄ちゃん……この人達が朝、トサケンさんが言っていた?」
「多分な。さ~て、どうしたモノやら」
う~ん? と、俺が頭を悩ませていると。
「――おいおい? 【乙女戦線】とかいう小魚を追いかけていたら、とんでもねぇ大物と居るじゃねぇか」
「……ゲッ!? この声は!?」
背後から聞き慣れた、というか慣らされた男の声が、俺の耳朶を叩いた。
俺は嫌な予感に背筋を震わせながら、ゆっくりと背後へ振り返ると……そこには予想通りの人物が獰猛な笑みを浮かべて、立っていた。
「せ、セブン……なんでテメェがここに居る?」
「久しぶりだな、キングジョー。半年ぶりくらいか? 相変わらず特権階級に生まれた磯野カ●オみてぇな顔をしてんなぁ、おまえ?」
そう言って【乙女戦線】の包囲網を突き破って、ツカツカと歩いて来たオールバックの男は、やたら俺を敵視して突っかかって来るイケメン、七瀬七雄だった。
また面倒なヤツが増えちゃったよ……。
「こ、殺し屋【九頭竜高校】の頭、七瀬七雄だ!?」
「な、なんで【壊し屋】がこんなところに!?」
ざわざわっ!? と騒ぎ出す戦線メンバー。
そんな戦線メンバーの声を切り裂くように、今度は真正面から野太い男の声が響いてきた。
「なんや、なんや? 珍しい顔ぶれが揃っとるやんけ。同窓会でもするんか?」
「――ッ!? や、八木薫だ! 【クロサキ連合】総長の八木薫だ!?」
「う、嘘だろ!? 【壊し屋】だけじゃなく【鉄壁】まで!?」
「さ、三大天が揃いやがった!?」
慄く戦線メンバーを無視して、相変わらず便所サンダルにアフロと、狂った出で立ちをした【ゼットン】が、のほほん♪ とした顔でコチラへと歩いて来た。
なんでコイツまで居るんだよ……?
「よぉ、ジョー。久しぶり。なんでセブンと一緒に居るんや? おまえら、そんなに仲良かったかいのぅ?」
「ゼットン……何でおまえまでココに居るワケ?」
「いやぁ、噂のジョーの妹を一目見ておこうかと思って。あっ、その子が妹? へぇ~、可愛い妹ちゃんじゃ! ワシ、黒崎工業高校2年の八木薫や。気軽に『ヤギちゃん♪』って呼んでぇ~や♪」
「あ、ありがとうございます……。えっと、金城コガネです。森実高校の1年生です……」
「おっほっほっ! めんこいっ! めんこいのぅ! どうじゃ? このあと、ワシと一緒に茶店でも――」
「おい、陰毛頭!? テメェなに人の妹を口説いてんだ!? はっ倒すぞ!?」
挨拶しただけやんけぇ~? と、軽く肩を竦める陰毛の擬人化。
そんな変態プレイボーイ擬きから、愛する義妹を隠すように、さらに強めに抱きしめる。
まったく、油断も隙もないアフロだ!
「なんだ? その別嬪ちゃん、キングジョーの妹か? へぇ~……似てねぇな」
「なんだよセブン? 文句あっかよ?」
ガルルルルッ! と、イケメンに威嚇する俺を「や、やめなよ、お兄ちゃん!?」と、止めに入るコガネたん。
えぇい、止めるなコガネ!
俺の妹をいやらしい目で見る輩は、今ここでデストロイしなければならんのじゃっ!
