8:殺害動機
◆殺害動機◆
「え~っと、……ジェンマ? さん。ファウスト様と交際していたんですか?」
「そうよ!」
「違う! 無関係だ!」
菊花が尋ねると、ジェンマは肯定し、ファウストは否定した。
「ラブレターを貰いましたか?」
「……クロリンダ様にバレたら困るから、貰ってないわ」
「どのようなプレゼントを貰いましたか?」
「……それも、クロリンダ様にバレたら困るもの」
菊花から質問されたジェンマは、考えるように間をおいて答えて行く。
「何方から告白しましたか?」
「両想いなんだから、告白なんて必要無いわ」
「どのような話をしましたか?」
「心で通じているから、話なんてしなくても大丈夫なの」
これは無い。
ただの思い込みではないか。
「どうして、殺したんですか?」
「ファウスト様と結婚させない為よ」
「勝手な事を! 私は、お前がクロリンダを殺した所為で、ダリラに嫌われたんだぞ!?」
「他人の所為にしないでください」
ファウストがジェンマに怒りをぶつけると、菊花が怒りの滲む声で諭す。
私は、ファウストのダリラへの思いも、ジェンマと同じように異常なのかもしれないと思ってしまった。
「貴方がダリラさんに軽蔑されたのは、貴方自身の言動の所為です」
ダリラがファウストを軽蔑はしているかは判らないが、菊花はそう思っているのだろう。
或いは、ファウストにダメージを与える為に、敢えてそう言ったのかもしれない。
「ダリラさんが殺害したと決め付けたのも、自殺に見せかけると決めたのも、貴方です。違いますか?」
「そ、それは……」
「ダリラさんが殺害したと決め付けた事を謝罪せずに愛を告白したのも、貴方自身でした事ですよね?」
菊花の機嫌がかなり悪い。
ジェンマの異常さにあてられたのか?
「まさかとは思いますが、ダリラさんへの愛情が、事後共犯の免罪符になると思っている訳じゃありませんよね?」
「……そんな事は無い」
ファウストが大人しくなったのは、これ以上ダリラに嫌われまいと思っての事だろうか?
「所で、ジェンマさんはどのような罰を受けるのでしょうか?」
「クロリンダは王族では無いが、陛下の血族だ。本人の死刑は確実で、縁座もあるだろう」
「なるほど。ジェンマさんにとって、クロリンダ様を殺害する事でファウスト様を他の女性と結婚させると言う目的は、自身と家族全員の命以上の価値があったんですね」
かなり意地の悪い解釈だが、確かに、ファウストが罪を犯さなかったならば、ジェンマではない別の女と結婚しただろう。
「何言ってるの! ファウスト様と結婚するのは、私よ!」
「真っ先に怪しまれるのは、貴女です。殺人犯として逮捕されるので、結婚出来る訳がありません」
「菊花。ジェンマが犯人と判ったのは、クロリンダがジェンマを引っ掻いたからだろう。もし、そうでなかった場合は、流石に、誰が犯人と断定出来ないのではないか?」
「確かに、そうですね。ですが、状況証拠から、彼女が犯人だと解ります」
菊花に疑問をぶつけると、そんな答えが返ったので、私は驚いた。
「状況証拠?」
「はい。ジョバンニさんならば気付いていたと思いますが、クロリンダ様の寝室には、寝間着が用意されていなかったんですよ。普通、主の寝間着を用意せずに寝るなんて、無いですよね?」
「そ、そうだな」
言われてみれば、その通りだ。
クロリンダは着替えていなかったのだから、仕事を放棄して勝手に寝た侍女など、真っ先に疑われるだろう。
「ファウスト様が自殺に見せかける工作なんてしなければ、犯人は容易く判ったんです」
ダリラが殺したと思い込んで、事件を無駄に複雑にしたファウストに、冷たい視線が集まった。