6:1
◆事後共犯容疑者◆
「さて、次は、どうやって絞り込みましょうか?」
「鍵が掛かっていたのだから、鍵を管理している執事が怪しいだろう」
ファウストの言葉で、私は、寝室に鍵が掛かっていた事を思い出した。
「ジョバンニさんですか? そう言えば、犯人は、何の為に鍵を掛けたんでしょうね?」
「自殺以外に有り得ないと思わせる為じゃないか?」
ダヴィデの推測が正しいと思う。
「殺人だとバレた場合に、ジョバンニに罪を着せる為じゃないかな?」
エドガルドも、自分の推測を口にした。
「ジョバンニが犯人ではない場合、合鍵をどうやって用意するんだ?」
「それは……」
ファウストの疑問に、エドガルドは言い淀んだ。
言いたくなかったのだろう。
合鍵を用意出来るとすれば、それは……。
「ダヴィデ様とその家の人ならば、用意出来ますね」
ダヴィデと友人関係に無い菊花は、疑って友情が壊れる事を不安に思う訳も無い為、躊躇い無く答える。
「なるほど。しかし、それだと計画犯罪だな。それならば、もっと不自然ではない方法を考える時間があった筈」
「そうですね」
ダヴィデの反論を、菊花は否定しなかった。
「まあ、合鍵の事は、一旦忘れましょう。使用されたか判りませんし」
「何を言っている? 鍵は寝室の中に在ったのだから、合鍵で掛けるしかないじゃないか」
ファウストの言う通りだ。
「いいえ。寝室に鍵が掛かっている時に、寝室の中に鍵が在ったかどうか誰も見ていませんから、我々が合鍵で開けた後に、犯人が鍵を室内に入れた可能性があります。初歩的なトリックですね」
そう言われると、確かに誰も見ていない。
窓が在る訳でもないので、室内が見えないからな。
しかも、扉を開けて、直ぐに鍵が目に入った訳じゃ無い。
隙を見て、犯人が鍵を落とした可能性は否定出来ない。
「何故解った?!」
驚いたようにそう言ったファウストに、菊花が冷たい目を向けた。
「本で読んだ事があるからですが、今の発言は、自白と取っても宜しいですか?」
確かに、まるで、菊花が正解を言い当てたかのような発言だった。
「言葉の綾だ。これしきの事で、犯人と決め付けるんじゃない!」
「そうですか。では、クロリンダ様のご遺体を発見した際、『もう死んでいる』と判ったのは何故です?」
そう言えば、そんな事を言っていた気がするな。
「見れば判るだろう。全く動いていなかったのだから」
「随分冷静だったんですね。婚約者が首を吊っていたのに」
「冷静で悪いか?」
「悪くはありませんが、暗かったのに、よく見えましたね」
あの時、悪天候により日の光が差さず、室内は暗かった。
稲光で照らされた一瞬では、生死の判別は出来なかったと思う。
「か、完全に暗かった訳じゃない。居間の明かりもあったし」
「ほ、本当ですか? 実は生きてたのに、ファウスト様の勘違いで手遅れになった訳じゃ……」
ダリラが、あの時まだクロリンダが生きていた可能性を考え、顔色を悪くしていた。
「違う! とっくに死んでたんだ!」
「とっくに死んでいたと、何故言い切れるんですか?」
疑いを晴らそうとしたファウストの言葉を、菊花が追及する。
「……お前達! 何故、私を庇わない! 我等の友誼は、この程度だったのか!?」
何故言い切ったのか弁明せず、ファウストは我々を薄情だと責める。
「……庇いたい気持ちが無い訳では無いが、クロリンダも友人だからな」
ダヴィデの返答に、誰も異論は無いようだった。
「その犯人は、例え友情が壊れようとも、明らかにしなければならない」
しかし、ファウストが犯人ならば、動機は何だ?
誰かを庇った共犯?
誰を庇う?
……女か?
私は、悲し気に俯いているダリラに目を遣った。
彼女は、華やかで目を引く風貌のクロリンダとは、違うタイプだ。
性格も、この短期間の印象では控えめな大人しい人物に見える。
ただ、それは、我々が彼女より身分の高い貴族だからかもしれない。
身分の違いを考え、素の性格を出さないと言う事は、珍しくないだろう。
しかし、彼女がクロリンダを殺害する動機は、あるのだろうか?