表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/30

プロローグ それは1年前の出来事

新連載(おそらく30話前後で完結)始めました!

「――気に喰わねぇ。そう思うだろ、おまえも?」




 不意に男性の声がした。


 ピリついた空気に似合わない、落ち着いた声音。


 あまりにも似合わな過ぎて、目の前の光景が夢じゃないかと思ったほどだ。




「数人の色男が、嫌がる1人の女に寄ってたかって……テメェらそれでも日本男児か? キンタマはちゃんとついてんのか?」


「な、なんだテメェはっ!?」

「いや、ちょっと待て! こ、コイツはっ!?」

「き、キングジョーッ!? キングジョーだっ!?」

「な、なんであのキングジョーが、こんな所にっ!?」




 ボクを囲っていた数人の男たちが、一気に気色ばんだ。


 彼はそんな彼らの事など眼中に無いかのように、脇をすり抜け、ボクの前で片膝をついた。




「大丈夫か? あ~あ、可愛い顔が涙でドロドロだよ。ほら、ジッとしてろよ?」




 そう言って、白いハンカチでボクの目尻を(ぬぐ)う彼。


 白いハンカチが、ボクの汗と涙で汚れる。


「あ、ありがとう……ございます」と、ボクが弱々しく呟くと、彼は「どういたしまして」と柔らかく笑った。


 ボクは彼を知っている。


 彼の名前は、金城優くん。


 ボクが通う『私立マリア女子中学』でも話題になった、ここら一帯の不良さん達が名前を聞いただけで恐れ(おのの)く高校1年生で、そして――




「俺の目の前でレディーを泣かせたんだ。覚悟は出来てるんだろうなぁ?」




 ――喧嘩最強の不良さんだった。




「10秒やる。神への祈りを済ませろ」




 瞬間、彼の身体から尋常ならざるプレッシャーがあたりに充満し始める。


 息が苦しくなるほどの圧迫感を前に、数人の男たちの顔色が悪くなる。


 肌が痛むほど、細胞が粟立(あわだ)つ。


 おそらく彼らも、ボクと同じで、理解してしまったのだ。


 彼は『別格』である、ということに。


 もはや生物として別次元に存在していることを、頭よりも先に、本能が理解してしまった。




 ――彼に喧嘩を売ってはならない、と。




「や、ヤヒコやばいって!? キングジョ」に喧嘩を売るのは、流石にヤバいって!?」

「ビビんな! 相手は1人だぞ!? コッチは5人居るんだ。全員で囲めば問題ねぇ!」

「でも相手は、あの西日本最凶の喧嘩屋チーム『グレムリン』をたった1人で潰した、イカレ野郎だぞ!? 人数なんてあってないようなモンじゃねぇか!」




 うぐぅっ!? とヤヒコと呼ばれた男が(うめ)いた。


 その間にも、金城さんの口からカウントが刻まれ続けていた。




「3、2、1……ぜろ。はい、時間切れ。それじゃ、少しキツめのお仕置き、いくぞ?」

「う、うるせぇっ! ちょっと名前が売れてるからって、調子に乗るなよ!?」




 男の1人が、拳を握り締め、金城さんに襲い掛かる。


 瞬間、金城さんの拳が、殴りかかって来た男の人の顔面にめりこんだ。




「パルコッ!?」




 謎の悲鳴を残しながら、明後日の方向へと吹き飛んで行く男性。


 ボクが「あぶないっ!」と声をあげるよりも先に、決着は刹那についた。


 に、人間って、地面に垂直であんなに飛ぶモノなの?


 軽く6メートルほど飛んで行ったよね、今の?


 金城さんの人間離れした腕力に、思わず身震いしてしまう。




「や、ヤヒコッ!?」

「お、金城テメェ!? よくもヤヒコを!」

「や、やっぱり無理だよ!? 逃げようよ!?」

「うるせぇ! 全員で一斉にかかれば、大丈夫だ!」




 行くぞっ! と、残りの4人が、一斉に金城さんに襲い掛かる。


 が、そこにはもう、金城さんの姿はなかった。


 スキンヘッドが風を切り、宙を舞う金城さん。


 着地点は、男たちの背後。




()ぇよ」




 円舞のような、顎へ綺麗な右フック。


 それだけで、簡単に男達の意識を断ち切る姿は、まさに鬼のようであった。




「残り3」

「~~~~~ッ!? 調子に乗るなよ、クソガキがぁぁぁぁぁっ!」




 獣のごとき咆哮と共に、男の1人の拳が、金城さんの顔面に迫る。


 が、それよりも速く、彼の繰り出したアッパーが、男の顎を打ち抜いた。


 ふわっ! と、浮き上がる男の身体。


 そのまま綺麗な孤を描きながら、背後へと吹き飛んで行く。




「残り2」




 もはや(まばた)きするヒマもない。

 

