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4:3

◆殺人の根拠◆


「では、クロリンダ様のご遺体は、この館で一番涼しい場所に保管してください」

「はい。では、地下室に」

「あ、ちょっと、待ってください。全員で行きましょう」

「え?!」


 菊花の提案に、全員が驚いた。

 既に、ダリラも意識を取り戻している。


「クロリンダ様は他殺です。この天気ですから、館の中にいる人物が犯人でしょう」

「何を根拠に他殺だと!」


 ファウストは、機嫌が悪いようだ。

 菊花は平民だから、生意気だと思っているのかもしれない。


「クロリンダ様が自殺では無いと、不都合なのでしょうか?」

「……話を逸らすな! 平民風情が! 根拠が無いなら、他殺だなどと言うんじゃない!」


 菊花は、怒鳴り声が五月蠅かったのか、身を竦ませた。


「申し訳ございません。尊きお方ならば、ご自分でお気付きになると思ったのですが。平民風情がご説明申し上げても、プライドは傷付きませんか?」

「ファウストは、普段はこんな人じゃないんだ。きっと、クロリンダが亡くなったからだよ」


 慇懃無礼な菊花に、エドガルドがフォローする。


「そうですか」


 菊花は、エドガルドの言葉を信じていないようだ。

 無理も無い。

 彼女は、普段のファウストを知らないのだから。


「では、地下室へ行きがてら、ご説明しましょう」




 先頭は、シーツを応急担架としてクロリンダの遺体を運ぶ下僕達、殿(しんがり)が、談話室にテーブルを戻す下僕達、その他は、その間を歩く。


「自殺では無いと言う根拠の一つは、椅子です」

「椅子? 普通の椅子だったと思うが」


 一般的な高さの椅子だった筈だ。


「問題は、あの椅子では、クロリンダ様は首を吊れないと言う事です」

「あ! そうか。下僕達がクロリンダの遺体を降ろす為に、脚立やテーブルが必要だったのだから、同じ位の身長のクロリンダには高過ぎる!」


 エドガルドが気付いたように、勿論、私も気付いたとも!

 思い返せば、首を吊ったクロリンダのつま先は、椅子の座面から大分離れた高さにあった。


「そうです。あの椅子であの高さに自分で首を吊れるのは、ファウスト様・ダヴィデ様・エイドリアン様の三人だけです」


 それは、つまり、この三人の中に犯人がいると言う事ではないか。

 無論、私ではない。


「あ、あの。他殺の根拠が一つではないように、言っていませんでしたか?」


 ダリラが尋ねた時、ちょうど、地下室の入り口に着いた。


「そうですね。ですが、その前に、私達以外の人物が館に忍び込んでいる可能性を潰す為に、捜索しましょう。先ずは、地下室からです」




 結論から言えば、館の何処にも第三者はいなかった。


「共犯者がいれば、侵入者は外の物置に隠れて共犯者が鍵をかけると言う事も出来ますが、まあ、確認したくないですし、此処まで調べればもう、侵入者はいないと考えて良いでしょう」


 そう言った菊花のように窓の外を見るまでも無く、嵐は(いま)だ止まない。

 疲れたので、全員談話室で紅茶を飲んで一休みしている。


「これで、犯人候補は我々三人に絞られた訳だ」


 ダヴィデが、避けて通れない話題に触れる。


「でも、我々の誰かに罪を擦り付ける為の工作……と言う可能性もあると思わないか?」

「そうですね。ですが、現実的ではありません」


 菊花は、ダヴィデに反論する。


「自殺に見せかける方法は幾らでもあります。自殺では無いとバレた時の為に、背の高い人物に罪を擦り付けられるように、自殺では無いとバレるような工作をするとは思えません」


 確かに、それだと本末転倒だな。


「自殺に見せかけるのが目的ではなく、我々に罪を擦り付けるのが目的なのでは?」

「普通に殺して、貴方方の誰かのボタンか何かを被害者の手に握らせておくとか、方法は幾らでもあります。自殺に見せかけるのが目的でないならば、それに労力を割くメリットがあるでしょうか?」


 其処まで言って、菊花は何か思いついた様な顔になった。


「もしかして、自殺に見せかけると罪が重くなりますか? それならば、より重い罪を着せると言うメリットになりますよね」

「そんな前例は、無い筈だ」


 エドガルドが答える。


「そうですか。後、考えられるのは、犯人を庇う為に、犯人と違って背が高い三人が疑われるようにした可能性ですね」

「そうなると、全員怪しいと言う事に戻るな」

「はい」



 菊花は、茶菓子に手を付けながら、話を変える。


「さて、自殺ではない他の根拠ですが、首を吊っていたロープですね」

「長さか?」


 もっと下の方まで長さが在れば、首吊りの高さが不自然では無かっただろう。


「それもありますが、被害者の首周りのロープですよ」

「何かおかしかったのか?」

「はい。皆さんがもし首を吊る時、ロープをどうしますか?」

「どうと言われても」

「ロープをフックにかけて輪を作ってから首を吊りますか? ロープを首に結んでからフックに引っ掛けて自分の体を吊り上げてから、落ちないようフックに結び付けますか?」」


 菊花がおかしな事を言い出したので、私は呆れた。


「自分の体を吊り上げてから、フックに結び付けるなんて、出来る訳ないだろう」

「ですが、ロープは、クロリンダ様の首の後ろで一旦結ばれ、その後、フックにロープを結んだ。そう言う結び方だったのです」

「なるほど。椅子の高さから見ると、殺人でしかないな」

「はい。仮に、フックが椅子に乗ったクロリンダ様の手が届く高さにあったとしても、自分で結ぶならば後ろ手で結ばないといけないと言う、自殺にしては不自然な結び方でした」


 犯人が誰なのか知らないが、本気で自殺に見せかけるつもりはあったのだろうか?


「それと、首のロープ痕が、首を一周していたのも殺人の証拠ですね」

「それが証拠? 首の後ろで結ばれていたんだろう?」

「自分で結ぶなら、痕が付く程きつく結ぶでしょうか? それに、普通に首を吊っても首の後ろに体重は掛からない筈なのです」

「つまり、誰かがロープを交差して首を絞めてから、吊るしたのか」

「そうでしょう」


 ロープの結び方と首を吊る高さがおかしくなかったとしても、首を絞めた痕で殺人だとバレたと言う訳か。


「もしかしたら、首の後ろのロープ痕を誤魔化す為に、首の後ろで一旦結んだのかもしれませんね」


 首の後ろで結んだ所為で痕が付いたのだと、思わせる為にか。

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