俺は確固たる決意を持って、イケメンの顔面を整形しようと拳を握り、
「アッハッハッハッハッ! こりゃどういう事だぁ?」
「「「あぁん?」」」
突然爆笑し始めた早乙女に、毒気を抜かれてしまった。
早乙女は、値踏みでもするかのように、俺とセブン、そしてゼットンをネットリと見渡し、いきなり拍手をし始めた。
「この町の顔役4人が、一斉に1つの場所に集まるなんて。世の中、やっぱり面白いわ!」
「なんや、この狂った女は? おまえらの知り合いか?」
「いや、今日はじめて会ったわ」
「アイツはここ最近、九頭竜高校とクロサキ連合ん所のシマを荒らしている元凶だ」
セブンがそう口にした瞬間、ゼットンの瞳が鋭くなった。
「なに? なら、あの奴さんが乙女戦線の?」
「あぁ、総長だ」
「そう怖い顔するんじゃないわよ。焦らなくても、近い将来、アタシ達はドンパチする運命にあるんだから」
そう言って、早乙女はこの場に居る全員に宣誓するかのように、ハッキリとこう言った。
「【三大天】の時代は終わった! 今日からアタシ達4人は、この森実の頂点に君臨する【四天王】よ!」
瞬間、俺達の周りを囲っていた戦線メンバーが「うぉぉぉぉぉっ!」と、猿のような雄叫びをあげた。うるせ……。
わわっ!? と、驚く義妹の頭を『大丈夫だよぉ~♪』という意味をこめて撫でていると、ゼットンとセブンが呆れたような溜め息を溢していた。
「頂点とはまた、大きく出たのぅ小娘?」
「オレ達と肩を並べるには、役不足だ。出直して来い」
「役不足……ね? 果たして『ソレ』はどっちかしらね?」
なに? と、眉をひそめるセブンを前に、早乙女は唇の端を邪悪に歪ませて、こう言った。
「【三大天】なんて呼ばれてはいるが、実質この町で最強なのはキングジョーただ1人。アンタらは、そのおこぼれを貰っているだけの雑魚に過ぎないでしょ?」
「ほほぅ? 言ってくれるのぅ小娘?」
「……口だけは達者なようだな。」
ぶわっ!?
と、ゼットンとセブンの身体から、禍々しいまでの殺気が溢れ出る。
おい?
やるならココじゃない所でやれ?
俺の可愛いマイハニーが怯えてるだろうが?
「あら、口だけじゃないわよ? 証明してあげようか?」
早乙女は、2人の殺気を器用に受け流しながら、何故か俺の方をまっすぐ見てきた。
うん?
俺?
「キングジョー。アンタはこの1週間以内に、アタシの前に膝を折ることになるわ」
「おいおい、小娘? ジョーに喧嘩を売る気か?」
「悪い事は言わん。止めとけ。おまえじゃ相手にもならん」
「いいえ。そんな事はないわ。だって――」
早乙女は、どこまでも獰猛な笑みを顔に貼り付け。
「キングジョー……アンタには決定的な弱点がある!」
と言った。
……どうでもいいけど、もう帰っていいかな?
「なんやと?」
「キングジョーの弱点だと……?」
「えぇっ。しかも、ソレは今日2つに増えたわ」
自信満々にそう口にする早乙女に、ゼットンとセブンがお互いに顔を見合わせた。
かと思うと、急に俺の方へ視線を滑らせてきて……んっ?
なんだよ、その目は?
や、やめろよ? 妊娠しそうだ。
「セブン、ゼットン……アンタらを殺るのは、キングジョーを始末したあとよ。それまで身体を震わせながら待ってなさい」
行くわよ、アンタら。
早乙女は短くそう告げると、その横に居た小っこい女の子が、意外そうな声をあげた。
「いいの、乙女? ここでキングジョーを殺らなくて?」
「流石にセブンとゼットンも相手にしながらだと、この人数じゃ足りないのよ。今日は一旦引くに限るわ」
早乙女は俺達に背を向け、スタスタッ! と丁字路を曲がって行った。
その後ろを30人近い男女が、慌てた様子で着いて行く。
……結局ナニがしたかったんだ、アイツは?
「お、お兄ちゃん……」
「あぁ」
不安気な声をあげる義妹に、俺は静かに頷いて同意した。
どうやら、今年の夏は一際騒がしくなるらしい。