 ――暴力の化身が、そこに居た。





「メンドクセェから、2人(まと)めてかかってこい」

「こんのっ!? タロウ、挟みこめ! 一気に仕留めるぞ!」

「了解ッ!」




 男2人は、彼女を挟みこむようにして、距離を取る。


 助けに行かなきゃ! と思うのに、身体が動かない。


 いや、違う。


 身体の方が理解しているのだ。


 ここは彼の舞台。


 何人たりとも踏み入る事が許されない、彼だけの世界。


 邪魔しようモノなら――




「まったく。歯ごたえのねぇ奴らだ」




 ――『あぁ』なる。


 呻き声すらあげることなく倒れていく、男たち。


 気がつくと、不気味なまでの静寂が、辺りを支配していた。


 立っているのは、彼1人。


 男達の返り血で、頬に一筋の血が滴る。



 ……キレイだと思った。



 圧倒的なまでの力。


 そこには『善』も『悪』も超えた、究極の『美』があるような気がした。




「ふぅ……おっ?」




 ボクが彼の姿に見惚れていると、金城さんは地面に落ちていたボクの財布を拾い上げ「おーい」と声をあげた。




「えっと、英語で『コレは貴女(あなた)の財布ですか?』って、なんて言えばいいんだっけ? Do you have……?」


「あっ、日本語で大丈夫です」


「そうなの? よかったぁ~。俺、英語はちょっぴり苦手でさぁ! 綺麗な金髪だったから、てっきり外国の人かと思ったぜ!」




 ふわっ! と、どこか誤魔化すように笑う、金城さん。


 先ほどまでの鬼神がごとき活躍をしていた人とは思えないほど、やさしい雰囲気を感じる。


 今まで会ったことがないタイプの、不思議な男の人だった。




「ち、父がロシア人で、日本とのハーフなんです」

「そうなんだ。あっ、コレ。お嬢さんの財布かな?」




 金城さんは可愛らしい装飾のついたボクの財布を見せながら、ニカッ! と笑った。


 途端に、ボクの身体に緊張が走る。


 ど、どうしよう?


 助けた【お礼】にお金を要求されるのかな?




「そ、そうですけど……」

「そっか」




 うぅ……っ!? せっかく助かったと思ったのに、またカツアゲされちゃうのかなぁ?


 なんて思っていると、



 ――ぽんっ!



 と、ボクの手に財布が置かれた。


 ……へ?




「はいコレ。カツアゲなんて、災難だったな?」




 そう言って金城さんは、とくに何かを要求する事なく、ボクの財布を返してくれた。


 呆然としているボクが、気になったのだろう。


 金城さんは不思議そうに小首を傾げながら「どったべ?」と口をひらいた。




「いえ、その……。お金、とらないんですか?」

「お金? なんで?」

「何でって、その……助けてくれたお駄賃代わり……」




 金城さんは「いらねぇよ」と、少しだけ不機嫌な顔になって、




「その財布の中に入っている金が、どういう金かは知らねぇよ。でも、その金は親御さんが汗水垂らして働いてくれた【お金】だろ? なら、そう簡単に渡しちゃダメだ」

「あっ……」




 その瞬間、ボクは自分が恥ずかしくなった。


 人を見かけで判断し、お金で解決しようとしてしまった。


 自分の矮小が、なんだかとっても恥ずかしくって……金城さんと目を合わせる事が出来なくなってしまった。


 目を伏せ、黙りこくっているボクを見かねて、金城さんは申し訳なさそうな声音で、




「ちょっと説教臭かったな。ゴメンよ? それじゃ、俺はそろそろ行くわ」




 そう言って、どこかへ歩き出す金城さん。


 そんな彼の去りゆく後ろ姿に思わず、




「あ、あのっ!」




 と、気がつけば声をかけていた。


 理由は分からない。


 唇が勝手に動いていた。


 それはもう、論理的な思考だとか、冷静な判断とか、全てをかなぐり捨てた直感的な行動だった。




 ――もっとお話がしたいっ!




「うん? どうした?」

「えっとぉ……名前。そうっ! 名前を教えてください!」




 本当は知っていたが、もっとお話したい一心で、ボクは必死に唇を動かした。


 ボクの心の内側なんて、もちろん知らない金城さんは、どこまでもまっすぐな瞳でボクを見つめながら、




「名前? 別にいいけど。え~と……お嬢さん、名前は?」


「あっ! ご、ごめんなさい!? 雨晴(あまはら)です。雨晴コガネです。私立マリア女子中学に通う、3年生です」


「1個下だったのか。随分大人びて見えたから、同い年かと思ったぜ」

「それで、そのぅ……お名前は?」

「おっと、ごめんよ。俺は森実高校に通う1年A組所属の、金城(きんじょう)(ゆう)だ。よろしくっ!」




 そう言って無邪気に笑う金城さんを前に、



 ――とくんっ。



 と、大きく跳ねた自分の心臓に、ただただ困惑した。

少しでも『面白かった!』と感じたら、ブックマークとポイント評価のほどをお願いします!


よければ、腐れゴミ虫が書いた『砂糖 甘め 濃いめ 硬め』で仕上げたもう1つの作品、


《俺のことが好き過ぎて、『女神』と呼ばれている学校1の美人姉妹が【ヤンデレ】化しました!?》(https://ncode.syosetu.com/n5477hz/)


も興味があれば読んでくれると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 森実ということはシロウ達とコラボとかあります!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